第357話 凶兆


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「どいつもこいつも歯ごたえがねぇなぁ」


傷有り紅三の怪物の死体の上で胡座をかき、

退屈そうに呟いたその男は、随分と特徴的な見た目をしていた。


右目全体が包帯で覆われていたものの、

その好戦的な目つきは左目だけでも十分迫力がある。


また、全身が黒いロングコートで覆われており、

その屈強な体つきはいくつもの修羅場をくぐり抜けてきた戦士を彷彿とさせる。


「あんたの力が規格外なだけでしょ」


近くにいた黒い鶏がぶっきらぼうに答える。


「あぁ?

 そもそもお前が中道火月をさっさと見つけていれば、

 こんなことにはならなかったんだ。

 あいつは他の修復者と違って、良い退屈凌ぎになる」


「随分あの男を買ってるのね。

 あんたらの目的は、あの白い鶏じゃなかったのかしら?」


摩天楼エンクトのお偉いさん方はそうなんだろうさ。

 だが、俺個人としては正直どうだっていい。

 中道火月と白い鶏が一緒に行動している確率が高いから

 一応追いかけてはいるがな。

 まぁ、好き勝手にやらせてもらっている分、最低限の仕事はやってやるさ」


異界の崩壊が始まったのを察知し、包帯の男が気怠げに立ち上がる。


「そろそろ、異界の怪物どもとやり合うのも飽きてきた。

 たまに遭遇する修復者の奴らを問い詰めても、

 何の情報も得られないしなぁ」


そう男が呟くとギロリと黒い鶏を睨む。


「なによ、全部私のせいって言いたいわけ?」


「はっ、よく分かってるじゃねぇか。

 俺がお前を生かしている理由をよく考えろよ?

 使えない道具はいずれ処分される運命にあるが、

 その時期を早めるかどうかはお前次第ってことだ。

 まぁ、叩いて直るような代物しろものなら俺が直接手を加えてやってもいいがな」


包帯の男は、肩に担いでいた黒い大剣をガチャリと動かす。


「ふん、私を処分しても困るのはあんたたちの方でしょ。

 出来もしないことで私を脅そうとしても無駄よ」


黒い鶏がピシャリと言い放つ。


「相変わらず威勢だけは良いみたいだなぁ。

 その減らず口、いつまで続くか見物みものではあるが、

 今は不問にしておいてやる。

 確かに、お前に頼り切りだったのは事実だからなぁ」


「むしろ、少しくらい感謝してほしいんだけど」


「怪物風情のくせに、面白いことを言うじゃねぇか。

 俺がお前に感謝?……冗談も休み休み言え」


包帯の男の声がワントーン下がる。

突如、強烈な殺意を感じた黒い鶏は緊張で全身が強張る。


「もうお前に頼るのは止めだ。

 そもそも、ターゲットを追いかけるような真似をしているから

 全部後手に回る結果になるんだ」


ブツブツと独り言を喋り始めた男は、ある案を思いつく。


「……はっ、最初から間違ってたんだ。

 こんな簡単なことにすら気づかなかっただなんて、俺も焼きが回ってきたか」


包帯の男が不適な笑みを浮かべる。


「これから、面白くなりそうだ」


次の一手を打つべく自分が何をすべきなのか?

明確なビジョンがその男の目には映っていた。

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