第2話 人生で最も長い一日②

「アンゴルモアのフェイズは引き継がれる……」


 それは、あまりに絶望的な知らせだった。

 俺たちの、いや人類のアンゴルモア対策は、アンゴルモアがフェイズ1から始まることを前提に考えられていた。

 その前提が崩れれば、当然すべての戦略に狂いが生じることとなる。

 ……だが、よくよく考えてみれば、アンゴルモアの度にフェイズがリセットされる保証など、どこにもない。

 第一次が、たまたまフェイズ1で終わり、第二次もフェイズ1から始まったことで、アンゴルモアはフェイズ1から始まるという固定観念が出来ていたに過ぎない。

 おそらく学者や官僚たちの中には気づいている者もいたのだろうが、民衆に対してはTVを通じてアンゴルモアはフェイズ1から始まるという思い込みが刷り込まれていた。

 理由は簡単。民衆が知ったところで、百害あって一利なしだから。

 俺たちは、知らず知らずのうちにメディアと政府によって誘導されていたのだ。


 ……なんにせよ、戦略の修正が必要だ。

 今がすでにフェイズ3だということは、すでにBランクモンスターが地上へと向かっていることだろう。

 いや、それだけではない。すでに出現しているであろう新たな迷宮から、モンスターが溢れ出している可能性がある。

 そう思い至り、上空を移動するイライザたちの眼から地上を見下ろしてみるも、今のところモンスターが地上を徘徊している様子はなかった。


 ……フェイズの進行と、新規の迷宮からモンスターが溢れる現象に関係はない?


 いや、今はそんな考察をしている場合じゃない。

 とりあえず考えるべきは……。


「アンナ。今、最寄り駅ごとに班を作って、生徒たちの家族を迎えに行かせようとしているところなんだが、フェイズ3まで進行しているなら、どうすべきだと思う?」


 俺は、フェイズ3だろうが4だろうが何としてでも家族を迎えに行くが、他の部員たちはそうはいかないだろう。

 いくらDランクカードを持っていようと、フェイズ3ではBランクモンスターと遭遇した時点で死確定だ。


「そう……ッスね。中止……いえ、希望者はそのまま行かせてください。フェイズ3とはいえ、モンスターが階層を移動するのはそれなりの時間がかかります。モンスターが地上にあふれ出すまでにはまだ余裕があるはず。今が、家族と合流できる最初で最後のチャンスでしょう」


 確かに、今を逃せば生徒たちが家族と合流できるチャンスはないか。

 固唾を飲んで俺とアンナの会話を見守っていた生徒たちが、その言葉を聞いて体育館の外へと駆け出して行った。

 その中に四之宮さんの姿を見かけたので、呼び止める。


「四之宮さん!」

「な、なに!?」

「悪いんだけど、フェイズがすでに進んでる件、牛倉さんにも伝えておいてくれる? 家、近いんだよね?」

「あ、うん! 大丈夫、そのつもりだったから」


 俺が言うまでもなかったか。

 そのまま外へと駆けていく四之宮さんを見送り、俺も蓮華たちへとテレパスを飛ばす。

 ちょうど、小学校では、お袋と愛が合流したところだった。


『蓮華。お袋と愛だけでも強引に連れてこい。愛はこっちで説得する』

『了解。ま、もう説得の必要はねーけどな』

『? どういう……?』


 俺が問いかけようとしたその瞬間、笛の音色と共に蓮華たちの視界が一変した。

 小学校から、どこかの路上へと景色が切り替わる。

 ダンジョンマート……? これは、先ほどまで俺と師匠が潜っていた迷宮か!


「先輩!?」


 アンナの声を背に、すぐさま体育館の外へと飛び出す。

 そのまま先ほどの迷宮の方へと視線を向けると、マイラに乗って学校へと向かってくるのが遠目に見えた。


『まさか、ハーメルンの笛で転移してきたのか!?』

『イエス、マスター。どうやらアンゴルモア中は、地上でも転移できるようになるようです』

『おお!?』


 まさかハーメルンの笛にそんな効果があったとは……! 他の転移の魔道具は、変わらず迷宮内でしか使えないままだってのに!

 マイラが学校の校庭に着陸する。真っ先にピョンと飛び降りてきたのは、我が家の愛犬マル。

 マルはそのまま一直線に俺の元――――を通り過ぎて、斜め後ろで侍っていたユウキ目掛けて駆け寄っていく。

 ……まあ、わかっていた。この馬鹿犬が、俺を頼りにするわけがないなんてことはな。

 続いて、お袋と愛も降りてくる。そのまま二人は、青い顔でへなへなとへたり込んだ。


「歌麿……アンタいつもこんな風に移動してるの?」

「こ、怖かった……」


 ああ、うん、まあ、慣れないうちは怖いよな。

 慣れたら魔道具での飛行よりむしろ安心感があるんだが。

 なんにせよ、これで第一目標だったお袋と愛の回収は済んだか。


『マスター、こちらを』


 そう言ってイライザが渡してきたのは、家の地下室に保管していた魔道具類の入った金庫とガーネットが入った袋だった。


『カード類は、お母上が。ガーネット類はマスターが使うこともあるかと、こちらにわけておきました』

『ナイスだ、イライザ』


 家の物資を回収するだけでなく、俺がすぐ使う可能性のあるガーネットを分けて渡してくれるとは……。本当に気が利くようになった。

 金庫は部室に置いておくとして……ガーネットはこのまま俺が持つとしよう。何が起こるかわからないからな。

 そんな風にイライザとやり取りをしていると、愛がおずおずと話しかけてきた。


「お兄ちゃん……あの、学校の友達についてなんだけど」

「ああ、わかってる。これからギルドに皆連れてってやるから安心しろ」


 いつになく遠慮がちに言ってくる妹に、俺は皆まで言うなと強く頷き返した。

 フェイズ1までならともかく、すでにフェイズ3まで進行していることがわかった以上、ここで何もしなかったら見殺しにするも同然だ。

 さすがにそれは、後味が悪い。

 この学校に連れてくることは色々と難しいが、ハーメルンの笛の新たな効果もわかった以上、ギルドに送り届けることくらいわけない。

 俺の答えに、愛もホッとした笑みを浮かべる。


「うん! ありがとう、お兄ちゃん!」

「ああ。……そういうわけで、すまんがちょっと小学校へ行ってくる」


 俺はいつのまにか傍にやってきていたアンナへと、ハーメルンの笛で地上も転移できるようになったことを簡単に説明し、小学校の子供たちをギルドへと送り届けてくる旨を告げた。


「わかりました。……あの申し訳ないんスけど、そういうことなら家族と合流した班員の回収って可能ですか?」


 ふむ……班員の回収か。

 可能か不可能で言えば可能だろうが、問題は班員を回収しながら、Bランクモンスターが地上に溢れだすまでに親父を回収できるかだな。


『イライザ、転移の仕様はどうなってる? 行ったことのない場所にも転移できるのか?』

『……いえ。転移できる範囲は、アンゴルモアが始まってからハーメルンの笛が通ったことのある地点だけのようです』


 申し訳なさそうに首を振るイライザだが、それでも十分過ぎる効果である。

 迷宮内でしか使えなかった頃と比べて格段に自由度が上がっている。

 そういうことなら、たぶん大丈夫だな。

 ワイバーンの平常飛行速度は、ハヤブサ以上。ここ立川から親父の職場がある池袋まで十分もかからない。

 班員たちの回収をしてるうちに、転移範囲も広がるだろうし、十分間に合うはずだ。


「了解。各班が駅まで着いたら連絡してもらって良いか? それとそこの金庫も部室へ運んでおいてくれ」

「了解ッス。最寄り駅ごとに一人は予めカードギアを渡してあるんで、ウチの方から連絡……あっ!」

「どうした!?」

「い、いえ……」


 なにかあったのかと問いかける俺に、アンナは悔し気に顔を歪め、地団駄を踏んだ。


「くぅ~! ……絶好のチャンスなのに、こんなこともあろうかとって言い忘れた!」

「あ、そう……」


 余裕ッスね、アンナさん。逆に頼もしいけどさ。

 ってか、あっさり班長が決まったり、ソイツらがカードギアを持ってたのは、アンナの仕込みだったのか。

 まあ、確かに「こんなこともあろうかと」と言っていいだけのシチュエーションと労力ではある。……言い損ねたけど。

 アンナのおかげでいい具合に脱力した俺は、イライザへと振り返った。


『よし、まずできるだけ八王子駅に近いところに転移してくれ』

『イエス、マスター』


 マイラに乗り込んだ状態で、ハーメルンの笛で転移する。

 そこから八王子駅の付近まで飛ぶと、そこには大量の人が群がっていた。

 北口も南口も、まるで昆虫の死骸に群がる蟻のように人々が密集している。


「これは……酷いな」


 我先に避難所に入ろうとしている人たちが押し合いへし合いして、あちらこちらから怒号や子供の泣き叫ぶ声で、まさに地獄絵図だった。

 ギルドの人員が、群衆の整理を行おうとしているが、完全に焼け石に水状態。誰も言うことを聞かない結果、より避難が遅れるという状態となっていた。

 これ、下手したら、モンスターがあふれ出すまでにギルドのシェルターに入れないんじゃ……。

 仕方ない。


『蓮華、アムリタの雨を頼む。もちろん例のヤツは抜きでな』

『あー、了解』


 アムリタの雨は、精神すらも癒す完全回復魔法だ。混乱や恐慌といった精神状態であっても平常時に戻す。

 いささか贅沢な使い方ではあるが、この場では最適な使い方だった。


「な、なんだ……?」「綺麗……」「あ、足が……!」


 降り注ぐアムリタの雨に、人々がぽかんと上空を見上げる。

 何が起こったのかは理解していないようだが、少なくとも先ほどまでの混乱状態は脱したようだった。

 ギルド職員も一瞬呆気に取られていたが、すぐに我に返り避難民の誘導を再開する。

 先ほどまでの混雑ぶりが嘘のように、地下シェルターへの入り口に吸い込まれていく人々。

 それを見下ろしていると、こちらへ背に翼の生えた天狗らしきモンスターが飛んでくるのに気付いた。

 大天狗……いや、Cランクにしては威圧感がある。それにあの赤い鳥の面と翼、Bランクの迦楼羅か!

 だとすればマスターは……。

 俺の前にやってきた迦楼羅が口を開く。


『北川さん! 私です、重野です』


 迦楼羅を通してそう語り掛けてきたのは、俺の予想通りの人物だった。

 やはり、この八王子ギルドでBランクカードを使役し、このタイミングで俺に話かけてくるとすれば、重野さん以外いないだろうと思っていた。

 

『いやあ、助かりました。ありがとうございます。もしかして、ギルドへ避難しに来たのですか?』

「あー、いや、ちょっと様子を見に来たところです。それよりも重野さん……」


 俺は、アンゴルモアがすでにフェイズ3となっている可能性について伝えた。

 全国規模の組織であるギルドのことだ。すでに知っている可能性も高いが、現状で俺たちが最速で知っている可能性もある。

 残念ながら、その懸念は当たっていたようで……。


『マジ、か……』


 俺の言葉を聞いた重野さんは、絞り出すようにそう言った。


『そんな報告届いてないぞ……上は何をしてるんだ……』

「あの……」

『ああ、いえ、すいません。教えてくださってありがとうございます』

「いえ、それで、妹の通っている小学校の子供たちを、こちらのギルドに避難させたいと考えているんですが……」

『ああ、そうですね……。フェイズ3なら、そうした方が良いでしょう。……申し訳ございませんが、お願いしても良いですか?』

「はい。ありがとうございます」


 よし、これでギルドもフェイズ進行の情報は共有したな。あとは、勝手に各避難所に伝えてくれるだろう。

 重野さんと話を付けた俺は、続いて愛の小学校へと転移した。

 突然、校庭の上空に現れた俺たちに、グラウンドに集まっていた子供たちがざわめき指をさしてくる。

 俺は教師たちが集まっているあたりへとマイラを着陸させた。


「君! 突然何の……もしかして北川か!?」


 駆け寄ってきたやせ型の中年教師が、俺の顔を見て驚きの声を上げる。

 見れば、俺が小6だった時の担任だったスギセンこと杉山先生だった。


「杉山先生! お久しぶりです!」

「久しぶりだなあ! お前の活躍、TVで見てるぞ!」

「あー、ははは。恐縮です」

「言葉遣いもちゃんとしちゃってまあ……あの悪ガキだった北川がこんなに立派になるとはなあ。ホラ、覚えてるか? 修学旅行でお前らがエッチなDVDを持ち込んで――」


 なんだかそのまま昔話に花を咲かせそうな杉山先生を慌てて制止し、本題に入る。


「いや、先生。懐かしいのは、俺もなんですが……先に片付けておきたい用事がありまして」

「おお! そう言えば何の用で来たんだ? 北川の妹なら、そこにいるカードたちが攫うように連れて行ったが」

「はい。ここの生徒たちのギルドへの避難をお手伝いさせていただこうと思いまして」

「ギルドへ!? そりゃあ助かる! 実は、今からギルドへ行こうとしていたところなんだ」

「そうなんですか?」


 先生たちもギルドに避難しようとしていたのか。

 どおりで、地下シェルターじゃなくてグラウンドに整列してたわけだ。


「うん、お前のカードが妹を強引に連れて行ったことで、ここも安全じゃないんじゃないかって話になってな……」


 なるほど……。

 一般人よりも確実にアンゴルモアに詳しい冒険者が、血相抱えて家族を連れ去っていったわけだからな。さすがに危機感を覚えたか。


「それと、学校にもいくらかカードを配備されてはいるが……誰もカードをうまく扱える自信がないってのもあってな」


 杉山先生が、言いづらそうに言う。

 そうなんだよなあ。それが問題なんだよ。カードをポイっと渡されて、最初からうまく扱えたら冒険者なんていらないわけで。

 カードを使いなれている冒険者ですら、他の人を守るのは大変なんだから、ただの素人がたった数枚のカードで何十人、何百人という人たちを守り切れるわけがないのだ。

 まあ、無いよりよっぽどマシなんだけどさ……。


「お前がこのままここにいてくれるなら、カードもお前に預けて良いって校長たちも言うと思うが……?」

「すいませんが……」

「だよな……。すまん、忘れてくれ、大人として情けないことを言った」

「いえ」


 杉山先生はそういうが、別に情けないとは思わない。

 教師が考えるべきは、教え子の身の安全だ。俺がここの護りにつけばそれだけ子供たちが安全になるのだから、ダメ元でも頼み込むのは当然のことだ。蓮華たちを留め置こうとしたのだって、結局はそれだ。

 なりふり構わず子供たちを守ろうとする大人たちを、俺は見っともないとは思わない。


「で、ギルドへの避難を手伝ってくれるんだろう?」

「はい。とりあえず、一クラスぐらいずつ俺の周囲に集まってもらっても良いですか?」

「わかった」


 転移系の魔道具は、使用回数や転移先に制限はあっても人数に関しては、特に制限がない場合が多い。

 なので一気に全員運ぶこともたぶん可能だろうが、転移先のスペースを考え、一クラスずつ運ぶことにした。

 低学年から順に、駅前のバスロータリーへと転移させていく。

 その最中、子供たちの親が小学校へ駈け込んできたりもしたので、その人たちも一緒にギルドへと送ってあげた。

 そうしているうちに、とうとう愛のクラスの番がやってきて……。


「マロ兄さん、なんで愛だけ連れてったんです?」

「マロマロ~、ウチらも愛のとこへ連れってってよー」


 俺の顔を見るなり真っ先にそう言ってきたのは、案の定アオイちゃんとミオちゃんのロリ二人組であった。

 これまでは、俺の後ろに控えるマイラなどのカードが怖かったのか、興味深げに見つつも特に声を掛けてくることのなかった子供たちだが、この二人に関しては顔見知りの気安さか平然と声をかけてきた。


「連れて行ってやっても良いけど、そしたらお前ら、親と離れ離れになるぞ。どうせギルドの方に避難するだろ?」

「あー、そっか。そうですね。しょうがない、か」

「だね。どうせマロマロたちもあとでギルドに来るっしょ」


 そんな風に二人を説き伏せていると、目ん玉をキラキラとさせた男子がやってきた。

 う、嫌な予感……。


「あ、あの、北川選手ですよね? キャットファイトのグラディエーターの」

「あー……うん。そうだよ」

「いつも試合見てます!」「あのドラゴン撫でても良いですか?」「ファンです! サインください!」「中学上がったら冒険者になるんで、弟子にしてもらって良いですか!?」


「――――アナタたち! 迷惑かけないでって言ったでしょう!? あなたたちが騒げば騒ぐほど、わ……みんなの避難が遅れるのよ!?」


 俺がどうあしらったものか迷っていると、担任らしき中年の女性がヒステリックな声を上げながら駆け寄ってきた。

 彼女は俺へと媚びたような笑みを浮かべると……。


「ごめんなさいねえ、最近の子供たちときたら、全然大人の言うことを聞かなくって……」


 そう言って頭を下げてくる彼女に、俺がどう対応して良いかわからず曖昧な笑みを返していると……。


「……この先生きらーい」

「ヒステリックばばあ……」


 ロリ二人組が、俺の後ろからこっそり囁いてきた。


『ちなみに、愛を連れていくのを邪魔したのもコイツな』


 そんな二人に、蓮華も補足するようにそう伝えてくる。

 ……あー。なるほど、この人か。確かに、あんま感じの良い先生じゃないな。

 そこへ、杉山先生がやってくる。


「どうしました?」

「杉山先生、いえ、この子たちが騒いで冒険者の先生を邪魔してたもので、ちょっと注意を」

「あー、なるほど。……北川、すまんな。有無を言わさずに連れてちゃってくれ」

「了解です。ほら、みんな並んで並んで」


 そうして、愛のクラスで少しだけ詰まったものの、無事に全クラスをギルドへと送り届け終える。

 ギルド周辺はまだ人混みであふれていたが、ちゃんと列はスムーズに進んでいたので、子供たちもモンスターの氾濫までにはシェルターに入れるだろう。

 最後に残ったのは、校長や教頭などのクラスを担当していない先生たち。

 彼らの元へと向かうと、丸顔で若干赤ら顔の校長先生が、俺へと深々と頭を下げてきた。


「ありがとうございます、北川さん。助かりました」

「いえいえ、じゃあ、先生たちも送りますね」

「ああ、いえ、私たちは結構です」

「え?」


 首を傾げる俺に、校長先生は言う。


「これから子供を迎えに来る親御さんもくるかもしれませんからね。すでにギルドへ避難していることを伝える人も必要でしょう?」

「それは……でも看板とかで良いんじゃ?」

「でしょうね。でもモンスターが溢れ出したら、移動も大変になるでしょう? この学校に配備されたカードでも、少数の親御さんたちを守ってギルドに連れていくことぐらいはできると思いましてね」


 そう言って校長先生は数枚のカードを見せてきた。

 Dランクのウィンチェスターハウスに、Cランクのデュラハン、アマルテイア、それと金剛力士が二枚……。

 なるほど、これが小学校規模の避難所に配備されるカード。……うん、悪くない。

 門神である金剛力士は、阿吽象として寺院の門に安置されることが多いからか、同じ金剛力士同士での二体一対スキルを持つ。

 そのスキル効果は、正面からの攻撃に対する不死と、入口以外からの侵入者の防止。

 ウィンチェスターハウスやマヨヒガなどの家型の異空間型カードと併せて運用することで、グッと安全性が増す防衛特化型のカードである。

 ウィンチェスターハウスは、Dランクではあるがその収容人数に関してはCランクのマヨヒガを大きく上回る。

 その客室数は、デフォルトで百部屋。一応一人部屋ではあるが、子供たちなら複数人を詰め込むことも可能だろうし、食堂や風呂などを潰せば部屋数はさらに増やせる。すべての子供たちを詰め込むことも可能だろう。

 その上でアマルテイアの気配遮断結界で存在を隠し、入口に金剛力士を配備して侵入経路を限定、守りを固める……。

 これなら、フェイズ1までなら鉄壁だろうし、フェイズ2以降もある程度の安全性を確保できるだろう。

 移動に関しても、アマルテイアの気配遮断結界があれば比較的安全に移動できるはず。

 さすがにCランクがあふれ出したら厳しいだろうが、Dランクまでなら……。


「……………………わかりました。でも、モンスターが溢れ出したら、その時点で即ギルドへ移動してください」

「わかってます。重ね重ね、この度はありがとうございました」


 俺はそう言って深々と頭を下げる校長たちに見送られながら、マイラに乗って飛び立った。

 どうか、あの人たちが無事にギルドにたどり着けますように、と祈りながら……。



【Tips】某サイトにおけるマイナススキルの評価基準


うんこっこ:極めて重いデメリットに加えて、解除条件が判明していない。カードの価値をうんこっこにしてしまう恐怖のスキル。その効果は、もはやうんこっことしか表現のしようがない。トレードなどで騙されてこのスキルを持つカードを掴まされた場合は、相手をぶっ殺しても許されるレベル。というか、殺した。


A:通常の使用が出来なくなるほどの極めて重いデメリットがある。実質的な戦力外通告。カードの価値を大きく損なうレベル。

B:大きなデメリットがある。蘇生用カードとしての使用が視野に入ってくる。ドロップした時に持っていると、かなりガッカリするレベル。

C:デメリットのみ。ドロップした時に持っているとちょっと舌打ちするレベル。

D:デメリットがメリットを上回っている。ここら辺から名実ともにマイナススキル認定されてくるレベル。

E:メリットとデメリットが同じくらい。使い方次第。値段への影響はほとんど気にしなくて良いレベル。

F:メリットがデメリットを上回っている。多少癖はあるが、あっても全然気にならない、むしろちょっと嬉しいレベル。

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