第11話 備えあれば患いなし

 


「ようこそ、我が冒険者部の城へ」


 放課後。

 我らが部長様に呼び出され、三階の空き教室にやってきた俺達を待っていたのは、わが目を疑うような光景であった。

 教室の床には高級そうな赤い絨毯が敷かれ、中央にはデンと陣取った黒檀の円形テーブルと、大企業の役員でも使っていそうな黒革のリクライニングチェア。

 黒板は、同じ大きさのホワイトボードに替えられ、反対側の壁際には頑丈そうな鋼鉄のロッカーが、その存在感をアピールしている。

 その他にも窓際には100インチはありそうな大型モニターに、本がぎっしり詰まった本棚と大きめの冷蔵庫、天井にはエアコン、テーブルの上には人数分のノートパソコンと、学校に似つかわしくないほどの豪華な内装となっていた。


「こ、これは……アンナ、お前がやったのか?」


 俺たちは、しばしその光景を前に固まっていたが、やがて復活した織部が震える声でドヤ顔のアンナへと問いかけた。


「フッフッフ、どうッスか? 良い感じでしょう? 皆さんが、この一週間ご自宅の備えを行っていた間、特にやることもなかったウチは、こうしてこの部屋の改装を行っていたというわけです」

「アンナ、お前、消えるのか……?」

「何でッスか! 消えませんよ!」


 俺の言葉に可愛らしく憤慨するアンナだが、いくらなんでも、これは……やらかしというレベルを超えていた。

 学校の空き教室をここまで派手に改造するとか。

 下手すれば、いや、下手しなくとも良くて停学、悪けりゃ退学レベルだ。

 俺がリーダー退学の危機に震えていると……。


「ああ! 安心してください。ちゃんと学校側から許可は取ってますから。部室の改装は、ある程度自由に行って良い、とね」

「部室?」


 首を傾げる俺に、アンナは満面の笑みを浮かべ両手を広げ。


「そう、ここは我らが冒険者部の部室! ウチらの拠点ってわけッス!」

「な、なるほど……」


 そうか、部室か。

 そう言えば、正式に部活になったんだもんな。それで部室が与えられたってわけか。空き教室を一つ丸ごととは、学校側も剛毅なことだ。

 しかし、それにしても……。

 俺は、グルリと部屋を見渡すした。

 これは、凄いな……。きっとウキウキしながらレイアウトやら調度品を決めたんだろうなぁ、と容易に想像できてしまう豪華っぷりだ。

 ……あの円形テーブルは、もしかして円卓でも意識してるんだろうか?

 まさに、アンナが思い描く理想の城、といった感じであった。


「さて、それではさっそく会議に入るとしましょう。皆さん、冷蔵庫からお好みの飲み物をとって、適当な席へとどうぞ」


 ホワイトボードの前へと移動したアンナに促され、言われるがままに冷蔵庫からジュースを取って、各々適当な席へと着く。


「記念すべき第一回円卓会議では、第三次アンゴルモア時の方針と、その対策について話し合いたいと思います。進行役は、僭越ながら部長であるこの十七夜月(かのう)アンナが務めさせていただきます」


 マジで円卓会議なんかい。

 コイツも何気に織部並の中二病だよなぁ……だからこそ仲が良いんだろうが。

 ってか、円卓ってあんま縁起良くないような。

 内心で呆れる俺を他所に、アンナはクールな表情で続ける。


「まず、方針についてからッスけど、これについてはとにかく生存第一に考えていきたいと思います。

 皆さんには、ウチの勢力作りがしたいという夢をお伝えしましたが、今は忘れてください。今はとにかく、部員全員での生存を第一目標に、一致団結して行動したいと思います。

 なお、ここで言う部員全員での生存というのは、その家族も含めたものとなります」


 へぇ……。

 俺は、アンナの掲げた生存第一という方針に、一先ず安心した。

 良かった……。ここで「これはチャンスです! ここは、リスクを冒してでも勢力作りをしましょう!」とか公言されたら、さすがについていけなかったからだ。


「基本的な方針が決まったところで、アンゴルモアについての基礎知識を共有しておきたいと思います。皆さんにとっては、すでにご存知のことかと思われますが、少々お付き合いください」


 アンナは、赤毛の尻尾を揺らしホワイトボードへとペンを走らせる。

 アンゴルモアとは、と丸っこい可愛らしい文字で書くと振り向いて説明を始めた。


「まず、アンゴルモアとは、迷宮外にモンスターが溢れ出す現象です。なぜアンゴルモアが起こるかのメカニズムは完全には解明されておらず、ただ迷宮の攻略を一定期間しないと発生してしまうことだけが判明しています。第二次アンゴルモアが起きた理由については現在も不明で、今回のアンゴルモアについてもおそらくは不明のまま迎えるでしょう」


 ちゃんと対策が取られていたにもかかわらず第二次アンゴルモアが、しかも全世界同時に起こってしまった原因については、今も学者たちが頭を悩ませながら研究をしているが、その理由はいまだに明らかになっていない。

 仮説ならば無数に発表されているが、それを実行するわけにもいかず、その証拠を証明できていないのが現実だった。


「アンゴルモアは、いくつかのフェイズに分かれています」


【第一フェイズ】

 FランクからDランクまでの階層の安全地帯が一時的に効果を消失し、モンスターたちが階層を移動可能となる。

 地上に近い順にモンスターが迷宮からあふれ出し、同時に急速に迷宮が増殖を始める。この段階では、新しく増えた迷宮からはモンスターの氾濫はない。


【第二フェイズ】

 第一フェイズであふれ出したモンスターたちが暴れることで迷宮にエネルギーが溜まり、Cランクモンスターが溢れ出す。さらに、新たに増えた迷宮の一部からもモンスターの氾濫が始まる。


【第三フェイズ】

 Bランクモンスターが溢れ出す。


【第四フェイズ】

 詳細不明。おそらくAランクモンスターが溢れ出すと思われる。そこまで行けばもはや人類の手には負えず、アンゴルモア中に、第四次アンゴルモア分のエネルギーが溜まる可能性がある。


「第一次アンゴルモアでは、迷宮の数が少なかったこともあり、なんとか第一フェイズで封じ込めることが出来ました。封鎖をすり抜けたモンスターもいたものの、死霊系モンスター以外には大きな被害はありませんでした」


 第一次の際は、迷宮周辺を自衛隊が封鎖していたこともあり、モンスターによる被害は比較的少なく済んだ。

 むしろ、モンスターによる被害よりも人間同士のパニックや暴動による被害の方が大きかったと聞く。

 中には世界の終わりと勘違いして、かなり好き放題した人間もいたようだ。

 もちろん、被害が比較的少なく済んだとは言っても当時の人たちからしたらとんでもない被害であり、あくまで第二次アンゴルモアと比べて少なかったというだけの話である。


「次の第二次アンゴルモアでは、事前にクダンの予言があったこともあり、様々な対策が取られました。Aランク以外の迷宮を一通り踏破し、Aランク迷宮での間引きの量も増やしました。改めて未発見の迷宮がないか国内中を調査し、しかし、それでも結局アンゴルモアは起きてしまいました。……しかも、その被害は、第一次の時の比ではなかった」


 カードや魔道具の使い方が判明し、クダンの予言があってもなお、第一次の時以上の被害が出てしまったのは、シンプルに迷宮の数が多かったせいだ。

 第一次と比べて迷宮数が激増してしまったことで、すべての迷宮の封じ込めが出来ず、主に低ランク迷宮からあふれ出したモンスターによる被害により、一気に第三フェイズまで進んでしまった。


 国も冒険者制度を導入する前から、迷宮のゲート前に鋼鉄製の扉を設置するなどしていたが、この扉で封じ込めができるのはEランクモンスターまでであり、Dランク以上のモンスターの攻撃に長時間耐えられるものではなかった。

 そのことは自衛隊もわかっていたため、Cランク以上の迷宮に戦力を重点的に置きつつも全国のDランク迷宮にも少数ながら部隊を配置していた。


 しかし、壁や地面を透過できる死霊系モンスターのすり抜けを防ぐことができず、それらが各地のFランク・Eランクの迷宮の扉を破壊して回ったことで大量の低ランクモンスターが地上に溢れ、加速度的にフェイズが進んでしまった。

 迷宮から氾濫したモンスターが被害を出すことで段階的に強力なモンスターが溢れ出すという性質が判明したのは、この時のことだ。


 それでも致命的なことにならなかったのは、第一次アンゴルモアを教訓に護身用のカードや地下シェルターを所有していた家庭が多く、ある程度の護衛ができていたことが大きい。

 第二次アンゴルモアでの被害を見て、国も自衛隊だけの対処は不可能と判断。導入に慎重だった冒険者制度を日本でも取り入れることを決めた。


「迷宮の数は、第一次で百個から千個に、第二次で五千個に、現在では七千個を超えました。千個でも全迷宮のカバーが出来なかったんですから、七千個でどうなるのかは考えるまでもありません。

 ……国も今度こそ国の存亡をかけてアンゴルモアに挑むでしょうが、それでも第三フェイズまでで封じ込めることが出来るかは、まあ、良くて半々といったところでしょう」


 ……部屋の雰囲気が重い。まるで、空気にタールが混じったようだった。

 改めて聞くと、実に絶望的な話だ。

 何が絶望的って、仮に運よく今回のアンゴルモアを乗り切れたとして、間違いなく第四次アンゴルモアは乗り越えられないことだ。

 第三次が起きた時点で第四次の到来は確定となり、第四次では行きつくところまで行くだろう。

 第四フェイズに何が起こるかは不明だが、まずAランクモンスターが出現するようになるだろうことは間違いない。

 Aランクモンスターが闊歩するようになった世界で、人類は絶滅せずに生きていられるのか?

 アンナは文明が崩壊すると言っていたが、それで済むのだろうか。

 ……案外、その時はその時、滅ぶならしょうがないと考えていそうだ。


「危機感を共有できたところで、具体的な対策の話へと移っていきたいと思います」


 厳しい現実を前に部員たちが黙り込む中、唯一いつもと変わらぬ様子を崩さず、アンナが言う。

 不思議な話、それだけで少し空気が軽くなる。

 こういう時、常日頃からアンゴルモアに対して心構えをしていた彼女の存在は、実に頼もしかった。


「アンゴルモアは、フェイズの進行を一か月間以上食い止めることで終了すると言われています。まずはこの期間を生き残ることを目標に、アンゴルモアがいつまでも終わらないことも想定して行動していきたいと思います」


 俺たちは頷いた。

 どこの国でも第一次アンゴルモアが一か月間ほどで終わったこと、第二次アンゴルモアが第三フェイズに移行してからやはり一か月間ほどで終わったことから、アンゴルモアはフェイズの進行を一か月間ほど食い止めれば終了すると見られている。

 仮に第四フェイズが最終フェイズだとして、それから一か月間でアンゴルモアが終了したとしても、その頃には人類文明は致命的なダメージを受けているだろう。

 俺たちは、アンゴルモアによって大ダメージを受けた世界か、永遠にアンゴルモアが続く世界のどちらかでも生きていけるよう備える必要がある。

 ……だが、まずはアンゴルモア中の行動についてだ。


「まず、アンゴルモア中は、出来るだけ皆一緒に行動したいと考えています。理由は、単独行動はそれだけでリスクがあるからです。まずは、何よりも優先して部員とその家族の合流を目指す。そのためには、低ランクモンスターしか出現しない第一フェイズでの行動が、重要となります」


 アンゴルモアが始まってから、モンスターたちが鋼鉄の扉をぶち破って出てくるまで、少なく見積もって五~六時間くらいの猶予がある。

 その間に家族を回収して、冒険者部との合流を目指さなくてはならない。

 数時間あれば余裕だろと思うかもしれないが、日中バラバラの行動をしている時にアンゴルモアが起こった場合、小学校とか会社とかスーパーにいる家族を回収し、部員たちと合流するのは、結構タイトなスケジュールとなるだろう。


「ここで問題となるのが、合流場所なんスけど……その前に皆さん、自分の身内以外にはどれぐらいの範囲を助けたいと考えていますか?」


 アンナの問いかけに、俺たちは顔を見合わせた。

 自分の身内以外か……難しい質問が来たな。だが、確かに考えておかないといけないことでもある。

 誰も彼も救っていては、本当に助けたい人が手のひらから零れ、自分自身も潰れてしまう。

 それでもなお出来る限り多くの人を助けたいと考えるならば、それ相応の準備をしておかなくてはならない。


「我は……」


 真っ先に口を開いたのは、身内とそれ以外ではっきりと線を引いている織部だった。


「家族と友人が最優先だ。それ以外を積極的に助けるつもりはない。さすがに目の前で死にかけていたら助けるが、その後の衣食住の面倒まで見るつもりはないな」


 織部の答えは、ドライではあるが現実的なものだった。

 自分の身ですら危ういアンゴルモアという極限状態で、赤の他人の生活の面倒まで見ていられない、家族や友人を優先したい、という彼女を責めることは誰もできない。

 もしもいるとすれば、それはアンゴルモアの脅威を理解していないか、自分は誰も助けないくせに誰かに助けてもらって当然と考えている寄生虫だけだろう。


「僕は……自分の手が届く範囲は出来る限り助けたいかな」


 逆に、そう答えたのは、師匠だった。


「……僕の兄は自衛官で、第二次アンゴルモアの時には人々を守って気高く死んだ。僕はそんな兄のことを誇りに思ってるし、その死に恥じない生き方をしたいと思っている。民間人の保護は冒険者の義務でもあるし、自分が潰れない範囲で助けたい。……僕の場合は、守らなきゃいけない身内も特にいないしね」


 姉さんなら僕がどうこうしなくてもたぶん勝手に生き残るでしょ、と肩を竦めて見せる師匠。

 師匠のそれは、俺や織部と違って特に守る者がいない、ある種の身軽さからくるものだった。

 身内についてもお姉さん一人しかおらず、彼女は俺たちが守ってあげなきゃいけないほど弱くはなく。親しい友人についても転校してきたばっかりで俺たち冒険者部くらいしかいないし、俺たちは同士であって庇護の対象ではない。

 師匠の出来る限り人を助けたいという懐の広さは、背負う者がいない余裕によるものだ。

 そして、それは守るべき者のいる俺や織部には真似できないタイプの強さだった。


「俺は……家族と友人たちが最優先。余裕があれば、学校のみんなもって感じかな……」


 織部と師匠と比べて優柔不断な表現となってしまったが、家族や友人以外は切り捨てられるほど割り切れないし、かといって師匠のように見ず知らずの人たちを助けたいと思うほど余裕があるわけでも、心が広いわけではない。

 家族や友人を最優先に守りつつ、余裕のある範囲で顔見知りを助けていきたいという、実に中途半端なものとなってしまった。


 ……本音を言えば、俺も本当は織部よりの意見だ。


 家族や冒険者部の仲間、友人たちが最優先で、それ以外は究極的にはどうでも良い。

 この場合の友人というのは、東西コンビや四之宮さんらカーストトップグループのメンバーを指し、その他は愛の幼馴染のアオイちゃんとミオちゃん、友人たちの家族ぐらいまでがギリギリ救いたいと思えるラインで、あんまり話さないクラスメイトや同じ学校というだけの生徒たちなどは……ぶっちゃけライン外だ。

 そりゃあ目の前で死にかけていたら助けるが、その後の生活の面倒まで見る義理も義務もない……というのが正直なところだ。

 織部ほどではないが、俺の世界もなかなか狭いのだ。

 それでも今回学校のみんなを救う範囲に含めたのは、俺にも欲があるからだ。


 ――――俺のカードたちに、格好いい姿を見せたいという欲が。


 自分の大切な人間だけを助けたいという人間には大いに共感するが、やっぱり多くの人を助けようという人間は凄いし、カッコいいと思う。

 俺は、カードの前ではできる限りカッコいい人間でいたいのだ。

 ……俺が、無関係の人間を助ける理由なんて、そんなもんだ。

 故に、その原動力がカードたちに良いところを見せたいという欲である以上、カードたちを失ってまで自分の欲を追い求める気はない。

 あくまで大切なのは、家族と家族も同然のカードたち。その優先順位だけは、はき違えるつもりはなかった。


「なるほど、皆さんの考えは大体わかりました」


 三者三様の俺たちの意見に、アンナは特に感想を述べることもなく頷いた。


「ウチの意見も述べさせてもらうと、ウチとしては学校の人たちやこの地域の人々を中心に救助できる準備を整えておきたいと考えています」


 ……そっちの方向で来たか。

 正直、冒険者部の面々で一番考えが読めなかったのがアンナだ。

 織部と師匠の意見はある程度予想できたが、アンナは身内以外を全部見捨て少数精鋭での生き残りを図るとか、あるいは逆に出来る限りの人々を助けて勢力を形成すると言ってもおかしくなかったからだ。


「理由は、そのつもりで準備しておくのが、一番リスクが無いからです」


 ん? どういうことだ? 思わぬ言葉に、俺は首を傾げた。リスクという意味なら、織部の方針がローリスクなはずだが……。


「生存第一ということで考えるなら、小夜の言う通り身内だけでどこかに隠れ潜むのが一番。ですが、最初から身内だけの避難を想定して動いた場合、ある程度幅を持たせたとしても準備がそれ相応のものとなります。

 かといって誰もかれも救う前提ではいくら準備をしてもキリが無く、時間も資金も足りません。

 ならば、実際にどうするかはさておき、初めからある程度の人々を受けられる準備をしておく方が、色んなケースに柔軟に対応できると考えました」


 大は小を兼ねると言いますしね。と締めくくるアンナに、俺たちも納得の表情で頷いた。

 確かに、初めから少数精鋭での想定で準備するよりもある程度の人々を受けられる準備をしておいた方が合理的である。

 最初は身内だけを守るつもりでも、なし崩し的に第三者を受けいれることになった時に「物資が足りません!」では目も当てられないし、ある程度受け入れの範囲を定めておけば、それ以上の人流に関しては断固とした意志で断ることができる。

 ……なにより、第三者の受け入れについて意見が割れたとしても、少なくとも準備に対する行動については一致団結することができる。

 部員たちの感情にも配慮した優れた案だった。

 さすがは我らがリーダーだと感心しつつ、問題が一つ。


「その救う範囲を学校周りに限定した理由は? ……学校を合流地点や拠点として考えているなら、あんまり相応しくないだろ」


 俺は、同じ懸念を抱いているだろう部員たちを代表して問いかけた。

 災害時のガイドラインとしては、避難所の第一候補は最寄りのギルド、ギルドが遠い場合は警察署、大きな病院、指定のホテル・学校・公民館などとなっているわけだが……おそらくウチの高校は、Cランク迷宮が出現した時点で避難所指定から外れている。

 Cランク迷宮をその内部に有するウチの高校は、アンゴルモア時にはそこら辺の道端よりもむしろ危険なスポットとなる。

 学校にいる時にアンゴルモアが起きた場合は仕方ないとしても、合流地点としても拠点としても適していないことは明らかだった。


「理由については複数あるんですが、まずは、アンゴルモアが起きた際に我々が学校にいる可能性が割と高いからですね」

「……すでに部員が全員揃ってるからってことか? それだとさすがに理由が薄いだろ。一先ずギルドとかの安全な避難所に向かってから、カードだけ遠隔で派遣して家族の回収をすれば良い」


 アンゴルモアの際に一番安全なのは、どう考えてもギルドの避難所だ。

 ギルドの避難所には、元自衛官の職員などの戦力もいるし、カードや物資などもたんまりとある。

 なまじ自分で拠点を用意するよりもよほど安全なはずだった。


「いや、待ってくれ、先輩。家族を回収するよりも前にギルドの避難所に行くのは、我も賛成しない」

「……僕たち冒険者は、アンゴルモア時には出来る限り一般人を守る義務を負うからね。特に四ツ星チームの僕たちは、重い義務を負う。避難所に行った時点でギルドの指揮系統に組み込まれ、家族を回収する行動の余地は無くなる可能性が高い」

「なるほど……」


 一度指示系統に組み込まれれば、先に自分の家族や友人の救助を優先してくれ! という我が儘は通らなくなる可能性は高い。ギルドの近くに家族がいるならば冒険者の精神面を考慮され許可されるだろうが、仕事や通学などで市外にいる場合は確実に救助の許可は下りないだろう。


「まあ、ギルドの指揮なんざ知ったこっちゃねえ! と無視して行動しても良いんスけど、その場合結局は避難所を離れることになるでしょうし、ライセンスも資格停止となる可能性が高いでしょう。

 自衛隊が第三次アンゴルモアを収束させられる可能性も『まだ』残っている以上、アンゴルモア後に冒険者ライセンスが没収される可能性がある行動は、なるべく慎むべきでしょう。

 その点、学校に残って生徒や避難者を守っていれば、それを建前にある程度自由に行動できるというわけです」


 まだ、ね……。

 アンナのそれは、自衛隊がアンゴルモアを収束させられないことがハッキリした時点で、既存のルールを無視して好きに動く、と暗に言っているも同然だった。


「……家族を回収してからギルドの避難所に行くというのは?」

「その場合は、メリット・デメリット両方ありますね。

 メリットは、他の場所よりは安全なこと。ギルドのカードや魔道具などの支援を受けられること。

 デメリットは、行動の自由が無くなる事。避難できる人数に限りがある事。そして……ポーションなどの魔道具やカードの供出を求められる可能性があること」

「……は!? カードの供出!?」


 なんだ、そりゃ!?

 驚愕する俺に、師匠が教えてくれる。


「第二次アンゴルモアの時に実際にあったことなんだよ。自衛隊の避難所に避難してきた人から、国が高ランクのカードや有益そうな魔道具を半ば強制的に買い上げたんだ。一般人が使わずに持っているより、自衛隊が使った方が効率的だからね。

 その時に色々とゴタゴタがあったから、今じゃ正式に法律が作られて、アンゴルモアの際には自衛隊やギルドがカードの強制買い取りが出来るようになってるんだ。

 ちなみにこれ、四ツ星の筆記試験で出るよ」


 マジか……。筆記試験の勉強は少しずつ進めてるけど、それは知らなかったな……。

 最悪、魔道具は仕方ないとしても、カードの供出はマズい。

 主力メンバーについては名づけしているから心配ないが、俺もすべてのカードを名づけしているわけではないからな。

 もしアテナを持っていかれて、それが蘇生用に使われなんかしたら、精神的なダメージは計り知れない。

 ……予め名づけしておこうにも、彼女のプライドの高さを考えるに、たぶんマイナススキルを解除するまで受け入れてくれないだろうしな。


「もちろん、取り上げられたカードや魔道具は、アンゴルモア終了後にすべて補填されたそうですが、今回はどうなるかわかりませんからね。仮にアンゴルモアを上手く乗り越えたとして、ちゃんと補填されるかどうか……」

「ギルドの避難所がマズいのはわかった。でも学校の迷宮の問題はどうする? そもそもどうして学校に拘るんだ? 他の拠点じゃダメなのか?」

「学校に拘るのは、この部室を物資の保管所にするつもりだからです。

 今は迷宮で手に入れた換金前の魔道具類やカードは、ギルドの貸金庫に預けていますが、そのまま預けておくのは問題があるのは、先ほどの話で理解しましたよね?

 早いうちにギルドの貸金庫からどこかに移しておく必要があります。

 そこに設置したロッカーは、収納スキルを持った純正魔道具で、見た目以上に大量の物資が入り、登録した人間以外は中身を取り出すことができないようになっています。今後、ここの迷宮で手に入れた物資は、あそこに保管しようと思っています」


 あれ、魔道具だったのか……。

 学校をここの迷宮の戦利品の保管庫にするつもりだったから、ここを拠点にすることに拘っていたわけか。

 引っかかる点はあるが、今は置いておくとして。


「学校の迷宮については?」


 結局、一番のネックとなっているのは、そこだ。


「迷宮については、速攻で踏破して沈静化することで対処するつもりです」

「沈静化って……」


 ずいぶんと簡単に言ってくれる……。

 確かにその迷宮の主を倒すか迷宮を踏破することで、その迷宮からのモンスターの氾濫は沈静化することができる。

 だが、攻略に専念できる夏休みですら約二週間かかったのだ。アンゴルモア中に、一日や二日で攻略できるわけがない。

 迷宮の主が地上に出てくるのを待ち構えるにしても、その間濁流のようなモンスターの氾濫を抑え込む必要がある。

 予め最終階層まで踏破して、アンゴルモアが起こったら速攻で主を倒すなら話は別だが、さっきの口ぶりからしてこの迷宮の攻略は続けるつもりだろう。


「その口ぶりだと、何か考えがあるのだろう? もったいぶらずにさっさと言ったらどうだ?」

「まあ、考えってほどでもないんだけどね。ぶっちゃけただのゴリ押しだし。遭難のカードを使おうと思って」

「遭難って……。おい、まさか」

「そのまさかッスよ、先輩。階層数分の遭難のカードを使って、一日で踏破します」


『ゴリ押し過ぎる!』


 俺たちは声を揃えて叫んだ。

 全階層分の遭難のカードを使うって、いくらかかるんだよ。一枚三百万円として、五十階層分で……一億五千万円とかか。

 そんなの……あれ? この迷宮の利益なら普通に払えるな。

 最初はとんでもないと思ったが、冷静に考えてみれば普通にアリな案だった。


「……学校の迷宮が問題ないなら、別に学校が拠点でも良いか。物資の保管所に学校を選んだのも、即迷宮の攻略ができるようにか」

「はい。下手に離れたところに物資保管所を作ると、物資を取りに行くこと自体がリスクとなりますからね」


 うーん、しかし……。


「そこまでして学校を拠点にする必要あるか? 一億五千万あれば、その分をカードとかの購入費に回した方が有意義な気もするが」


 気になるのは、やはりそこだ。

 俺の言葉に、他の二名も頷いている。

 どうもアンナは、初めから学校を拠点することありきで話を進めている気がするのだ。

 アンナは、しばし言いづらそうに口籠っていたが……。


「じ、実はすでに遭難のカードは、四十枚ほど集まってるんです……」


 え? ほとんど揃ってるじゃん。


「ええ……もう買っちゃってたのか? いつから?」

「学校の迷宮を攻略し始めるちょっと前からッスね……。万が一にでも期間中に攻略できなくなると困るんで、念のために……と」


『あー……』


 なるほど……。

 そういうことか……なら、まあ、わからんでもない。


「えー……。まあ、もう遭難のカードがほとんどあるなら、俺はそれで良いけど……」


 と織部たちを見ると苦笑しつつ頷いていた。

 まあ、ぶっちゃけ地上の拠点なんてギルド以外はどれも一緒だからな。ただのコンクリートの箱に過ぎない。

 拠点の本命は、異空間型カードだ。地上の拠点など、アンゴルモア時に速やかに蓄積してある物資を回収できる場所なら、どこでも良いのだ。

 そう言う意味では、迷宮からの戦利品を貯めやすく、アンゴルモア時に俺たちがいる可能性が高い学校は悪い場所ではない。

 ……俺にとっても、ガーネットの補給場所を確保できるというのは、好都合だしな。

 頷く俺たちを見て、アンナはホッとした様子で言う。


「助かります。どうせなら有効に活用したかったんで。売ってもいいんですが、どうしても買値以下になっちゃいますからね」


 しかし、学校を拠点にすることは問題ないが……。


「正直これを聞くかどうかは迷ったんだが……十七夜月家は頼れないのか? ハッキリ言って、学校を拠点にしたりギルドに頼るよりも安全な気がするんだが」

「あ~……」


 あんまり彼女の家の力に頼るのは問題があるとわかっているが、四の五の言ってる場合ではないのも事実。

 正直、十七夜月家の個人所有しているシェルターなんかに入れてもらえれば、ギルドなんかに頼るよりも安全かつ快適に過ごせるだろう。

 そんな俺の問いかけに、アンナは頬を掻きながら露骨に困ったようなしぐさを見せる。


「……わかりました。皆さんにはお話ししておこうと思います。絶対に他言無用でお願いしますよ?」

「わかった」

「……ウチの両親は、火星への移住計画が失敗したり、間に合わなかった場合のために用意してあった巨大シェルターに入ることが決まってます。ウチは出資者の家族ということで入ることができますが……」


 あぁ……なるほどね。

 言葉を濁すアンナに、俺たちは曖昧な笑みを浮かべることしかできなかった。

 そういう漫画みたいな話って本当にあるのね……。


「アンナはそこに入らなくて良いのか?」

「ないッスね。なんかツマンなさそうですし」


 もし俺たちのことを心配してのことなら……と思いつつ問うてみると、アンナはあっさりと首を振って見せた。

 ツマラナそうだからとは、実にアンナらしい答えではあるが……。


「その、ご両親は反対とかしてないのか?」

「そりゃあもちろん大反対ですよ。このままいけば、そう遠くないうちに縁を切られそうな勢いです」

「ええ……? マズいじゃん」


 実家のコネが使えなくなったアンナなんて、可愛くておっぱいが大きくて、先見の明とリーダーシップがあって、男のロマンに理解があるだけの女じゃん。


「あ、ちなみにそのことで父から先輩に話があるらしいんで、そのうちちょっと時間作ってもらって良いですか?」

「ヒョッ!? ど、ど、ど、どうして!?」


 動揺する俺にアンナは困った様子で頭を掻きつつ。


「いや~、なんかウチがアンゴルモアで別行動するのは、先輩のせいだと思ってるみたいなんスよね。どうもウチがこの高校に進学したのもそれが理由と思ってるみたいだし」


 ど、どうしてそんな勘違いを……。

 もしかして、アンナがこの高校に入学して来たのを俺のせいだと思ってるのか?

 お嬢様学校に通っていた一人娘が、高校は突然一般校へ。そこには、学生トーナメントで彼女を敗った男が。そのままその男と部活を作り、なぜか凶悪事件を共に追いかけはじめ、しまいには家族とシェルターに入らずにアンゴルモアを共に生き延びると言い出す……。


 クソッ! 端から見たら完全にそういう関係にしか見えねえ……!


 もしかして、アンナの冒険者部への色んな支援を、俺が貢がせてると思ってないだろうな?

 もしそうだとしたら、完全に抹殺対象だぞ……。


「まあ、無視してもらっても構わないんですけど、気が向いてくれたら会ってくれると助かります。さすがに最近うっとうしくなってきたんで」


 無視できるわけねえだろ……! 逆に恐ろしいわ!


「あ、ああ……わかった。近いうちに会うわ……」

「大丈夫か、先輩。もしなんだったら我も一緒に会っても良いが……十七夜月のおじさんとは知らない仲でもないし」

「いや、大丈夫」


 織部を連れて行ったらそれこそ誤解を解くのは不可能だ。娘だけじゃなく、その唯一の親友にまで手をつけてるとしか思われんわ。


「というわけで、アンゴルモアが始まったら十七夜月家の支援には期待できないと思ってください。というか、準備の時点から頼れないと思ってもらえると助かります」


 まあ、わざわざ娘が別行動するための協力はしないだろうなぁ。


「話を戻しますが、アンゴルモアの際の合流地点兼拠点の第一候補は学校ということで良いですか?」

『異議なし』


 まあ、他に候補も無いしな、と頷く。

 駄目そうなら最悪ギルドに駆け込めば良いし、マヨヒガがあるから少数での放浪生活も可能だしな。


「合流地点と拠点が決まったところで、次はどういったものが必要か考えていきましょう。とりあえず皆さん、各々必要だと思うものを片っ端から上げてみてください。その際、他の人の意見を否定するのは無しで。一先ず自由にボードに書き出してみてから一つずつ吟味して、優先順位を決めていきましょう」


 俺たちは頷き、必要だと思うモノを挙げて言った。


「とりあえずは水と食料だよな。カード化した食料だけじゃなくて、食料自体を生み出せるカードや魔道具も必要だ。あと服とかも」

「回復魔法が扱えるカードやポーションの類もいくらあっても多すぎということはないだろうな。ポーションを生み出せる魔道具は特にだ」

「マヨヒガのような異空間型カードも欲しいよね。過酷な状況だから、少しでも気が休まるところが必要だよ。生活を快適にしてくれる魔道具も欲しいね」

「必須ってわけじゃないだろうけど、本とかゲームとかそういうのもあった方が良いよな。学校が拠点なら図書室もあるけど、所詮は学校の図書室だしな」

「ふむ、家電を使うことを前提とするなら、魔石発電機と魔石もだな。まあ、発電機は学校に備え付けのものもあるし、魔石についてはいくらでも手に入るだろうが」

「せっかく視聴覚室とかあるんだし、DVDを見れるようにして簡易的な映画館にするのも良いかもね。防音結界で外に音とか漏れないようにしてさ」

「……ぶっちゃけ、避妊具とかも必要じゃね? 絶対、そういうことをする奴出るだろうし」

「……避妊具だけじゃなく、色んな生活雑貨が必要かもね」

「下着の替えに、シャンプーやリンス、ボディソープ。歯ブラシセット。男なら剃刀とシェーピングクリーム。女なら化粧品等……。すべてを上げればキリが無いな」

「んー、マヨヒガで寝泊まりするにしても、どうしても部屋数が足りないよな。風呂とか潰してリソースをすべて部屋数に振り分けても百部屋くらいが限界だし。教室で雑魚寝することになるなら仕切りになるカーテンとかもか? ダンボールベッドとかマット、毛布とかは学校に元々あるだろうけど」

「どれくらいあるかわからないし、僕らでも準備しておいて損はないだろうね」

「モンスターの襲撃で校舎が壊れることを考えたら、そういう修理用の物資も必要か? ああ、いや、家事魔法があれば多少の修理はどうにかなるか。いや、修理のための材料は必要なのか? 使ったことねーから仕様がわからないな……」

「ああ、シルキーとかの家事魔法は、多少の欠損部は勝手に埋まるよ」

「うーん、さすが魔法……」


 いざアイディア出しをすると、次から次へと湧いてくる。

 そうして雑談を交えつつも思い付く限りのアイデアを出し尽くすと、次は優先順位を決めていく。

 最終的に、優先順位は以下の通りとなった。


 残りの遭難のカード≧食料系≧異空間型カード(できれば異界クラスを一枚)≧各部員の戦力増強用カード

 >>(必須レベルの壁)>>

 回復系カード及び魔道具>装備化スキル持ち及び眷属召喚持ち

 >>(金がある分だけ揃えていきたい物の壁)>>

 雑貨類> 便利系魔道具

 >>(あれば便利な物の壁)>>

 娯楽類(他の物を揃えて余裕があれば……)


 この優先順位とは、必ずしもその順に手に入れていくということではなく、同時にどちらか手に入れられそうな時、優先順位が高い方を優先するという順位である。

 そのためカードと比べ安価ですぐ手に入るカード化された食料品や雑貨などは、むしろ最初にある程度の量を手に入れることになる。


「……物資の調達については、こんな感じッスかね。

 正直、異界クラスの異空間型カードは値段的にムリ目な感じもしますけど、異界クラスが手に入れば食料問題も一気に解決するんで、積極的に狙っていきたいッスね」


 異空間型カードも高ランクとなってくると妖精郷や桃源郷など一つの異世界が丸々入っているレベルとなり、それ一枚で食料問題も防衛についても一発で解決する。

 それだけに値段についてもそれ相応に高く、アンゴルモアに向けて価格も高騰していくだろうが、狙っていくだけの価値はあった。


「各自の戦力増強については、カーバンクルガーネットの分配をそのまま続行するんで、各自で戦力を揃えてください。ウチの迷宮からのドロップ品を狙っても良いですしね。

 その他の食料系のカードや異空間型のカードについては、誰も欲しがらなかったカードの売却や、不要な魔道具の売却で揃えて行こうと思います。

 まあ、前回攻略でのドロップを考えるに、二周か三周で異空間型カード以外は最低限揃えられるんじゃないッスかね?」


 今回のCランク迷宮攻略では、カードだけでも一億五千万相当のドロップがあった。それも市場価格ではなく、ギルドの買い取り価格での値段だ。

 そこに魔道具の売却益を含めれば、Bランクになると思われる異空間型カードは厳しいとしてもそれ以外の必要最低限の物資やカードは揃えられるだろう。

 ……まあ、メンバーが欲しいカードが多くドロップした場合、物資の調達に回す資金も減り、それだけ物資の調達も遅くなるが、戦力の増強が最優先なので仕方ない。

 もし遭難のカードがすべて揃うまでにアンゴルモアが起きてしまった際には、学校を拠点とする案は破棄し、本当に身内だけの少数精鋭での生き残りを図るサブプランへと移行することとなっている。



「――――大体の方針と対策は、これで決まった感じッスかね? 皆さんから何かありますか?」


 その後も細々とした想定を話し合い、最終下校時間の十八時が近づいてきて窓の外もすっかり暗くなってきた頃。

 会議の締めくくりとしてアンナが皆へと問いかけた。

 何かあったかなと首を傾げ、そこで小野のことを思い出した。


「あのさ、うちのクラスに小野って奴がいるんだけど……」

「うん? ああ、あの猟犬使いの事件の時に、調査に協力してくださった人ッスね」


 おお、アンナの記憶にちゃんと残っていたか。これは話が早い。


「アイツ、すでにアンゴルモアの前兆について嗅ぎ付けててさ。冒険者部に入りたいって言ってるんだけど……」

「ああ、なるほど……そういう話ッスか。この段階で、特にコネのない一般人が嗅ぎ付けるとは……やりますね」


 アンナは少し考え込むような仕草を見せ。


「結論から言うと、皆さんが反対でなければウチとしては問題ありません。小野先輩には、情報収集能力という強みもありますしね。ただ、正式な入部は今すぐではなく、政府がクダンの予言の発表をしてからとしてもらうよう伝えてもらえますか?」

「予言の発表後? なんでだ?」

「そのまま伝えていただければ、たぶん小野先輩がウチの思っている通りの人ならそれで理解してくれると思います」


 ふむ、俺にはよくわからんが……。


「……わかった。とりあえず入部については問題ないってことなんだな?」

「はい。小夜や神無月先輩もそれで良いですか?」

「先輩の友人なら問題ない」

「僕も大丈夫」


 こうして、小野の冒険者部の入部は無事通ったのだった。




【TIPS】沈静化


 アンゴルモア時、迷宮の踏破か迷宮の主を討伐することにより、その迷宮におけるモンスターの氾濫を一時的にストップさせることができる。

 これにより、アンゴルモア時の被害を減らすことができるが、沈静化はあくまで新たなモンスターの氾濫を防げるだけであり、すでに溢れ出してしまったモンスターが消滅することはない。また、沈静化した迷宮に一匹でもモンスターが入りこめば、モンスターの氾濫が再開する。

 迷宮の踏破=迷宮の主の討伐ではないのは、迷宮の主がすでに迷宮外に出ている可能性もあるからである。その場合、主が階層を移動した段階で出口のゲートが最下層に出現しているため、そこを通れば踏破扱いとなる。その場合、当然ながら踏破報酬は出ない。また主が最下層に戻った時点で出口のゲートも消える。

 沈静化できる期間は、およそ一か月ほど。その期間中に再度踏破することで期間は延長できる。



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