第3話 キマリスは 仲間になりたそうに こちらを見ている!②
【種族】セレーネー
【戦闘力】750
【先天技能】
・輝く満月の女神:月と魔法の女神であるセレーネーの権能を使用可能。
・三相女神:このカードは、別の側面とも言える別のカードと三位一体である。三枚召喚しても迷宮の召喚枠を一つしか消費しない。また生命力、魔力、スキルの使用回数を三枚で共有する。
・凍てつく月の世界:周辺一帯を月明かりが照らす夜のフィールドへと塗り替える。味方以外の眷属を一掃し、新たな眷属召喚を封じる。場に、アルテミス、セレーネー、ヘカテーの三枚が揃っている場合のみ使用可能。一日一回のみ。
・獅子座の護り:眷属であるネメアーの獅子を召喚可能。一日一回、一体のみ。
・高等魔法使い
【後天技能】
・神のプライド
・簡易神殿:地面に魔方陣を描くことでその場に簡略化した神殿を形成することができる。神殿内において、全ステータス向上、持続回復、一部スキルの出力向上。神属性は効果向上。
・詠唱短縮
・魔力回復
【種族】ネメアーの獅子
【戦闘力】700(召喚時1050)
【先天技能】
・鉄壁の毛皮:高等クラスの装備化スキル。他のカード、あるいはマスターへと憑依することで、自身の戦闘力を加算させることができ、また自身の持つ装備化スキル以外の先天スキル一つと、すべての後天スキルを共有する。この毛皮は、物理攻撃に対する高い防御力を有しており、一定以下の威力の物理攻撃を無効化する。
・獅子座の加護:獅子座の加護により弱点を突かれない限り不死の力を持つ。怪力、自己再生、不死を内包する。脇腹を攻撃されることで解除。
・食物連鎖:喰らったモノを糧とし、その力を一部取り込むことができる。捕食により自己再生し、相手のステータスの一部を一時的に自分に加算する。
・本能の覚醒
【後天技能】
・高位眷属体:スキルとして呼び出された仮初の肉体。後天スキルを持たず、成長もしない。高位眷属体はオリジナルと遜色ない自我と初期戦闘力の1.5倍の戦闘力を持つ。
【種族】ベルセルク
【戦闘力】900
【先天技能】
・最高神の戦士:北欧神話の最高神オーディンに仕える戦士。 初等ルーン魔術、戦士スキルを内包する。
(初等ルーン魔術:北欧におけるローカルスキル・ルーン魔術を初等レベルで使用できる)
(戦士:戦士に必要な技能を収めている。武術、剣術、槍術、弓術、騎乗スキルを内包する)
・狂気を纏う者:狂気に身を委ね殺戮を行う。一定時間暴走状態となり一切のコントロールが効かなくなる代わりに時間内は『不滅』状態となり、全ステータス三倍、状態異常無効。効果切れ後、一定時間行動不能。
(不滅:効果中、生命力以上のダメージを負っても免れることができる)
・生命の泉:尽きることない生命力の源。生命力、耐久力、一部状態異常耐性を常時大きく向上させる。自己再生、持続回復を内包する。
・物理強化:物理的な攻撃の威力を強化する。
【後天技能】
・狩人:武術、弓術、遠見、追跡、気配遮断スキルを内包する。
・無拍子:武術系スキルの工程を省くことが出来る。熟練度により効果上昇。
・見切り
セレーネー。
アルテミス、ヘカテーと合わせ、三位一体の月の女神として有名なカードである。
これら三柱の女神はそれぞれ月の満ち欠けを象徴しており、半月のアルテミスは成長途中の少女を、満月のセレーネーは成熟した女性を、新月のヘカテーは終わりゆく老女(と言ってもヘカテーもちゃんと妙齢の美女ではあるが……)を表していると言われている。
三位一体のカードには他にもヒンドゥー教のブラフマーとヴィシュヌとシヴァ、北欧神話のウルズとヴェルザンディとスクルドなどが有名だが、これらは総じて二相女神とはまた違った二体一対型スキルの上位スキルを持つ。
セレーネーが持つ三相女神は、二相女神同様、二体一対型スキルの上位スキルである。
なぜ二相女神の上位スキルと呼ばないのかというと、単純に上位互換と呼ぶには長所と短所があるからだ。
三相女神が二相女神よりも優れている点は、まず一枠で召喚できる数が三枚であること。次に、三枚揃った際は強力な固有スキルが使用可能なこと。
劣っている点は、二相女神と違い別のカードに変身することができないこと。また後天スキルまでは共有できないこと。
二相女神や三相女神といった二体一対型のスキルの強みは、一枠で複数枚のカードを召喚できることにあり、その枚数が増えるというのはシンプルに強い。特にこの手のスキルはモンコロなどの数が制限されている場で無類の強さを発揮する。……強すぎて試合が組まれにくくなるくらいに。
ただし、三枚揃えると強い、というのは現実的に考えるとデメリットにもなりうる。それは、揃えられなければ何の意味もないということだからだ。
Cランクならまだしも、Bランクともなると個人で三枚揃えるのは、不可能とまでは言わないものの相当な困難だ。
ぶっちゃけBランクの女の子カードを三枚も揃えられるならすでに一生遊んで暮らせるだけの資産があるわけで、そこまでして三位一体のカードを揃える意味があるかというのは、疑問である。
そういう点で言えば、枠の圧縮効率が低くとも一枚で別のカードの力が使える二相女神の方がコスパ的に優れていると言えるだろう。
後天スキルが共有できないというのも、大きすぎるデメリットだ。
ただ、三相女神には二相女神にはない大きな長所が存在する。
それが、三枚揃った際にのみ使用可能となる専用スキルだ。
セレーネーたちの『凍てつく月の世界』は、極めて希少な眷属召喚殺しのスキルである。
現在のセミプロクラス以上の環境をトレーディングカードゲームに例えるなら、ぶっちぎりの眷属召喚一強である。
プロフェッサーだろうとグラディエーターであろうと、デッキに眷属召喚持ちが入っていないと話にならない、そういうレベルだ。
眷属召喚持ちに対抗しようとした場合、最も手っ取り早いのがこちらも眷属召喚持ちをデッキに入れることであり、如何に眷属召喚持ちを上手く回せるかが基本戦略となっている。
これがカードゲームならばあまり健全な環境とは言えず、運営によるテコ入れが期待されるところなのだが……あいにくこれは現実だ。迷宮の登場から約二十年、調整らしい調整が入る様子はない。
つまり、この眷属召喚一強の環境は今後も続くということだ。
そんな中、極めて貴重な対・眷属召喚スキルと呼べるのが、この『凍てつく月の世界』だった。
相手の眷属召喚を封じつつこちらは眷属召喚をし続けることができるこのスキルは、まさに俺TUEEE!の権化。
モンコロで使用した日には二度と試合を組まれないこと必至である。
ある意味リアル禁止カードみたいなものだが、迷宮内ではそんな暗黙の了解など存在しない。
思う存分俺TUEEE! したところで誰の文句も入らない。
まあ、三相女神を揃えられる時点で十分世間的には俺TUEEE!状態ではあるのだが。
三枚揃えようと思ったらそれこそ60〜70億はかかるわけで……プロチームが共同購入してようやく揃えられるかどうかといったレベルだろう。
当然軍の方では当たり前のように使われているのだろうが、それでもなおAランク迷宮をどの国も踏破できていないというこの魔境っぷり……。
まあ50階層以上では普通にセレーネーとかも出現してくるだろうからね……仕方ない。
一方のベルセルク。こちらはシンプルに一枚で強いタイプのカードである。
高い戦闘力と圧倒的な近接能力を持ち、一定時間『不滅』状態になることができる『狂気を纏う者』と、初等ランクではあるが北欧のローカルスキル、ルーン魔術のスキルを持っている。
ローカルスキルを持っていることからもわかるように、このベルセルクは日本産ではなく北欧産のネイティブカードなのだろう。
日本にはベルセルクというカードは存在せず、劣化ベルセルクと呼ばれるバーサーカーのカードがDランクにあるのみだからだ。
ルーン魔術は、付与に特化したスキルで、攻撃的な魔法こそ少ないものの味方や魔道具にルーンを刻むことで圧倒的な汎用性を持つ優れたスキルである。
探索、結界、除霊、解呪、姿隠し、強化、敵避け、遠見……。
その汎用性は、高等ルーン魔術スキルさえあれば大半の魔道具が必要なくなると言われるほどだ。
切り札の『狂気を纏う者』は、コントロールが効かなくなるという大きなデメリットはあるものの味方を攻撃することはないし、一枚で迷宮の主に対抗できるほどの強力なスキルである。
平常時はその近接能力とルーン魔術でテクニカルに立ち回り、いざという時は暴走状態となって短期決戦や撤退の際の殿に置くこともできる、高水準に纏まった強カードである。
さて、どうするか。
これは難しい問題だ。
数あるカードの中からこの二枚のカードを選んだのにはもちろん理由がある。
セレーネーはイライザの、ベルセルクはユウキのランクアップ先なのだ。
つまり、イライザとユウキのどちらをランクアップさせるかという話なのだが、実のところユウキをランクアップさせるのは少し問題があった。
ユウキをランクアップさせた場合、限界突破や真・眷属召喚といった特殊な後天スキルがどうなるか分からないのだ。
無事に引き継がれればそれで良いのだが、引き継がれない可能性も普通にある。
その場合、せっかくランクアップしたというのに特に戦闘力のアップには繋がらず、復活コストだけが跳ねあがるという結末となってしまうだろう。
それにシロとクロが失われてしまうのもある。
だが、イライザの方であれば特にそういったリスクもなくメリットだけを享受できる。
唯一の懸念点は、『マイ・フェア・レディ』が使えなくなるかもしれないことだが……これに関しては彼女の資質が大きく関わっている可能性が高いためあまり心配はいらないだろう。
というわけでこの二つだけを見比べた場合、ランクアップさせるならばイライザの方……ということになるのだが、ここで問題となってくるのが残りの月の三相女神についてだ。
実は、ユウキはアルテミスにも、メアはヘカテーにランクアップ適性を持つのである。
セレーネーの真価を最大限発揮させようと思うならば、アルテミスとヘカテーも揃える必要がある。
そうなったら、ユウキとメアもアルテミス、ヘカテーにランクアップすることになるだろう。
もちろん、ユウキたちはアルテミスらにランクアップせずにそのまま使い、アルテミスとヘカテーは新しい仲間としてイライザとセットで使うという手もある。
そうすればせっかく得たメアの霊格再帰も無駄にはならないし、ユウキの特殊な後天スキルについても悩む必要はない。
だが、Bランクの入手困難さを考えた場合、これ以上ユウキやメアに新しいランクアップ先を用意する余裕はない可能性がある。
下手するとユウキたちはこれ以上ランクアップできぬまま現役引退ということすらあり得る。
それはあまりに心苦しい。やはりどこかでアルテミスらにユウキらをランクアップさせることになるだろう。
つまり、この選択は単純な戦力アップだけでなく、今後の俺のデッキ戦略にも関わってくるのである。
月の三女神ルートを選んだ場合、すべて揃うまで真価を発揮できない上に、せっかく得たメアのリリムへの霊格再帰も失われることになる……。
一方でベルセルクを選んだ場合、変にランクアップ先に縛られることがなくなる分、ランクアップがやりやすくなる。
それに、月の三相女神はどれも後衛よりのカードというのもデッキのバランスを考えるとあまり良くない。
そもそも今のウチのメンバー自体がやや後衛よりなわけで。
ここで近接特化のベルセルクが手に入れば今後のデッキ構成はかなり楽になるだろう。
マイナス要素である暴走についても、もしかしたら勇者スキルでコントロールできるようになるかも? と少しだけ期待してもいる。
上手く歯車がかみ合えば劇的に戦力アップが見込めるだろう。
だが、すべてそろった際に強いのは月の三相女神の方であるのも事実……。
ロマンを追いかけるか、現実路線でいくか。
…………………………いや、待て。
いつの間にか交換することを前提に考えていたが、キマリスをそのまま使うという選択肢もある。
キマリスをそのまま使うメリットは、二つ。
一つは高位の装備化能力によりメンバー一人にBランク一枚分の戦闘力を上乗せできること。
これはヘタにだれかランクアップさせるよりもよほど使い勝手が良い。
戦闘力不足により二軍に甘んじてはいるが、優れたスキルを持つカードを一線級にすることができるし、いざという時には俺自身のガードにも使える。
もう一つは、軍勢召喚スキルという数の暴力を得られること。
数の暴力はウチのパーティーに最も欠けていた要素であり、その厄介さは織部との模擬戦でも嫌と言うほど味わった。
わざわざ月の三女神を揃えずとも、眷属召喚に対抗するなら眷属召喚持ちをデッキに入れる方が手っ取り早い。
これからCランクが雑魚敵としてわんさか湧いてくるCランク迷宮に挑む身としては、喉から手が出るほど欲しい能力だ。
……ヤバイ。考えれば考えるほど、キマリスが魅力的に見えてくる。
デメリットは、せっかく高い価値のカードを交換できるのにそのチャンスを捨てることになること。
キマリスでセレーネーやベルセルクと言った高額カードが手に入るチャンスなどこれが最初で最後だろうし、「今だけ! 特別! 貴方だけ!」というヤツだと考えるとチャンスをどぶに捨てようとしている気がしてくる。
とは言えデッキの内情を考えると現状で最適なのがキマリスなのも確かなわけで……。
ここは一つ賭けに出てみるか……?
「遠野さん……」
「はい、なんでしょう」
「これ、ちょっと……保留ってのはできないですか……?」
「もちろん。良いですよ」
やっぱダメか……えっ!?
「高額カードのトレードですからね。ここですぐ答えを出してくれなんて無茶なことは言いませんよ」
「あ、そ、そうですか……」
そりゃそうか……。考えてみれば十億以上の資産のやり取りだもんな。
「ただ先方の事情と言うのもありますから……できれば半年、最悪でも一年以内に答えを出していただけると助かります」
半年から一年……かなり余裕があるな。
それだけあればキマリスを実際に使ってどうするか決めるだけの時間は十分ある。
その間に新しいBランクカードを手に入れる可能性もゼロではない。
変化する状況に合わせ、最適なトレードを(あるいはトレードしないことも)選択できる。
「ただあらかじめご承知おいていただきたい点がいくつか」
「はい」
「まず、正式にお断りいただくまではカードがトレードできない状態にしないでいただきたい、というのが一点」
トレードできない状態。つまり名づけしたりロストしたりしないようにしろ、ということだ。
まぁ当然の要求だな、と頷く。
「次にキマリスを使用し、その結果マイナススキルなどを得てしまった場合、こちらの提示するカードを変更させていただく、あるいはこの話自体をなかったことにさせていただく場合もある、というのが一点」
これも当然の話だ。
マイナススキルがつけば当然カードの価値も下がるし、最悪もう要らないとなるのも当たり前のことだ。
「逆に北川さんが使っていくうちに優れたスキルなどがついた場合であっても、これ以上のカードを提示するのは難しい、というのが一点」
……ふむ、良いスキルがついてもこれ以上キマリスの価値は上がったりしないということか。
マイナススキルがつけば価値が下がることを考えるとアンフェアなように感じなくもないが、すでにかなり高めの価値を付けられていることを考えればこれも納得せざるを得ない。
「最後に、これらのリストは複数の希望者の提示品からとなりますので、時間の経過と共にリストに変更がある可能性もあります。これは増減ともにの話になります」
……このリスト、複数人からの提示品のリストだったのか。
まあ、考えてみれば当たり前の話か。何十億もするカードのリストなんて大企業であっても用意するのは難しい。
複数人の富豪、あるいは企業からなるリストと考えるのが自然だ。
リストに変更があるということはセレーネーやベルセルクが消える可能性もあるわけだが、仕方ないか。
逆にもっと良いカードが追加される可能性もあるわけだしな。
「以上になりますが、問題はないでしょうか?」
「はい、問題ありません。それでよろしくお願いします」
良し! これである程度の猶予が出来た。
俺が内心でガッツポーズを取っていると……。
「それとこれは個人的なお願いなのですが」
「なんですか?」
「できれば正式にトレードするまでの間にサインを作っていただけると助かります」
「さ、サイン?」
「ええ、やはりこれが北川さんのキマリスという証拠が必要となりますから、その証明代わりに」
「あ、ああ……なるほど」
サイン……正直ちょっと恥ずかしいな。
でもさっき無理気味なお願いを聞いてもらった身としては断り辛い……。
仕方なく俺は頷いた。
「わかりました……でも俺サインなんて持ってないし、どう作れば良いのかもわからないんですけど」
「わかります。皆さん最初はそうおっしゃりますから。まあ、そういうのはプロに頼んで作ってもらうのが楽だと思いますよ」
「プロ、ですか」
「ええ、今はネットで数千円くらいで頼める時代ですから」
「なるほど」
しかし俺がサインを、ね〜。
家族や東野たちにバレた日には憤死しちまうな。
こりゃあなんとしても隠し通さねば……。
そう覚悟する俺であったが、後日蓮華によって家でサインの練習をしていたところを家族にバラされ羞恥にのたうち回ることになるとは、この時は予想だにもしていなかったのだった。
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