第10話 ちょっとした小物で一時的に人気者になる奴っているよね
「おはよー! 久しぶりー!」「ヤバ、めっちゃ焼けてるじゃん!」
「もう屋上見た?」「見た見た。マジで学校にコンビニ建ってた!」
新学期の朝。
一か月ぶりの学校は、夏休み中の静寂とは打って変わって喧騒に満ちていた。
「うぁー、夏休みが終わっちまったー」
「学校来たくねー。夏休み後一ヶ月くらい伸びてくれぇ」
「やべーよ、課題半分くらいしか終わってねー」
夏休みが終わってしまったことを嘆く学生たちは、しかし台詞とは裏腹にその表情は明るい。
なんだかんだ言って、久しぶりに会う友人の顔にテンションが上がっているのが一目瞭然であった。
「よっ、師匠。久しぶり」
後ろからポンと肩を叩かれ振り返ると、そこには小野の姿があった。
その顔は真っ黒に日焼けし、心無しか体つきも良くなっているように見えた。
「よ、久しぶり。なんか黒くなったな〜」
「まぁなぁ。ここんところずっと砂漠の迷宮に潜っとったからなぁ」
「なんでまた……。せっかくなんだから涼しい迷宮に潜れば良いものを」
夏に砂漠の迷宮とか……正気か?
小野は肩をすくめて答えた。
「バイトやバイト。砂漠の迷宮でカードを使ってピラミッドを作るバイトしててん」
「なにそのバイト!?」
ピラミッド作るバイトとか初めて聞いたんですけど!?
そして同時に脳裏にチラつく、とある男の顔。
「僕も最初そう思ったわ。雇い主もファラオみたいな格好して変な人やったし。まあ、実働はカードやから楽で給料も良いバイトやったんやけどな。……っていうか師匠、あの人と戦ったことなかった?」
もう確定じゃん。完全にファラオ砂原じゃん。あの人なにやってんの……?
「でもおかげさんで新しいDランクカードも手に入れて、ホラ!」
そう言って小野が自慢げに見せてきたのは、計六枚のDランクカードだった。
「お〜、ようやく揃ったか! おめでとう!」
「へへへ、ありがとさん。ま、師匠からしたら大したことないやろうけどな」
そう言う小野だが、俺は普通に感心していた。
Dランクカード六枚というのは、アマチュアクラスにとって一つの目標となる数字である。
三ツ星冒険者になるための試験迷宮。それをクリアするために必要最低限の戦力とされるのが、Dランクカード六枚だからだ。
小野は、この春に二ツ星になったばかり。
それからわずか半年程度で三ツ星に手が届くところまで来ているのは、ちょっとした偉業ですらあった。
俺のようにハーメルンの笛や蓮華のような特殊なカードを持つわけでもない小野が、いくらかカードを融通したとはいえ、半年でここまで来るとは……。
素直に賞賛に値した。
「いや、普通に凄いわ……。おめでとう」
「ありがとさん」
小野は照れ臭そうに頭を掻いて、しかし次の瞬間には一転して真面目な顔となった。
「ところで、師匠に聞きたいことがあんねんけど」
「どうした?」
小野は周囲を軽く見渡して、声を潜めると。
「……師匠は、クダンの予言があったって話、もう聞いたか?」
「ッ!」
思わず顔を強張らせた俺に、小野は納得したように頷いた。
「やっぱ師匠も、もう知っとったか」
「お前、それどこで聞いた?」
「聞いたというか、まあ、ネットの噂やな。クダンの予言を聞いたってSNSの書き込みがあって、まあすぐに消されたんやけど、スクショが僕のところに回ってきてな。最初はどっかのアホが注目集めたくてホラ吹いたと思ったんやけど、なんとなく気になって。念のため軽く調べたらカード魔道具の相場がなんか値上がり始めてたから、これはもしや……と思ってな」
「そうか……」
相変わらず目ざとい奴だ。この時点でネット上のわずかな情報からクダンの予言にたどり着くとは……。
ちょっと普通じゃないというか、正直キモいレベルの情報収集能力だ。
「で、どうなんや?」
「ぶっちゃけて言うと……まず間違いない。俺もクダンを目撃した」
「……………………マジ、か」
小野はしばし絶句した後、なんとか絞り出すように呟いた。
「それ、映像かなんかに残っとるか?」
「いや、機械破壊の迷宮だったから……」
「その腕に着けとるカードギアは、飾りか? それ録画機能もついとるんやろ?」
「斥候用のカードだけ先行させてる状況だったんだよ。ボスの種族だけでも探ろうってな」
「チッ……まあ、なら、しょうがないか。で、予言の内容は?」
「確か……『三度目の禍が、この地を襲う。滅びが地上を覆う。守りの盾は、すでに謀略に倒れた。汝、滅びに備えよ』……こんな感じだった筈」
「ううむ……」
小野は腕を組み、十数秒ほど考えた末。
「間違いなさそうやな。しかも全世界的にカードの値上がりとトレンド転換が起こってることから察するに、こりゃ日本だけじゃなく世界各国でも見つかっとるな」
「……第二次と同じ全世界同時型ってことか?」
「たぶんな。つまり、海外の応援は期待できないってわけや」
政情が不安定な国の中には、自国の戦力だけでは迷宮の管理も出来ない国も存在する。
そう言う国では、迷宮からの戦利品と引き換えに、国連などがアンゴルモア対策を請け負っている。
だが、国連軍はあくまで各国の兵から拠出された戦力であるため、自国でアンゴルモアが起こった際には、当然そちらを優先して兵を引き上げてしまう。
つまり、全世界同時にアンゴルモアが起こった時は、国連軍の助けは得られないというわけだ。
「まあ、海外の応援は元々望み薄だったけどな。在日米軍も、撤退して久しいし」
ちなみに在日米軍が撤退したのは、第一次アンゴルモアよりも前……レイスにより本国の部隊に甚大な被害が出た時期のことである。
その様は半ば夜逃げのようだったと揶揄されたが、まあ……当時アメリカ軍が受けた被害は洒落にならなかったから仕方ない。
アメリカ軍の撤退は、日本だけでなく全世界同時に行われ、世界の警察を自認していたアメリカが突然その役割を投げ捨てたことで、当時の世界情勢は一時大きく混乱したという。
まあその結果、世界的に「所詮他国は肝心な時は頼りにならない。自分の国のことは自分でどうにかするべきだ」というナショナリズムの波が起こり、その波に乗って日本も憲法や自衛隊関連に関し大きなメスを入れ、それが第一次アンゴルモアの被害を抑えることに繋がった……という面もあるため、一概に悪い出来事とは言えなかった。
「師匠は、これからどう動くつもりや?」
「ん……たぶん冒険者部全体でアンゴルモアに備えることになると思う。今日の放課後、会議をする予定だ」
「冒険者部か……」
小野は顎に拳を当て、考え込むような仕草を見せ。
「なあ、今更やけど冒険者部に入れてくれへん?」
小野の言葉は、半ば予想通りのものだった。
「うーん、どうだろうな。アンナがどう言うか……」
勢力作りがしたいと言っていたことから、将来有望そうな小野を断ったりはしない気もするが……逆に今は少数精鋭での生き残りを目指すと言い出してもおかしくない。
アンナの勢力作り云々ってのは、本来数年かけてのプランだったはずだからな。
もちろん、一転して「戦いは数だよ!」とばかりに人数を集める可能性もあるわけだが……。
「一応、頼んではみる。猟犬使いの事件で協力してくれた件もあるし、たぶん大丈夫とは思うが」
「頼むわ。無理だったら早めに言ってくれ。違うアプローチで行くから」
「わかった。……ちなみに他のアプローチって?」
「ひたすら迷宮に潜りまくるか、どこかのプロチームに入れてもらうか。いずれにせよ、学校は辞めるやろな」
そこまでか……。
いや、考えてみれば当然の話か。俺は学校の迷宮があるから、学校を辞めるという選択肢は端からなかったが、そうでなかったら小野のように退学か休学でもして、死に物狂いで迷宮に潜りまくっただろう。
……コイツは、正直もう身内判定だ。もし冒険者部で迎え入れられなかったら、俺個人で支援するとしよう。
そうして小野と情報交換をしていると、いつの間にかクラスの前までやってきていた。
物騒な話は、ここまでだな。
俺も小野も、気持ちを日常のそれに切り替えて、皆へと挨拶していく。
「おはよう」
「おはよーさん!」
「おはよう、北川くん、小野くん」
「久しぶりー!」
クラスメイト達と挨拶を交わしながら、クラスの中心の席へと向かうとそこにはすでに牛倉さんを除くお馴染みのカーストトップ勢と、なぜか一条さんの姿があった。
……これは、一条さんがグループ合流したかな? 一緒にプールに行ったことで四之宮さんらとの距離が縮まったのかもしれない。
そんなようなことを考えながら、挨拶を交わし席に着く。
「牛倉さんは?」
「静歌は吹奏楽の朝練。学園祭が近いからね」
「あ〜、もうそんな時期か……」
今年は、ウチのクラスは一体何をやるんだろうか。
あんまり準備が必要な出し物は、迷宮攻略もあるしゴメン願いたいんだが……と考えていると……。
「よお、北川。見ろよ、アレ」
そう言って、神道が顎で指し示した先には、ちょっとした人だかりが出来ていた。
クラスの皆に囲まれているのは、眼鏡で冴えない容姿(俺が言えた義理ではないが……)の大人しそうな男子。確か文科系グループのヤツだったはずだ。
基本的に物静かで目立たないタイプで、あんなふうに皆に囲まれるようなキャラじゃなかったはずだが……。
「なんや、アレ?」
「カードギアだよ。加藤のヤツ、ああやってカードの立体映像をさっきから皆に見せびらかしてんだよ」
どことなくツマラナそうに言う神道に対し、小野は感心したように加藤の方を見る。
「ほお、やるやん。確かアレ昨日発売されたばっかで、しかも抽選倍率百倍以上って話やなかったっけ?」
「……そうだよ、俺も抽選に応募したけど落ちた」
なるほど。俺は苦笑した。それでさっきから微妙に加藤にトゲトゲしかったのか。
「北川、ちょっとあそこに突っ込んで、そのカードギア見せびらかして来いよ。所詮は廉価版の加藤に、そのプレミア品の性能差を見せつけて来い」
「やだよ、そんなカッコ悪い」
そんなんやった日には、クラス中からドン引きされた上に、加藤からも要らん恨みを買うこと間違いなしだ。
「しっかし、正直羨ましいわ。僕ら冒険者にとって喉から手が出るほど欲しいアイテムやからな、アレ。……ぶっちゃけ、ただカードとおしゃべりするだけが目的なら譲ってもらいたいくらいやわ」
マジなトーンの小野の言葉に、神道もやや神妙な顔になり。
「まあ、お前ら冒険者は、生存率に直結するって話だからな。でも、このカードギアは一般人にも、というかむしろ一般人にこそ需要があると思うぞ」
神道の言葉に、四之宮さんも頷く。
「だよね。あんなことあって冒険者になろうって気はポッキリ折れちゃったけどサ。やっぱカードを初めて召喚した時は感動したもん。迷宮に入らずにカードとまたおしゃべりできるならウチも欲しいなって思ったし」
「これまでカードとコミュニケーションがとれるってのは冒険者だけの特権だったからな。むしろ俺たち一般人の方がカードギアに対する憧れは強いよな」
「……まあ、それはわかるんやけどな」
一般人二人の意見に、小野も渋り顔で理解を示す。
「でも本来は冒険者用品なんやから、こっちを優先してほしいって気持ちはやっぱあるわ」
「でもよ、カードギアに一般人の需要があるってのは、冒険者にとってもそんなに悪い話じゃないんじゃね? なんか低ランクのカードの買い取り価格も上がってるんだろ?」
「まーね、それは確かにある」
神道の言葉に頷いたのは、これまで気だるげに無言で机に突っ伏していた一条さんだった。
「これまでの三倍近い買い取り価格になってるから、アタシみたいな駆け出しからすると結構助かる」
彼女の言う通り、現在Fランク・Eランクのカードの買い取り価格は、市場価格の三倍近くまで上昇していた。
その原因は言うまでもなくカードギアの存在で、発売が発表されてすぐ多くの人々がカードを買いにギルドへと殺到した。結果、常にダブり気味の低ランクカードが品薄状態になり、カードの買い取り価格が上げられるという異例の事態が起こっていた。
これは日本で冒険者ギルドが発足して以来初めてのことらしく、ちょっとしたニュースになっていた。
……もっとも買い取り価格が上がっているのは、女の子カードや可愛らしい動物系のカードが主で、ゴブリンやゾンビと言った不人気カードの価格は従来通り低いままだったのだが、それでも買い取り価格の高騰は多くのアマチュアクラスにとっては福音と言えた。
「まあ、確かにその通りなんやけどな。僕の場合、このブームが来るちょっと前に低ランクカードは全部売ってもうてん……はぁ」
……が、中にはその恩恵に与れなかった運の悪い者もいるようで、小野は深々とため息をついていた。
たぶん、Dランクカードの購入の足しにするためだったんだろうな……。
つまり、小野にとってこのブームは単にカードギアが手に入りにくいだけ、ということになる。それでは愚痴りたくもなるだろう。
かくいう俺もEランク階層までの敵は基本的にスルーしているため、このブームとは無縁の状態にあった。
「あーぁ、エメラルドタブレット社が冒険者枠を別に用意してカードギア売ってくれへんかな。そういうことしてくれへんと、いつまで経っても本当に必要な層に行きわたらんで」
「そしたら冒険者登録してでも手に入れようとする奴も出てきたりして。転売とかで高く売れるし」
嘆く小野に神道が冗談めかしてそう言うと、四之宮さんもそれに頷く。
「あり得るかも。で、そのまま普通に冒険者になっちゃったりして」
「カードギアを手に入れるために登録だけしたはずがそのまま冒険者デビューしちゃう、木乃伊取りが木乃伊になる的な奴もいるかもな。加藤とか、来週あたりに冒険者デビューしててもおかしくねーし」
案外、それが目的かもな……。
笑いながら話す神道と四之宮さんを見ながら、俺は内心でそんなことを考える。
このカードギアという魔道具。冒険者向けの商品なのは確かなのだが、発売にあたり冒険者枠を用意していなかったり、迷宮の外でもカードと会話できるなどの迷宮攻略に不要な機能がついていたりと、むしろ一般人への普及を目的としての商品のように思える時がある。
もちろん、単にマーケティング的に考えて、精々十数万しかいない冒険者よりも、一億人以上の日本国民全体を対象とした方がマーケットも広いから、という可能性もある。
というか、普通に考えたらそうなる。
だが、このカードギアという商品は、元々は冒険者の迷宮内での死亡率を下げるため、国と共同開発した……という代物だったはず。
それを、一般向けを意識しすぎて本来のターゲットである冒険者に行き渡らなくしてしまうのは、あまりに本末転倒である。
にもかかわらず国の方でこの状況を放置するならば、それはすなわちこの状況こそが国の狙いだった……と考えることもできる。
この状況、すなわち一般人の迷宮やカードへの興味を高めるのが目的だったのかもしれない。
カードギアが、話題となりブームが起きる→カードギアに登録するためのカードをギルドに買いに行く→会話だけでなく実際に呼び出して触れ合いたくなる→冒険者登録へ。
そんな筋書きを期待してのもの……と考えるのは俺の考えすぎだろうか?
そこで、そう言えば……と一条さんに問いかける。
「一条さん、冒険者活動は順調?」
「まーまーかな。リビングアーマーは使いやすいし、フェニアとメニアも良い子だしね」
どうやら、一条さんも順調にやっているようだ。
カードを貸しだしてからほぼノータッチだったから心配していたが、カードたちとも仲良くやっているようだし良かった。
「つか、Dランクカードが三枚もあってFランク迷宮に苦戦してたらヤバイっしょ」
確かに……と苦笑する。
リビングアーマーがあればFランク迷宮ではダイレクトアタックによるロストの心配もないし、なにより通常二枚しか召喚できないFランク迷宮でDランクの二体一対スキルはかなりのチートだ。
あとは罠解除を持った斥候と回復役をEランクカードでも良いから揃えられれば、二ツ星にも挑めるだろう。
そんなようなことを考えていると……。
「パーティーも揃ってきたし、次の休みで二ツ星昇格試験に挑むつもり」
「はッ!? 早くね!?」
思わず素っ頓狂な声が出てしまった。
小野も驚き半分、呆れ半分の表情で言う。
「おいおい、一条さんはまだ冒険者になって三週間とかそこらやろ? ちょっと早いんとちゃうか?」
「そんなに驚くようなこと? 夏休みだったんだから、Fランク迷宮くらい十個踏破しててもおかしくないっしょ」
「いや……というより、パーティーが揃ってるかどうかを心配してるんだが……」
Fランク迷宮とEランク迷宮の違いは、罠の存在だ。
Cランク迷宮ほどの凶悪さは無いものの、罠の存在は大半の一ツ星を挫折させる大きな障害だ。
俺が二ツ星昇格試験の頃は、まだイライザさんも罠解除スキルを持っていなかったため、当たって砕けろの漢解除戦法を取るしかなく、最初は大いに苦戦したものだ。
今なら、いくら蓮華の回復魔法があったとはいえ罠解除も無しにEランク迷宮に挑むのがどれほど無謀だったかわかる。
せめてFランクカードでも良いから罠解除スキルを持つカードを用意してから挑むべきだったのだ。
そんな教訓を一条さんに伝えようと口を開きかけ……。
「パーティー? 罠解除と回復役なら一応揃えてるよ。罠解除スキル持ちのブラウニーに、回復役のFランク五枚」
「あ、そうなの?」
あら優等生。そういえば、一条さんってこの外見で結構勉強もできるんだよな……。
ふむ、罠解除スキル持ちならば戦闘力は必須じゃないからブラウニーでも問題ないし、生命線である回復役がFランクというのはやや不安なところだが、五枚も揃えているところからローテーションで回していくスタイルなのだろう。
「せっかく低ランクカードの買い取り価格が上がってんだから、今の内に出来るだけ稼ぎたいと思って。Fランク迷宮を踏破しても精々十万っしょ? なら売れるEランクカードをかき集めて売った方が効率良いかなって。試験中はEランク迷宮貸し切りみたいなもんだし」
『な、なるほど……』
俺と小野は思わず声を揃えて頷いた。
たしかに、低ランクカードの買い取り価格が高騰している今ならそれもアリなのか。
Eランクカードの買い取り価格は、通常時で一万から十万円。その三倍なら最高で三十万で売れる計算となる。ドロップ率は5%だから、凡そ二十体倒して一枚の計算。
……普通にFランク迷宮を踏破するよりも時給良さそうだな。
それに今はどこのFランク・Eランク迷宮もカードのドロップ目当ての冒険者が群がってるだろうから、試験という名目で一月の間Eランク迷宮を貸し切りに出来るというのは、かなりデカイ。
場合によっては、試験中に安めのDランクカードを買えるようになるかもしれん。
「まあ、自分でいろいろ考えてるならいいや。なんか口うるさく言ってごめん」
「別に? 北川はカードのオーナーなわけだし、心配して当然っしょ」
ヒラヒラと手を振る一条さん。サバサバしておられる。
「二ツ星に合格したら、なんかお祝い贈るよ」
「おいおい師匠、そんなん僕貰ってへんで」
軽い気持ちでそう言うと、なぜか横から変な奴が食いついて来た。
なんでお前にお祝い贈ってやらなきゃいけねえんだよ……。
二ツ星になるのに協力したのが、お祝いみたいなもんだろうが。
「物は良いからさ、そのうちで良いから迷宮連れてってよ」
「迷宮に?」
「そ。ウチの学校のだったら最高だけど、どっかのDランクで良いからさ」
「うーん、なるほど……」
迷宮か……。
アンゴルモアのことがなければ、すぐ頷くんだが……。
「冒険者部の方があるからなあ……」
「一回だけ、そのうち余裕がある時で良いからサ」
そこで、予鈴のチャイムが鳴った。
一条さんは席から立ちあがりつつ、俺の肩をポンと軽く叩き。
「ま、考えておいてよ」
そう囁いて去って行ったのだった。
一緒に迷宮ね……考えておくか。
【TIPS】モンスターの戦闘力
同じランクの階層帯であっても、モンスターの戦闘力は深い階層に行くほど高くなる。
特に各ランクの一層目のモンスターは、カードの初期戦闘力の八割ほどしかないとされ、深い階層であってもモンスターの戦闘力がカードの成長限界まで強くなることはない。
これが、同じ種族であっても迷宮のモンスターよりもカード方が強いとされる所以である。
無論、最下層の主に関しては別で、主はその種族のMAX戦闘力かつ主補正による様々な強化が入る。
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