第五章

第1話 人生で最も長い一日①

 

 ――――アンゴルモアが始まった。


 その師匠の言葉を聞いた俺は、すぐにダンジョンマートの外へと飛び出した。

 途端に、コンビニのBGMと自動ドアに遮られていたサイレンの音が俺の耳に届いた。


『こちらは、立川市役所です。ただいま、緊急避難のお知らせをしております。大規模迷宮災害が発生しました。くれぐれも落ち着いて、最寄りの避難所へと速やかに避難をお願いします。繰り返します。こちらは、立川市役所です。ただいまー―――』


 街のあちこちからは、そんなスピーカー放送と共に人々のパニックの声が聞こえてくる。

 道路には、乗り捨てられた車が放置されていて、その隙間を縫うように大きなバックを背負った人々が駅の方へと向かっていた。

 彼らの中には、カードらしき獣に乗った者や、人型のカードに守られるように移動している者も多く、アンゴルモアが本当に起こっているのが一目瞭然だった。

 それらを尻目に、まずはカードギアをチェックする。

 時刻は12時04分。アンナと織部からいくつものメッセージが届いており、その中に紛れて家族全員からの無事と現在所在を伝えるメッセージが入っていた。

 どうやら、お袋は家におり、親父と愛もちゃんと会社と学校にいるようだった。

 それに、ひとまずホッと一安心する。


「マロ、とりあえず学校へ行ってみんなと合流しよう!」

「ああ!」


 師匠の言葉に頷き、俺もカードたちを召喚する。

 ユウキに跨って学校へと向かう――――その前に。


「予定通りだ。蓮華、イライザ、メア、マイラはお袋と愛のところへ向かってくれ」


 マイラが、大きな翼と群青色の美しい鱗を持った流線的なフォルムのドラゴン――――ワイバーンへと変身し、カードたちがその背に次々と乗り込んでいく。

 アンゴルモアが始まったら、この四枚のカードを真っ先に家族のところへと向かわせると決めていた。

 八王子までは、ワイバーンへと霊格再帰したマイラに乗って途中の小学校で蓮華とメアを降ろし、黒闇天を召喚。黒闇天、イライザ、マイラの三名で家に向かう……そういう予定だった。

 親父の名前がないのは、職場が遠い(と言っても同じ都内だが)のと、お袋と愛を最優先に動くと二人で話し合っていたからだ。

 今はどこの企業もちゃんとしたシェルターと物資を福利厚生の一環として用意しているし、親父には多めにカードを預けてあるから、なんとかなるだろうという判断である。


「……大丈夫か?」

「大丈夫だ。行ってくれ」


 他のカードたちが全員マイラの背に乗る中、唯一残った蓮華がチラリと師匠を見てそう問いかけてきた。

 それに対し、俺はしっかりと頷き返す。

 ……師匠が国のスパイだったことが発覚した今、自分が傍を離れることを心配する蓮華の気持ちはわかる。が、師匠もそこまで俺に悪意的なわけでも、国に忠誠を誓っているわけでもないだろう。

 おそらく、俺を探ることで第三次アンゴルモアを防げる手段が見つかるなら、程度の気持ちだったはずだ。

 それがもはや手遅れになった以上、師匠が俺を国に売り渡す理由はない。

 ……それに、今なら師匠と敵対しても逃げ切るくらいの力はつけたしな。

 あえて言葉にしたわけではないが、蓮華は俺の眼を見てそれを悟ったのか、踵を返しマイラへと乗り込む。

 ワイバーンの巨体が飛び去って行くのを見送ると、俺も黄金の手綱を握りユウキへと乗り込んだ。


「お待たせ、師匠。行こうか」

「……まだ僕のこと師匠って呼んでくれるんだ?」


 俺の師匠呼びに、師匠は少し驚いたような顔をして、そう聞いてきた。

 ……そこはさりげなくスルーしてくれよ、と思いながら俺は答える。


「……師匠は師匠だろ」

「ご……ありがとう」


 謝りかけて、代わりに感謝の言葉を口にした師匠に、俺は聞こえなかったフリをして問いかけた。


「……ところで、アンゴルモアが始まったのはいつなんだ?」

「マロが迷宮から出てくるほんの十分前だよ」


 十分……それならたいして時間のロスはないか。

 俺が内心で胸を撫でおろしていると、師匠が険しい顔となって言った。


「それより、妙なことがある。アンゴルモアが始まったっていうのに、自衛隊の姿が見えないんだ」

「……なんだって?」


 アンゴルモアが始まれば、自衛隊は即各地の迷宮へと派遣される。できる限り多くのDランク以上の迷宮を沈静化するためだ。

 十分程度ならまだ準備をしているんじゃないかと思うかもしれないが、自衛隊にはアンゴルモア番というものがあり、常に一定数が休憩を兼ねてアンゴルモアに備えているのだ(と以前見たTVで言っていた)。

 加えて、ここ立川には、自衛隊基地がある。

 この立川で自衛隊の姿が見えないということは、それはすなわち自衛隊がまだ出動していないことを意味した。


「……なにかトラブルが起こったか?」

「わからない。迷宮の外に放り出されてすぐに担当自衛官に連絡したんだけど……その時も連絡がつかなかったんだ」

「それは、どれくらい前の話だ?」

「アンゴルモアが始まる一時間は前だね」

「一時間……」


 少なくともそれくらい前には、師匠への対応を取れないくらいの何かが起こっていたということか。

 単に師匠の優先順位が低いだけなのか、あるいはよほどのことが起きたか……。

 前者なら良いが、師匠の件=迷宮消滅の鍵と考えると、その可能性は低そうだった。

 そもそも、師匠のカミングアウト自体が自衛隊からの指示だろうからな。

 その報告を受け取らないのは、どう考えても不自然である。


「――――先輩!」


 そんなことを話しているうちに、学校へ到着すると、校門でアンナと織部が待ちかまえていた。


「遅いッスよ! どこに行ってたんスか、もう!」

「すまん! 一体どうなってる?」

「それについては、すみませんが、小夜に聞いてください。ウチは、予定通りこれから神無月先輩と、迷宮の沈静化に向かいます。……協力してくれますよね? 神無月先輩?」

「もちろん」


 アンナと師匠が屋上へと向かっていくのを見送り、俺は織部へと向かい合った。


「とりあえず先輩、縄張りの主を発動してもらって良いか?」

「わかった」


 俺は、ユウキに縄張りの主を発動させた。

 これで、フェイズ1で漏れ出てくるような弱いモンスター……特にグレムリンのような厄介な雑魚を学校に寄せ付けずに済む。


「で、今どうなってる?」

「先輩たちがどこかに行ってから、しばらくしてアンゴルモアが始まった。全校生徒が体育館に集まることになって、我々は先輩たちに連絡を取ったが連絡がつかず、先輩のクラスの人に聞いたところ教室にも戻っていないという。そこで、学校の外に出たと判断し、ここで待っていたところだ」


 なるほど……迷惑をかけてしまったようだ。


「先輩は、もうご家族のところへカードは?」

「向かわせた。織部は?」

「我もだ」

「じゃあ、俺たちも体育館に向かうか」


 アンゴルモアが始まったら、まず回収する家族がいないアンナと師匠が迷宮の沈静化に向かい、俺と織部は家族の回収を行いつつ、学校の皆を落ち着かせる予定となっていた。

 そうして二人で体育館へと向かうと、ヒヨリちゃんが壇上に立って全校生徒にむけて説明を行っているところだった。


『えーっと、それはですね……あっ、北川くん! 良いところに!』


 ヒヨリちゃんが、救いを求めるように俺の名を呼んだ瞬間、全校生徒がバッと俺たちの方へと振り向いた。


「……ッ!」


 物理的な圧力すら伴っていそうな視線の集中に、思わず一歩後ずさりしかけるのをなんとか踏みとどまる。

 同時に、生徒たちの列が割れ、壇上までの道ができた。


 なんだこれ、モーゼか……?


 俺は不安や期待の混じった全校生徒たちの視線を浴びながら、狼形態のユウキを引き連れ壇上へと向かった。

 ヒヨリちゃんからマイクを受け取り、生徒たちを見渡す。

 ……大体、300人から400人ってところか。

 なんだか、妙な気分だった。緊張で心臓はドキドキしてるのに、頭はこれ以上ないくらい冴えている。迷宮内で強力な主と戦う時と同じ状態。 

 俺は、一つ唾を飲み喉を軽く潤すと、全校生徒へと語り掛けた。


『冒険者部の副部長の北川です。まず、現時点でこの学校は安全なのでご安心ください』


 俺がそう言うと、体育館にホッとした空気が広がった。

 ゲート前に設置された扉によってアンゴルモアが始まってすぐは、モンスターがあふれ出すことはない。

 そのこと自体は、ここ最近TVで繰り返し流されていたため知っている生徒も多いだろうが、こうして断言されるとやはり安心するようだった。


『ウチの学校に迷宮があることから不安に思っている方々も多いでしょうが、ただいま部長である十七夜月(かのう)と、プロライセンスを持つ神無月が迷宮の踏破へと向かっているところです』


 ……なんだか、首を傾げている生徒や先生がそこそこいるな。ああ、そうか。沈静化を知らないのか。

 俺は、補足説明をすることにした。


『アンゴルモア中に主の撃破か迷宮の踏破を行うと、迷宮は沈静化し、その迷宮におけるモンスターの氾濫をストップさせることができます。つまり、この学校の迷宮については、心配する必要はないということです』


 俺がそう言うと、生徒のみならず先生たちの間にもざわめきが広がった。

 それを黙って見守っていると、校長が挙手をしたので、問いかけた。


『どうしましたか? 校長?』

「その沈静化……あー、誰かマイクを。『……ごほん、失礼しました。つまりその沈静化というのを行うことにより、アンゴルモアを治められるということなんだろうか? ……なんでしょうか? そもそも、ウチの学校の迷宮をそんな短時間に踏破できるものなんでしょうか?』」


 良い質問だ……と思いながら答える。


『順番にお答えします。まず沈静化できるのは、主を倒すか踏破した迷宮だけとなります。なので、アンゴルモア自体は続きます。あくまで、学校の迷宮に関してはモンスターを吐き出さなくなるとご理解ください。次に、ウチの学校の迷宮を短時間で踏破できるのは、我々冒険者部が、そのために準備してきたからです』


 そこで俺はみんなを見渡すと、言った。


『我々は、このアンゴルモアに備えてできる限りの準備を行ってきました。全校生徒が一年以上食べられるだけの食料や、食料自体を生み出すカード。それに皆さんの避難先となる異空間型のカードも用意しました』


 そう言って、俺はオードリーを召喚すると、マヨヒガを展開させた。

 俺の背後に、空間を歪ませながら豪奢な洋館が現れる。

 体育館の壁やスペースを無視して現れた洋館に、生徒たちがどよめいた。


『この洋館には、大浴場もあり、寝室数も十分あります。我々はこれと同様のカードを十枚以上用意しました。自衛隊が我々を迎えに来るまでの間、何不自由しない……とまでは言いませんが、ビジネスホテル程度の快適な生活を提供できるでしょう』


 俺の言葉に、不安に苛まれていた生徒たちの雰囲気はだいぶ安らぎ、それどころか修学旅行前のような浮ついた空気すら漂ってきた。「トランプとか持ってくれば良かった」とか「ダンジョンマートで買えるんじゃね?」という能天気な声すら聞こえてくるほど。

 それでもまだ心配そうな顔をしている生徒たちも一定数いて、そんな彼らへと俺は背後のユウキを示しながら言った。


『モンスターの襲撃についても、このユウキは弱いモンスターを遠ざけるスキルを持ち、それ以上の強いモンスターの襲撃に関しては、我々冒険者部が対処に当たります。そもそも異空間型カードの中にいれば、たいていのモンスターは侵入することができませんのでご安心ください』


 そこでようやく、見える範囲すべての生徒たちの顔に安堵の色が広がる。

 特に、冒険者部の新入部員らしき生徒たちの顔には、誇らしげなものすら浮かんでいた。


『次に、ギルド等の避難所についてですが……』


 ここが安全だと分かってもらったところで、他の選択肢も与える。


『希望の方については、少数ずつ順番にではありますが、ギルドへと送らせていただきます。ギルドに避難するもよし、ここで自衛隊の救助を待つのもよし。ただし移送については、モンスターがゲート前の扉を破って出てくるまでの間とさせていただきます。それ以降は、移送自体がリスクとなってしまうので。希望者は、それまでの間に……そうですね、各クラスの担任にまで申し出てください。……お願いできますか、先生?』


 事後承諾の形となってしまったが、否とは言わせぬ流れで俺は校長の方へと問いかけた。

 ここで、自分たちでやってくれだの、勝手な事するな、だの言う余裕は彼らにもないだろう。

 案の定、校長は素直に頷いてくれた。


『わかりました。皆さん、この話が終わったら、希望者は各担任……いえ、教頭のところまで来てください』


 校長は、先生たちの顔を見て、幾人かの先生の顔が見えないことに気づき、苦虫を嚙み潰したような顔でそう言った。

 ……それに、マジで職務放棄してる先生の数が多いんだな。

 別に俺のせいではないのだが……なんだか申し訳なくなってしまった。


『ところで、北川くん……冒険者部に質問なのですが』

『なんでしょう』

『ギルドではなくこの学校に残ると決めた場合、家族をここに呼ぶことは可能でしょうか?』


 …………へえ?

 俺は、意外な気持ちで校長を見た。

 この手の質問が出るのは想定内だったが、それがまさか校長から出てくるとは思わなかった。

 そもそも、この学校は俺たち冒険者部の物ではないし、部外者を呼び込む権利もない。

 にもかかわらず、この質問をしてきたということは、校長は実質この学校の支配権は冒険者部にあると認めたようなものだった。

 理事長であり経営者でもある校長が、そう認めたという事実は、それだけ重い。

 まあ、俺たち冒険者部が学校を去れば、ここは避難所でもない、ただのコンクリートの箱なのだからさほど不思議でもないが……それでも俺たちのようなガキにあっさりと主導権を受け渡せるのは、大人たちのプライドを考えればかなり意外だった。


『結論から言うと、可能です。俺……自分も、家族をここへ呼んでいる途中ですから』


 俺がそう言うと、あちこちからざわめきが上がった。「私も家族を呼びたい!」「俺も!」「ズルい!」「別にズルくねーだろ!」という声も聞こえてくる。

 それを無視して、俺は続けた。


『ただ、協力できる範囲には限界があることをご理解ください。言っておきますが、準備を整えてきたとは言っても、ここよりもギルドの方が安全ですし、ご家族もギルドに避難できるのであればそれが一番ですから』

『わかりました。……ここに残ることを決めた方で、ご自宅が学校の近くにある方は校長である私まで来てください』


 ……校長の方から学校の近くだけに限定してくれたか。正直、ありがたい。

 冒険者部の方で断ると角が立つからな。


「しつもーん! 自分で迎えに行くのは別にええんやろ!」


 そう大声で質問してきたのは、小野だった。

 いつの間にか体育館の入り口にやってきていた彼は、ボディーアーマーを身に纏い、不敵な笑みでこちらを見ている。

 その周囲には、同じような恰好をした新入部員らの姿が。

 ……どうやらアンゴルモアが起こって急いで迷宮から戻ってきたようだった。


『自分で家族を連れてくる分には、問題ないな』


 俺の答えに、遠目に小野がニヤリと笑うのが見えた。


「八王子に住んどる奴で、家族を連れてきたい奴はおるか!? 僕と一緒に行くなら連れてきたってもええで!」

「高尾で家族を迎えに行きたいって人はアタシまで声をかけて!」


 小野に続いて一条さんが声を張り上げると、次々と新入部員たちが声を上げ始めた。


「三鷹まで家族を迎えに行きたいんだけど、俺だけじゃ心細いから誰か一緒に来る奴いない!?」

「日野の人集まってー!」

「国分寺の人は、こっちだよ!」


 あっという間に、それぞれの最寄りごとに班が出来ていく。

 俺はそんな光景をみながら、織部へと声をかけた。


「小夜、悪いんだけど、部室から転移系以外のマジックカードとポーションを全部持ってきてくれ」

「……良いのか?」

「こういう時用だろ」


 織部は体育館を見渡し……。


「そうだな。確かにその通りだ」


 そう頷き、部室へと走っていった。


『家族を迎えに行く人たちは、最寄り駅ごとに班長を決めたらこっちへ来てくれ!』


 生徒たちは顔を見合わせて、すぐに班長を決めてやってきた。

 ……ずいぶん早いな。予め決まっていたのだろうか。

 こちらへやってきた班長達の顔ぶれを見ると、小野と一条さんを始めとして、東西コンビや神道と顔見知りが多く混じっていた。彼らは一様に、腕に廉価版カードギアを着けている。

 ああ、なるほど、カードギア持ちを班長に選んだのか。

 そう納得しているうちに、織部がポーションとマジックカードを抱えて戻ってきた。

 俺は、彼らへと平等に人数分のポーションとマジックカードを配っていった。


「一応マジックカードとポーションを渡しておくけど、できればモンスターが溢れ出す前に戻ってこれればそれが一番良い。くれぐれも、カードがあるから大丈夫とは思わないように。いいか、着の身着のままで良いから無理やりでも連れてくるんだ。物だけならそのうち取りに行くこともできる。準備がどうこうとか、持っていきたいものが、とか言い出す家族がいたら、ぶん殴ってでも連れてこないと全員を危険にさらすことになるぞ」

「わかった」「ありがとさん」「すげーな、これだけで一財産だぞ」「ありがとうございます」「……ウチのお兄ちゃん、ヒキコモリなんだけどスムーズに連れ出せるかな」


 そこで、最低限にラインを繋ぐだけに留めておいた蓮華たちからテレパスが届いた。


『歌麿、トラブル発生だ』

『どうした?』


 言いながら、蓮華たちと五感を共有する。

 蓮華たちは愛の小学校に到着済みで、イライザたちはお袋と合流して小学校へ向かっているところのようだった。


『愛を連れて行こうとしたんだが、教師どもに止められた。本当に保護者のカードかわからない相手に生徒を渡すわけにはいかない、とか言ってるが……ありゃ戦力としてアタシらを引き留めたいだけだな』

『チッ……そうか、わかった』


 クソ、蓮華たちの戦闘力の高さが裏目に出たか。

 有名カードで、愛と顔見知りの蓮華相手に、本当に保護者のカードかどうかわからないもないだろう。

 どう考えても本音は、俺のカードたちを引き留め、守ってもらいたいだけだ。

 これじゃ、お袋を小学校に向かわせても愛を引き取って来られるかはわからないな……。

 最悪、お袋ごと小学校に留め置かれる可能性がある。


『仕方ない。お袋と合流したら、無理やりにでも連れてこい』

『愛の友達はどうする? なんか一緒についていきたがってるのが、この前あった二人の他に結構いるみてーだけど』

『あー……』


 愛は、友達多いからなぁ……。

 お誕生日会とか、普通にクラスの半分くらい連れてくるし。

 さすがに、その人数を無理やり連れてくるわけにはいかない。

 愛と、幼馴染の二人だけ……いや、しかし……。

 ……うん。迷ったら予定通りに、だな。とりあえず愛だけでも連れてきて、お友達についてはそれから考えるとしよう。

 そう蓮華に返事をしようとした時、アンナと師匠が体育館の入り口に姿を現した。

 ずいぶんと早いな、と感心ながら織部と二人の元へ駆け寄る。


「お疲れ! ずいぶん早かったな」

「うむ、沈静化は無事に済んだのか?」

「ええ……沈静化はできたんですが」


 ……なんだ? その割には、ずいぶんと表情が暗いが。


「結構苦戦したのか? カードがロストしたとか?」

「いや……」


 俺の問いに、師匠が首を振る。


「主が、最下層にいなかったんだ……」


 主が最下層にいなかった?

 俺はその意味がわからず首を傾げ――――次の瞬間、全身からブワリと汗が噴き出した。

 主が最下層にいなかったということは、それは、つまり……。

 顔を蒼ざめさせる俺と織部に、師匠は固い声で絶望的な事実を告げる。



「――――どうやらアンゴルモアは、前回のフェイズを引き継ぐらしい」





【Tips】スキル回数回復スキル

 スキルの回数制限を回復させることができるスキル。

 強力なスキルは回数制限が定められていることが多く、その使用回数を回復させられる数少ない手段として、スキル回数回復スキル持ちは非常に需要が高い。

 ただし、スキル回数回復スキルの使用回数を、スキル回数回復スキルで回復させることはできない。

 また、スキルの回数制限と、スキルのクールタイムは別物であるためクールタイムも回復させることはできない。

 霊格再帰は、スキル回数回復スキルで回復できないことから、回数制限のあるスキルではなく、非常に長いクールタイムを要するスキルという見方が有力である。

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