第23話 カードの名付けは、死んでも良いって思ってる証拠


「まい——」

「まだ、だ……」


 俺が降参を告げようとしたその時、掠れた声がそれを遮った。

 ググッと身体を起こし俺を見上げる蓮華。

 その様子は誰がどう見ても瀕死で。


「まだ、戦える、ぜ……」

「何言ってんだ、お前! これ以上は本当にロストしちまうぞ!」


 だから俺は出会ってから初めて本気で蓮華を怒鳴りつけた。


「だろうな」

「だろうなって……」


 一瞬絶句し、問いかける。


「なんで、そこまで……」

「——お前が、言い訳しようと、したからだ」

「!!!」


 蓮華の強い眼差しが、俺を貫いた。

 図星をつかれ、心臓がドキリと跳ねる。


「お前、色々理由をつけて、負けを納得しようと、しただろ……。そうやって負けたら、お前の人生に消えない負け癖がついちまう。いつか来る、絶対に負けられないところで、負けちまう……そんな奴になっちまう、だろうが」

「蓮華……」


 彼女の言う通りだった。俺は、神無月の方が経験が長いから負けても仕方ないだとか、今なら蓮華たちをロストせずに済むだとか、色々と負ける為に理屈をこねていた。終いには、悔しさを誤魔化すために相手を内心で褒めてすらいた。アイツは凄い奴だ、優しい奴だと……だから負けても悔しくなんてないと。

 そんなのは、負け犬の理論武装だ。蓮華はそんな俺の内心を見抜いていたのだ。


「お、覚えとけ。本当に負けるその瞬間まで、足掻けない奴に……幸運は、微笑まない、んだよ」


 血を吐くような蓮華の訴え。

 お、俺の為なのか……。ここだけじゃない、俺の人生全体のことを考えて……。

 胸に込み上げてくる熱い何かに、胸元をグッと握りしめる。

 言葉が出ない俺の頬へ、小さな手がそっと添えられた。蓮華が囁くような声で問いかけてくる。


「なあ、なんで歌麿は、アタシたちに名付けをしたんだ?」

「それは……お前らを失いたくないからだよ。だから、もうやめようぜ」


 負け癖がついたって、コイツらをロストさせるよりは良い……。

 蓮華の話を聞いて、逆にその想いは強まった。勝つというのは、コイツらを死なせてまで得なきゃいけないことなのか? そんなの、絶対に嘘だ。

 しかし、俺の言葉に蓮華は首を振る。


「それなら、なおさら、最後まで戦わせて、くれ。ロストしても、本当に失われるわけじゃあ、ないんだから」

「いくら完全にロストしないって言っても、一回死ぬのは同じことだろうが!」


 俺は、ユウキが死にたくないと震えていたことを覚えている。いくら復活できるカードと言えど、死ぬのは怖いのだ。

 だから俺はこれまでの迷宮探索でも、低ランクカードを使い捨てにするようなことをしてこなかった。Fランクカードに罠をぶち当てて解除していく方が効率的だと知っていても、頑なにイライザに罠への対処を学ばせ続けた。

 それが、命の大切さを教えてくれたコイツらへの俺なりの感謝だったのだ。

 なのに、その当人が、頼むから死ぬまで戦わせてくれと言う……。

 蓮華がフッと笑った。死を覚悟したものの、透明な笑み。


「なあ、知ってるか? 名づけは、カード側が拒否することもできるんだぜ?」

「なに?」


 ……知らなかった。カードの名付けは、マスターによる一方的なものだと思っていた。

 だが、それが今、なんの関係が……。

 俺の疑問を他所に、蓮華が静かに語る。


「アタシたちにとって、ロストは死じゃない。カードから失われれば、ただ“母なる海”に帰るだけのこと……。だが名づけを受ければ、そのマスターに、拘束され続けることになる。そんなのごめんだと思ったなら、カードだって名前を拒否することができる。名前を受け入れるってのは、アタシたちにとっても、覚悟のいることなんだ」


 そこのところ、メアの奴はわかってなさそうだけどな。と蓮華は小さく苦笑した。

 俺の眼を見る。仄かに赤い瞳の中に、俺の顔が映った。


「世の、マスターたちが、名付けをどう思ってるのかは、知らない。もしかしたら、ちょっとした保険程度に、考えてんのかもな。でも、アタシたちにとって、名前は——」


 ——マスターの為なら何度だって死んでもいいって思ってる証拠なんだぜ?


「……………………ッ!」


 声にならない叫びを上げて、胸を掻きむしる。

 自己嫌悪で今すぐ死にたかった。クラスカーストで成り上がりたいからとか、クラスの連中にバカにされたくないとか、そんな気持ちで大会に出た少し前の俺を、本気で殺してやりたかった。

 コイツらはこんなに覚悟を決めて俺について来てくれたのに、俺はフワフワした気持ちでまた戦っていた。

 覚悟が全然足りなかった。ハーメルン戦で学んだつもりだったのに、俺はまるで成長していなかった。

 ……だが、今、決めた。今からならまだ間に合う。そうだ、ここから一緒に戦おう。

 俺は、すべてを失う覚悟を決めた。


「……お前らが」


 懐から一本の小瓶を取り出す。

 アムリタ。これが俺の覚悟だ。

 これを売れば、万が一カードが全滅しても復活させられる。

 今まではそんな保険をかけて戦っていた。

 でも、そんな保険を持ったままじゃ、命懸けじゃない。

 これを持っていたから、どうせ負けても大丈夫と思っていたから、甘えてたんだ。

 負けても、自分で復活させる。何年掛かっても、何十年かかっても。それが、礼儀だ。


「全部割れても、必ず全部復活させてやるから、心配すんな」


 俺がそっとアムリタを口へと運んでやると、蓮華は一瞬キョトンとして。


「ああ! それでこそ、アタシのマスターだ」


 そう言って、心から嬉しそうに笑った。

 蓮華がアムリタを一気に呷る。蒼い光が彼女を包み込んだ。

 パッと光が弾けた時……彼女の傷はどこにもなかった。

 完全復活だ。痛々しい傷がすべて消え去った彼女の姿を見て、ホッと頬を緩める。

 しかし……それでも、振り出しに戻っただけ。戦力の差は些かも埋まっていない。

 敗北は確定している……だが、それでも構わない。無様に、全滅する瞬間まで足掻くだけだ。

 と、その時。蓮華がポツリと呟いた。


「…………ああ、そうか。そういうことなのか。そりゃあ、誰も気づいてないわけだ……」

「蓮華……?」


 怪訝な顔をする俺に、蓮華は可笑しそうに笑う。


「アタシみたいな外れカードに、アムリタなんて貴重品を使うバカは、お前くらいだって話だよ」

「何を言って、……ッ!」


 ハッと前を見る。

 そこには、電池が切れたように地面に倒れ込むイライザとユウキの姿があった。

 リンクから感じる二人の状態は、瀕死。

 時間切れ、か。これでは蓮華が復活しても、もう……。

 唇を噛みしめる俺に、蓮華が囁いた。


「大丈夫だ、アタシに任せろ」


 どういう意味だ、と問い返す前に——強い光が目を焼いた。

 同時に、ふわりと花の香が鼻をつく。


「これ、は……っ!?」


 腕で目元を庇いつつ、光を纏った蓮華を凝視する。

 やがて光が消え、徐々に視界が戻って来た時……そこには蓮華の姿はなかった。


「……は?」


 ポカンと口を開ける。

 先ほどまで蓮華が立っていた場所を中心に、無数の蓮華の花が咲き誇り、その中心に一人の女性が立っていた。

 神々しい光を放ち、天女の羽衣のような服を身に纏った妙齢の美女。黒髪は長く艶やかで、瞳は紅く、その横顔はこの世のものとは思えぬほど美しい。

 女神。安直だが、そんな言葉が脳裏に響いた。


「————アムリタの雨よ」


 女神が一言呟いた。脳が痺れるような美声。会場を、光の雨が降り注ぐ。

 心地よい。体の中に溜まった悪いものがすべて洗い流されていく感覚。脳の疲労感も解けるように消えていく。


「…………マス、ター?」

「これは、傷が……」

「イライザ! ユウキ!」


 完全回復した仲間たちが体を起こす。

 一方で、神無月のカードたちのダメージはそのまま。

 まさか、そういうことなのか?

 呆然と女神を見る。彼女は俺の視線に気づくと、ニヤリと悪戯っぽく笑った。そこには間違いなくアイツの面影があった。


「これは……」


 神無月が魅入られたように呟く。

 が、すぐに気を取り直したように俺を鋭く睨む。

 弾かれたように奴のカードが動き出す。

 奴もいろいろと気になることはあるだろうが、今は後回しにすることにしたのだろう。

 メンタルの立て直しが早い。いまだに混乱している俺とは違う。

 だが……。


「なにッ!?」


 奴のカードたちの悲鳴と、神無月の驚愕の声が響く。

 女神……いや、蓮華が手を翳しただけで奴のカードが地面へと叩き付けられた。いや、違う。よく見れば黒い光の波が、今も奴のカードを凄まじい力で押さえつけているのが分かる。

 これは、もしかして高等攻撃魔法のグラビティか?


「く……みんな!」


 ミシミシと骨の軋む音と共に地面に這い蹲っているカードたちを見た神無月が、顔を歪める。

 が、すぐに懐から何かを取り出すと手の中で砕いた。

 黒い光の波が消え、奴の仲間たちが自由を取り戻す。防御用の魔道具か。高等攻撃魔法を打ち消せるほどのものとなると、相当高価なものだろう。

 重力魔法から解放された奴のカードたちが、弾かれたように蓮華へと襲い掛かった。

 迫る三体のモンスターたちを、女神は薄い笑みを浮かべて迎え撃つ。


「星の海よ」


 そう呟いた瞬間、彼女の背後に宇宙が広がった。

 漆黒の海の中に浮かぶ小さく光る星々……。

 その神秘的な光景に目を奪われていると、無数の閃光が奔った。

 通常なら地表に届くまでに燃え尽きる微細な隕石たちは、蓮華の開いたゲートを通ることにより地表へと降り注ぐ。

 高等攻撃魔法——メテオ。

 流星群の雨が神無月のカードたちを無残に貫こうとしたその瞬間。


「まだだ!」


 宇宙が見えたその時には動き出していたのだろう神無月が、また一枚魔道具のカードを切った。

 神無月のカードたちが姿を消し、流星群が空を切る。

 轟音、衝撃。土埃が立ち上がり、周囲が全く見えなくなる。

 俺はすぐにリンクでカードたちと感覚を共有し、神無月のカードがどこへ消えたかを探る。

 どこだ、どこへ消えた!?


『後ろだ、しゃがめ』

「ッ!」


 脳裏に響いた神託にも似た声に従い、素早く地面に伏せる。

 同時に、何かが頭上を通り越していった。

 ケットシーだ!

 神無月は魔道具でカードを退避させた後、すぐに俺へのダイレクトアタックを狙ってきたのだ。

 俺が躱したことによって空中で無防備となったケットシーを、緑の猟犬が襲う。

 首筋へと食らい付き、体を抑え込み、ケットシーを完全に組み伏せた。

 魔犬の唸り声と、妖精猫の悲鳴が響き渡る。

 このままケットシーを仕留められるかと思ったが、それを黙ってみているような神無月ではなかった。

 すぐさまリザードマンが仲間を助けるべく駆け付ける。その進路上に立ちふさがったのは——イライザ。

 その身体からは未だ蒸気が立ち上がり、眼は真紅に染まり血の涙を流している。

 生きた屍である我が身を屍喰いで喰らい力に変えて、火事場の馬鹿力でその力のすべてを引き出す。確かな自我を持つ彼女しか引き出すことのできないグーラーの真骨頂。

 自らの肉体を蝕むほどの強化は、上位のDランクカードにも迫るものだろう。

 リザードマンとイライザがぶつかり合い——拮抗! 以前は軽く吹き飛ばされていたというのに、今度はしっかりと彼女は蜥蜴人の重量とパワーを抑え込んでいた。


「グッ、ガァァァァァアアアアアアアア!!!」


 物静かな彼女からは想像できないほどの咆哮を上げ、イライザがリザードマンを投げ飛ばす! すかさず腕を取り、関節を極めて抑え込んだ。

 これで、三体中二体を拘束した。

 残るは一体……!

 小さな魔女は、とんがり帽子を押さえてこちらを睨んでいた。

 その眼からは一切戦意が失われておらず、いかにして俺からダイレクトアタックを奪うかと思考を巡らせているのが見て取れた。

 その射貫くような眼差しから遮るように、蓮華が俺の前に立つ。


『…………………………』


 痛いほどの沈黙が場を支配する。

 動いたのは——同時。

 ウィッチが雷の槍を、蓮華が電柱ほどもある岩の槍を。

 ライトニングとアースピアース。属性的に有利な魔法を放つことが出来たのは偶然か、あるいは操作された幸運によるものか……。

 ただ一つはっきりしているのは、こちらの岩の槍は雷の槍を打ち破ったということだった。

 自分へと飛来する岩の槍を、ウィッチは視線を逸らすことなく睨み続けている。

 そして槍がその小さな体を貫こうとしたその時。

 その前に立ちふさがる存在がいた。


『!!!!!!』


 三枚のカードたちの驚愕が俺へと流れ込む。蓮華たちにも俺の驚愕が流れ込んでいることだろう。


「マス、ター……」


 ウィッチがかすれた声で、呟くのが聞こえた。身を挺して自分を庇った、主の姿を凝視している。

 一瞬遅れて、ガラスが割れるような音が響き渡った。

 魔道具の障壁と岩の槍が相殺される音。

 神無月は一瞬だけ目を伏せ、俺を見ると晴れやかに笑った。


「参った! 僕の負けだ!」


 一拍間が空き。


『……け、け、け、決ッッ着ッ!!! 勝利! 北川選手の勝利です! 北川選手が何かのポーションを飲ませた途端、座敷童が変身し、鮮やかに試合を決めてしまったァァ! 一体あれはなんだったのか、そしてこれは何というスキルなのか! 重野さん、これは一体!?』


 興奮した実況の声が会場へと響き渡ると、いつの間にか静まり返っていた観客たちが徐々に言葉を取り戻し始めた。ざわつきながらも一体何が起こったのかと、実況席へと耳を傾ける。


『……馬鹿な』

『重野さん?』

『信じられない! まさか、こんな! あるのか! カードを使わないランクアップが!』

『ええと、つまりどういうことでしょう。北川選手のカードはランクアップしたということですか?』

『ええ、間違いありません。あれは、Bランクカードのラクシュミーです。いや、日本では吉祥天と呼ぶべきか。いずれにせよ、間違いなくランクアップしている。上位のカードを使ったもの以外にも、カードをランクアップさせる方法があったとは。これは大発見ですよ! 一体どんな条件なのか。先ほど飲ませたものはアムリタ……? アムリタを飲ませればランクアップするのか? いや、それだけではないはず。それだけならもっと早く報告が上がってるはずだ。そうだ、あの座敷童、確か零落せし存在のスキルを持っていたはず。零落せし存在……零落、まさかそういうことなのか?』

『あ、あのー、重野さん?』


 何やら混乱しているらしい実況席をよそに、俺は大きく変貌を遂げた蓮華へと歩み寄っていった。イライザとユウキも寄ってくる。恐る恐る問いかける。


「蓮華、なんだよな?」

「他の誰に見えるというのだ? マスターよ」


 うっすらと微笑を浮かべる彼女の姿は、間近で見るとより凄まじかった。

 蓮華の面影を残しつつ、完成された大人びた顔だち。目元は涼やかで、その奥にある紅い瞳は確かな知性を讃えている。薄く透けた羽衣から見える体のラインは、確かな凹凸を描いており、魅惑の肢体を見るものに思い起こさせた。

 神々が作ったと言われるエルフの造形とはまた違った、神そのものの美しさ。肉体の反応ではなく、魂自体が惹かれるような……。清らかで甘い蓮華の花の香り。彼女が短く言葉を発するだけで、肌が粟立つような感覚がした。


「いや、なんというか、あまりにも変わり過ぎてて。口調も変わってるし。なあ?」

「は、はい。……あの、ボクたちのこと覚えてますよね?」


 恐る恐るユウキが問いかけると、女神は小さく苦笑し……。


「当たり前だろうが、ちょっと見た目が変わったぐらいで大袈裟なんだよ」

「あっ!?」

「戻った!」


 ポンと音を立てて少女の姿に戻った蓮華を見て、俺たちは驚きの声を上げた。


「お、おお。なんだ、元に戻れるのか」

「ああ、一応スキルの効果だからな。むしろ、ずっとは変身できない。まあ詳しいことはあとで説明するよ」

「スキルなのか……」


 そんなことを話していると、俺たちへと歩み寄ってくる影があった。神無月だ。


「やあ」

「あ、ど、どうも」


 爽やかに笑いかけてくる先ほどまでの対戦選手に、俺は咄嗟にどう対応していいか分からず、そんな頓珍漢な返ししかできなかった。

 神無月がプッと笑う。


「なんだい、それ。さっきまではすごい気迫だったのに。試合が始まってすぐ思ったけど、顔合わせの時と試合中じゃ全然違う人みたいだね」

「え。そ、そうですか?」


 なんか、アンナもそんなこと言ってたな。

 なんてことを考えていると、神無月が手を差し出してきた。


「敬語じゃなくていいよ。同い年だろう? よろしく」

「あ、ああ。その、よろしく」


 差し出された手に反射的に握手を交わす。神無月の手はピアニストのように細く繊細さを感じさせるものだった。


「さっきは驚いたよ。一体どういう絡繰りなのかな?」

「いやぁそれが俺にもさっぱり」

「ふぅん、……まあ、直にわかることか」

「え?」


 一体どういうことだ? と首を傾げる俺に、神無月が意味深に笑う。


「……これからちょっと大変かもねってことさ」


 そう言って去っていく神無月の姿になんとも嫌な予感を覚えたその時。


「北川選手、優勝おめでとうございます!」


 後ろから突然声を掛けられ、俺はビクッと肩を跳ねさせた。

 振り返ると、そこには幾人ものカメラを持ったスタッフと目をギラギラと輝かせたアナウンサーが立っていた。

 思わず頬を引きつらせながら答える。


「あ、はい。ありがとうございます」

「早速ですが、あの座敷童の変身は一体どういったスキルなのですか?」「飲ませたポーションは、もしかしてあのアムリタでしょうか? どういった経緯で入手を?」「今日の昼飯は何を食べられました?」「僅か数か月のキャリアでここまでの成長をされた秘訣は!?」「彼女はいらっしゃるんですか?」「あのカードたちを手に入れたのはいつごろ? カードパックで引いたというのは本当でしょうか?」「今日の晩御飯は何を食べる予定でしょうか?」


 怒涛の質問攻め。

 洗いざらい聞き出すまで絶対に解放しないという番組スタッフの勢いに、俺は神無月の言葉の意味をようやく理解した。

 神無月の奴め、こうなるのが分かってたなら言ってくれよ……いや、言われても逃げられないか。

 俺は微かに苦笑を浮かべると、質問に答え始めた。

 これで、数千万の女ヴァンパイアが手に入ると思えば安いものだ。

 しかしこの時の俺はまだ知らなかった。

 これすらもこれから始まる取材地獄の幕開けに過ぎなかったことを……。




【Tips】零落せし存在

 一部のモンスターの中には、本来の格よりも零落してこの世に現れるものがいる。零落スキルを持つカードが、それである。それらのカードに、「名前」とイベントアイテ……もとい、「固有の魔道具」を与えることで、本来の霊格に近づけることが出来る。

 

 

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