第12話 頭の良い奴の道具じゃ困るんだよ


 

「よっ、小野」

「師匠、おはよーさん」


 翌朝。登校口で小野を見かけた俺は、ポンとその肩を叩いて挨拶した。


「例の件、オッケーだってさ」

「ホンマか!?」


 挨拶もそこそこに入部の件が通ったことを伝えてやる。

 すると、小野はパッと顔を輝かせ、胸をなでおろした。


「助かる。マジでありがたいわ……今回ばっかりは国も頼りにならんかもしれへんからな」

「ただ……」

「ただ?」

「今すぐってわけじゃなくて……正式な入部は、政府が予言のことを発表してからにしてくれって、アンナが」

「ふむ?」


 俺がアンナの言伝を伝えると、小野は少し考え込んだ様子を見せ。


「ああ……なるほど、そう言うことか。わかった。理解した、と言っていたと部長ちゃんに伝えておいてくれ」

「……お前には意味が分かったのか?」

「まぁ、な。たぶん、そう言うことやろって程度やけど」

「どういう意図なんだ?」


 俺がそう問いかけると、小野は少し周囲を気にする素振りを見せつつ、声を潜めて答えた。


「うーん、たぶん……部長ちゃんは、予言の発表後に殺到するであろう入部希望のまとめ役を僕にやらせる気なんやと思う」

「予言の発表後に入部希望が殺到するかも……ってのは俺も理解できるが、なんで纏め役をお前にやらせるんだ? それに、それなら今すぐでいいだろ」

「そこは、まあ、繊細な民衆心理のコントロールってところやな。……一応聞いとくけど、師匠たちはアンゴルモアのことを政府の発表よりも前に広く警告する気はないんやろ?」

「ああ……今物価が上がったら困るし、なによりギルドからも口止めされてるからな。ギルドや国から睨まれたくない」


 俺たちが目撃した予言については、その内容について精査が終わってないこともあり、余計な混乱を招かないようにと、ギルドから口止めされていた。

 もちろん家族や友人にそれとなく警告して準備を促す程度ならペナルティーもないだろうが、不特定多数の人に警告するような真似をすれば確実にギルドからの警告が来るだろうことは間違いなかった。

 最悪の場合、ライセンスの一時停止などの処置がとられる可能性もあった。

 今、この状況で迷宮に入れなくなったら致命的だ。

 それだけは、絶対に避けなくてはならなかった。


「……で、だ。予言が発表されたら、学校の奴らは当然師匠らに予言の事を知っていたのかって聞いてくるわけやろ?」

「……ああ、なるほど。そういう話か……」


 ようやく話の流れがわかり、俺は頷いた。


「でも、それは白(シラ)を切れば良いだけの話だろ?」

「だが、一抹の不信感は残る。そんじょそこらの一ツ星、二ツ星なら知らなくてもおかしくないやろうけど、師匠たちは四ツ星も在籍するプロチームやからな。なんらかの情報を掴んでいてもおかしくない。……というイメージがある。実際、こうして事前に情報を掴んどるわけやしな。その頃には、今よりもさらにカードの相場も値上がりしとるやろうし、鋭い奴は確実に疑いを持つ」


 他ならぬ自分がそういうタイプだからか、小野の言葉には説得力があった。


「確かに……その可能性はあるか。でもそれがなんで小野の入部を遅らせることに繋がるんだ?」

「……師匠って答えが人からすぐ聞ける時は深く考えない癖があるよな。自分一人で考えなきゃいけない時は結構深く思考するのに……」

「う……」


 小野に痛いところを突かれた俺は思わず呻いた。

 確かに、俺は人から答えが聞ける時は、自分で考えずにすぐ聞いてしまう癖があった。


「それ、頭の良い奴に誘導される可能性があるから直した方がええで。特にこれからはな」

「わ、わかった……気を付ける」

「とりあえず、自分で軽く考えてみ」


 小野に促され、自分なりに思考を巡らせてみる。

 ……………………そうか。なんとなくわかった気がする。


「……新しい部員が入ってきたら、物資の貯蔵状況などから俺たちが事前に準備を整えてきたことがバレる可能性がある。だから、小野に新入部員をまとめさせることで既存のメンバーとグループを分け、こちらの内情を掴ませないようにするのが目的か。

 既存メンバーに新入部員を率いさせないのは、新入部員たちがすでに不信感を抱いている可能性があるから。故に、傍目には同じ新入部員で、実際はその前から内々にメンバー入りが決まっていた小野にやらせる」

「正解。……かどうかは実際のところわからんけどな、少なくとも僕はそう考えた」


 アンナの奴、あの一瞬でそこまで考えたのか……。

 いや、違うか。元々、予言の発表後に入部希望が殺到することを予想していて、その中から自分に都合の良い手駒を見つけ出す計画だったのだろう。

 そこにちょうど良い小野という駒が自分から転がり込んできたから、そのまま使うことにしたって感じか。


「しかし、そうなると部長ちゃんは、アンゴルモア時この学校を拠点にする気か?」


 はァ……ッ!?

 俺は思わず驚愕の表情で小野を振り返ってしまった。


「その顔を見るに、どうやらそのようやな」


 俺の顔を見て、ニヤリと笑う小野。


「どうしてそうなる? いや、待て……わかった。そうか、そうだよな。新入部員を受け入れるってことは、そう言うことになるか」

「そう言うことやな。入部希望者を戦力化する気が無いならそもそも入部させなきゃ良い。そしたら事前に情報を掴んで準備していたことが露見するリスクもない。それを、リスクを背負ってでも入部させるってことは、校内の冒険者たちのコントロールをしたい証拠。つまり……」

「学校という集団そのものの勢力化が目的。アンゴルモアが始まれば必然的に校内の冒険者たちの発言権も上がる。その大多数をあらかじめ抱き込んでおいてしまえば、その他大勢の生徒のコントロールもできるってわけか」

「もちろん、学生が校内にいる日中に事が起きればって話やけどな。それでも、事前に準備しておいて無駄にはならへん。どうせ、冒険者部の受け入れの有無にかかわらず、予言が発表されれば校内の冒険者数も増えるんや。なら、みすみす別勢力を校内に作らせるくらいなら、最初から取り込んでしまえっちゅう話やな」


 ……アイツめ、何が勢力作りの話は忘れてくださいだ。思いっきりそのために動いてるじゃねぇか。

 アンナの意図がわかり、俺は思わずニヤリと笑ってしまった。

 人によっては騙された! と憤るのかもしれないが、俺は逆にこの強かさが頼もしかった。

 思い返せば、昨日の会議は最初から学校を拠点とする結論ありきだったように思える。

 もっとも、部員たちが出来るだけ少数精鋭での行動を望んだのならば学校の勢力化も諦めたのだろうが、日ごろから部員たちの様子に気を配るようにしていた……と言っていたアンナのことだ。俺たちの性格も把握した上で、この計画を立てたのだろう。

 まあ、安全第一の第一方針に反しないうちは、好きに二鳥目、三鳥目を狙えば良い。

 それぐらいの方が、リーダーとして相応しいというものだ。


「……ま、そういうことなら、今から準備しとくわ」

「準備って、何するんだよ?」

「ま、色々や。今のままやと、僕もちょっと冒険者部と近すぎるからな。今の内に二軍のひな型を作っておく必要があるやろ?」


 二軍……新入部員グループのことか。

 何をする気かわからんが……。


「冒険者部が事前に準備を始めてることがバレるような真似はすんなよ。……アンナはお前が思ってるより怖い女だぞ」

「わーっとる! ま、二軍については僕に任しとき!」


 小野は自信ありげに胸を叩き、そう笑うのだった。




 放課後になると、俺たちはさっそく迷宮の攻略に入った。

 ボディーアーマー姿となって屋上のダンジョンマートへと向かう俺たちを見て、まだ校内に残っている生徒たちが俄かにざわめく。


「おい、見ろよ、アレ」「何かスゲェ格好だな。軍隊みてぇだ」「あの赤毛の娘、めっちゃ可愛くね?」


「あ、神無月先輩だ。やっぱカッコイイ〜、モデルみたい」「アレ、神無月先輩がリーダーなのかな? プロだし」「いや、なんかあの赤髪の娘が部長ってさ」「え〜? なんで?」「知らなーい。なんか凄いお金持ちの娘らしいし、それでじゃね? スポンサーとか?」「ソンタク? ってヤツ?」


「あれ、学校に出来た迷宮を攻略するのかな」「ウチの学校の迷宮ってCランクだろ? ってことはアイツ等みんなプロなのか?」「プロなのは神無月だけじゃなかった?」「ふぅん、プロが一人でも一緒に居れば、Cランクに入れるようになるとかそんな感じなんかな?」「たぶんそうじゃね? プロチームって、四ツ星以上は一人か二人であとはほとんど三ツ星って聞いたことあるし」


「つか、聞いた? C組の藤原さん、神無月先輩に告ったけどフラれたってさ」「聞いた聞いた! 神無月先輩は、所詮は雰囲気美人の藤原さんレベルじゃ無理でしょ」

「えっぐ〜。辛辣過ぎっしょ。ま、でも確かにね。あの赤髪の娘クラスじゃないと付き合えてもコンプレックスで潰れそう」「あのレベルとなると、隣に立つのはちょっと……ね。遠くで眺めてるだけで満足って感じ」「ね、目の保養~」


「あ〜ぁ、俺も冒険者部に入れてもらえねーかな。金欲し〜」「無理無理。冒険者でもないのにどうやって入るんだよ」「そこはホラ、プロならDランクカードも余ってるだろうしさ。一枚ぐらい貸してもらうとかさ」

「そこまで甘くねーだろ。お前みたいに考えた奴が、冒険者部を作るって話になった時殺到したらしいけど、全部落とされたらしいぜ」「あ〜、やっぱそうか。大学のサークルとかだとそういうサービスもやってるって聞いてワンチャンって思ったんだけどな」

「つか、一応冒険者の奴も落とされたらしいから、ハードル高めなんだろ」「あー、プロが在籍するレベルだもんな。北川もTV出てるくらいだし、ガチ勢ってことか」「……北川と言えば、アレがめっちゃデカイってマジなのかな」


「……ってか、今気づいたけど、なんか一人平凡なの混じってね? 他みんな美形なのに」「あの人も冒険者としてかなり凄いらしいよ。大会で何回も優勝してるし、ホラ、例の事件の犯人も捕まえたらしいし」

「それ、神無月先輩がって話じゃなかった?」「いや、あの人も……ってか冒険者部みんなで捕まえたってさ。だから、誰がって話じゃないっぽい」

「へぇ〜、ってか詳しいね。もしかして、ファン?」「……うん、まあ、ちょっとね、ちょっと」「えぇ……? マジか……」


 複数人の生徒たちが、同時に思い思い話しているせいで、俺たちのことを噂していることはわかるが、その内容まではわからない。

 たまにカクテルパーティー効果で自分の名前が出た時だけ局所的に耳に入ってくるくらいだ。

 それでも、全体的に雰囲気としては悪い物ではないのは肌で感じ取ることができた。

 割合としては、好奇心が四割、羨望や嫉妬が三割、好意よりの無関心が二割、残りは……無責任な噂話や邪推などの様々な悪感情のブレンドと言ったところだろうか。


 そんなようなことを考えながら、ダンジョンマートを通り、ゲートの部屋へと入る。

 ゲートのある部屋には、一週間前にはなかった頑丈そうなコインロッカーが設置されていた。

 ……大方部室の改装のついでに突貫工事で設置されたのだろう、と心なしかドヤ顔をしているアンナをみんなでスルーしつつ、ライセンスやスマホなどの電子機器を預け、ゲートを通る。

 迷宮へと入ると、俺たちはさっそく各々のカードを召喚し始めた。

 ……さあ、いよいよ新たな蓮華のお披露目だ。


「うん? ……マロ、蓮華ちゃんのその姿は?」


 蓮華の変化に最初に気付いたのは、師匠だった。


「ああ……ようやく吉祥天にランクアップさせたんだ」


 俺は、できるだけ自慢げに見えるようにニヤリと笑って師匠へと答えた。


「それは……おめでとう。でも、一体どうやって?」


 師匠は一瞬絶句し、すぐにそう問いかけてきた。

 まあ、当然気になるわな。

 Bランクカードともなると、そこら辺の迷宮でドロップしました、とはいかない。

 どうやって入手したのかが気になるのは、師匠じゃなくても当たり前のことだ。

 アテナの時は、直前に大金が入っていたのと、一目で訳アリ品とわかる容姿だったため、深く追及されなかったが、吉祥天に関してはそうはいかない。

 俺が、蓮華のランクアップに訳アリ品を使うはずがない、と師匠たちも良く知っているからだ。

 もちろん、ちゃんと言い訳は用意している。

 当初は蓮華のお披露目からの能力バラしを予定していたから、特に言い訳など考えていなかったのだが、昨日秘密を話すのは当面アンナだけと決めてから、二人で軽く打ち合わせして、それなりの言い訳を考えていた。


 それはズバリ、キマリスと吉祥天をトレードした、というものだ。


 これからの学校の迷宮攻略において、カーバンクルの捜索ができるキマリスは必須のカードである。

 そのキマリスにトレードの話が来ていることを知ったアンナは、キマリス自身を担保に父親のコレクションである吉祥天を買い取って、それをキマリスとトレードした……というシナリオだ。

 アンナパパは、娘がアンゴルモア時に別行動を取ることを反対しているらしいため、微妙に苦しい言い訳ではあるが、キマリスを担保とすることで何かと暴走しがちな娘の手綱を握りたいのだろう……とアンナ自身に説明させることでなんとか説得力を補強する作戦だった。

 その代わり、担保扱いとなるキマリスは、戦闘に参加させることができず、ガーネットの探索要員としての扱いのみとなるが、まあ、やむを得ないだろう。

 ちなみに、キマリスと吉祥天だと女の子カードであることを差し引いてもキマリスの方が若干お高い————というよりもBランクカードともなると女の子カードだからと価値が三倍になったりはしない————上に、今後眷属召喚持ちはどんどん価値が上がっていくということで、しばらくアンナの分のガーネットの配分を俺の方に回す、ということになっていた。

 もちろん、表向きそういうことにするだけで、配分についてはそのままだ。


「ああ、それは……」

「————もしかして、レースの時のドロップですか?」

「……!?」


 思わず、ギョッとして彼女の方を見た俺を見て、織部は得心したように頷いた。 


「やはり、そうでしたか」

「……どうしてそう思ったんだ?」


 こうなれば誤魔化すことは出来ないだろうと、俺は織部へと素直に問いかけた。

 もしも、俺が気付いていないだけでカメラに映っていたなら大惨事だからだ。


「いえ、この前デー……映画を見に行った時、先輩の態度から何となくそう思ったので」

「……マジか」


 アンナといい、織部といい……ウチの部の女子たちは洞察力が高すぎるだろ。

 それとも俺が特別わかりやすいのか……?

 内心で頭を抱えつつ、俺は頷いた。


「……ああ、実はレースの時に吉祥天を手に入れてたんだ」

「色々と気になることはあるけど……なんでそれを今まで隠してたの?」


 師匠が問いかけてくる。またも当然の疑問だ。

 だがこれについては言い訳する必要もない。普通に説明すれば良いだけだ。


「隠してたっていうか……言う必要もなかったから、かな。霊格再帰があるからランクアップさせるよりそのまま使う方がロストの時のコストも低かったし」

「ああ……確かに」


 と、納得したように頷いた師匠だったが……。


「でも、じゃあなんでこのタイミングでランクアップさせたのかな? マロが言うようにランクアップはリスクの方が高いと思うんだけど」


 純粋な疑問なのか、あるいは何か疑いを持っているのか……。師匠は、妙にしつこく追及してくる。


「それは色々と理由があるけど、一番の理由は……蓮華に零落スキルが残るかが知りたかったからだな」


 これも、本当のことだ。


「今回のアンゴルモアでは、Aランクモンスターも出現する確率があるだろ? その時に、一時的とは言えAランクになれるカードがあれば心強いと思ってさ」

「随分なギャンブルな気もするけど……それで、結果は?」


 俺は、その質問については答えず、ただニヤリと笑ってみせた。


「まさか……残ったんスか!?」


 俺の笑みを見て驚愕の声を上げたのは、黙って成り行きを見守っていたアンナだった。

 昨日俺から運命操作のことは聞いた彼女であったが、それだけに新たなニュースに驚きを隠せなかったのだろう。


「き、キーアイテムは? 霊格再帰まで至ったんスか!?」

「いや、まだそこまでは……ランクアップさせたのは先日だし、なにより今となっちゃAランクへのキーアイテムは、下手なBランクより高かったりするからな……」

「そう……ッスか」


 俺の返答を聞いたアンナは、自分が逸っていたことに気付いたのか、幾分かトーンダウンした後。


「霊格再帰先の見当はついているんスか?」

「まあ、一応な。Bランクともなると、ランクアップ先も少なくなってくるし」


 BランクからAランクにランクアップさせた例が少なく、吉祥天の霊格再帰例がないため推測となってしまうが、これまでのランクアップの基本ルールに沿うならば、吉祥天の起源や権能と共通点を多く持つ神がランクアップ先となるはずだ。

 例えば同じ二相女神で権能にも共通点の多いイシュタルとエレシュキガルなどだ。


「イシュタル……うーん、思い当たるキーアイテムはないッスね。……なんだろ、シュメール神話は詳しくないからなぁ」


 ブツブツと呟きながら悩むアンナ。


「まあ、此処でいま考えても仕方ないだろ。運が良ければアンゴルモアまでにめぐり合うし、運が無ければめぐり合うこともできない……そういう代物だろ、このクラスのキーアイテムはさ」

「……そうッスね。『運良く』手に入ることを祈るしかないッスね」


 アンナが一瞬だけ、皆に見えないように目配せをしてくる。


「で、今日は……というか今日からの攻略はどういう予定なんだ?」

「どんなって言われると困るんスけど……まあ、普通に攻略していきますよ。まあ、出来るだけ効率をよくするために、工夫はしようと思いますが」

「具体的には?」

「とりあえず、スキル封印の階層までは皆で一緒に行きます。移動は騎獣に乗って、戦闘は全部回避ッスね。スキル封印の階層まで来たら、先輩は一階層に戻ってガーネットの回収。他の部員は、テレポートの罠がないルートのマッピングです。Cランク階層まではこの繰り返しッスね。そこからはさすがに集団行動ッス。目標としては一月に一周ッスけど……厳しいようならCランク階層で遭難を一枚くらい使うかもです。とにかくガーネットの回収のために周回数を増やしたいですし」


 ふむ……と皆で頭の中でシミュレーションしてみるも、特に粗は見つからない。

 一周目であった夏休みの攻略より洗練されている。


「今回は遭難のカードを使うのはCランク階層からなんだな」

「そりゃそっちの方が効率良いッスからね。前回は、Dランク階層にどれくらい時間が掛かるのかわからなかったのと、Cランク階層は出来る限り多く体験したかったんでDランク階層で遭難を使いましたけど、今回はできればCランク階層の方をむしろスキップしたいんで」


 もちろん、校長との期限が間に合わないようなら赤字覚悟で遭難を使いまくる予定でしたけど……と付け加えるアンナに、なるほどと頷く。

 冒険者としての経験値稼ぎをメインとした夏休みと、収益重視のこれからの攻略の違いというわけか。


「異論も無いようですし、そろそろ攻略に入りましょうか」

『了解』



 ————その後は特にトラブルもなく順調に階層を踏破し、スキル封印のある七階層まで到達したあたりで、夜九時を回っていたこともあり、その日の攻略はお開きとなった。



 翌日は、スキル封印の階層の攻略を行う冒険者部のメンバーと別れ、一人カーバンクルガーネットの回収を行う。

 その過程で、蓮華の戦闘力も成長限界の3400まで上がった。カーバンクルの経験値は、回収係の密かな特権の一つであった。

 翌日も、その翌日も……。

 放課後は、毎日夜10時までコツコツ迷宮に潜り、休日は泊まり込みで一気に攻略を進め……。


 そして、あっという間に一か月が経過した。







【TIPS】アンゴルモア時のガイドライン


 アンゴルモア時は、決してパニックにならず、落ち着いて行動してください。

 ご自宅にシェルターがある方は、シェルターで自衛隊か四ツ星以上の冒険者が迎えに来るまで待機を。ご自宅にシェルターがない方や外出中にアンゴルモアが発生してしまった方は、最寄りの避難所へと速やかに避難をお願い致します。

 避難所は、可能であれば最寄りの冒険者ギルドへ、ギルドが遠い場合は、警察署や大きな病院、指定のホテル・学校・公民館などへの避難をお願い致します。

 アンゴルモア中は、機械破壊による事故を防ぐため、交通機関は使えなくなります。車やバイク等での移動も極力避け、無理に自宅に帰ろうとせずに、とにかくまずは身近な避難所に向かってください。

 避難所には、受け入れ人数に応じて最低一枚以上のCランクカードを配備しており、また食料等もカード化して備蓄しております。

 そのため食料や着替え等の持ち込みは必要ありませんので、ご安心ください。


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