第360話 招集

「みんな、急に集まってもらってごめんね。

 呼んでおいてあれなんだけど、予定とか大丈夫だった?」


カウンター越しに、水樹が申し訳なさそうに話し始める。


「自分は特に予定も無かったので、大丈夫っす!」


最初に返事をしたのは、黒髪短髪の好青年……式島しきしまかなめである。


「私もちょうど買い物帰りだったので、大丈夫ですよ~」


続いて、藤堂とうどう志穂しほもリラックスした様子で返事をする。


「……問題ないです」


背筋をピンと伸ばし、うつむきがち返事をしたのは久城くじょう伊紗いすずだ。

頬が少し赤かったので、きっと緊張しているのだろう。


火月も首を縦に振り、水樹に目配せをする。


時計の針はちょうど十八時を回ったところで、

アタルデセルの入り口には「貸し切り」の札が立ててあった。


休日のしかもお店のピークタイムに修復者全員を呼びつけるなんて、

一体どんな要件なんだろうか?と身構えていた火月は、

水樹に質問を投げかける、


「もしかして、傷有り紅四の扉でも出現したんですか?」


「やっぱり、普通はそう思うよね。

 でも、私たちは扉の修復を強制することはできないからさ、

 今回はちょっと話が違うかな」


集められた理由が他に思いつかなかった火月は、そのまま口を閉じる。


「話が見えてきたっす。

 きっと今回の集まりは、修復者同士の仲を深めるための親睦会ってことっすよね?

 自分、大学の飲み会に一度も参加したことが無かったので凄く嬉しいっす!」


要が期待に満ちた目で水樹を見つめる。


「あー、それもいつかやりたいなぁとは思っているんだけどね……」


こめかみ付近に右手を当てた水樹が、明後日あさっての方向に視線を向ける。

今日の集まりが親睦会でないことを悟った要はシュンとしていた。


「全く、鈍感な男どもじゃ話にならないですね。

 そもそもここに呼ばれたのが男女両方ってことの意味を考えれば、

 直ぐに分かります。

 水樹さん、恋愛相談ですよね?」


藤堂が自信満々といった様子で水樹を真っ直ぐ見つめる。


「う~ん、今は仕事に専念したいかなぁ」


苦笑しながら返事をする水樹の反応を見た藤堂は、

ヒューヒューとかすれた口笛を吹いていた。


「お店の手伝いでしょうか?

 イベントで人手が足りてないとか……」


久城伊紗が小さい声で呟く。


「確かに人手が欲しいと思う時はあるね。

 でも、このお店は私が好きでやってることだから、

 基本的には自分で何とかしたいんだ。

 もちろん、どうしても手伝って欲しい時は頼らせてもらうね。

 ちなみに、働いた分のお給料はちゃんと払うからそこは安心して欲しいかな」


四人全員の予想が外れてしまい、

何とも気まずい雰囲気になってしまった店内の空気を変えたのはだった。


「ふん、修復者が雁首がんくび揃えて何をやっておるんだか。

 普通に考えれば扉関係の話なのは間違いないじゃろう。

 まして扉の修復も違うとなれば、

 扉ないし怪物・異界に関する情報について

 いち早く共有しなければならないことができた……といったところかのぅ。

 まぁ、メールを送れば済む話じゃが、

 直接呼び出したからには、それだけ緊急性の高いものなんじゃろうがな」


「……あはは。

 訂正のしようがないくらい、完璧な答えだね」


コホンと咳払いをした水樹が四人の修復者の顔をぐるりと見渡し、話を続ける。


「ねぎしおちゃんが言ってくれた通り、

 今日はどうしても皆に急ぎで伝えたいことがあったんだ。

 について……ね」

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