第354話 真相

「そういえば、怪物に食われた後はどうなってたんだ?」


三日魔を自宅に招き入れ、

リビングのテーブルイスに座っていた火月が

ずっと気になっていた疑問を口にする。


「それは我も興味があるのぅ」


異界での出来事を振り返っていた火月たちの話に興味を持ったのか、

ソファでテレビを見ていたねぎしおも会話に参加する。


「あれは中々貴重な経験でしたね。

 真っ暗で窮屈な場所に閉じ込められて、全身が消化液で溶かされていく感覚……

 とでも言えばいいでしょうか」


対面に座っていた三日魔がその時の様子を淡々と話し始める。


「想像するだけも結構キツいのぅ」


話を聞いていたねぎしおが険しい表情をする、


「鎧の修復速度と怪物の消化速度はほぼ互角だったので、

 ギリギリ耐えている状態だったのは間違いないですねぇ。

 まぁ、そうは言っても

 能力の制限時間がある私の方が圧倒的に不利なのは分かっていましたから、

 最後の賭けに出ることにしたんですよ」


「賭け?」


「えぇ、兄貴たちと合流する前に怪物との戦闘で発生した

 作戦です」


「我を助けてくれた時に言っておった探し物とは、

 その欠片のことじゃったのか」


三日魔がこくりと頷き、話を続ける。


「我々では怪物の硬い身体に傷をつけるのは、

 まず無理だろうと思いましてね、

 だったら中から攻めてみては?と考えただけですよ」


「なるほどのぅ、ずいぶんとぶっ飛んだ策を思いついたものよ」


「お褒めに預かり光栄ですぜ」


「だが、その作戦を実行するためには

 怪物に食われることが前提条件にならないか?」


「そうですね、

 だからねぎしおの兄貴が呑み込まれそうになっていたタイミングは

 渡りに船の状況でした」


「そう言われると、

 お主の身の安全を本気で心配した我が馬鹿馬鹿しく思えてくるのぅ」


「実際のところ、上手くいくかどうかの保証はありませんでした」


「怪物の動きが遅くなったのは、

 予め拾っておいた巨石の欠片を三日魔の能力で元のサイズに戻したからか」


怪物の腹の中で巨大な石の塊がいくつも転がっていたのなら、

突然動きが遅くなったのも納得できる。


「そういうことになりますね。

 ただ、その間は鎧の修復が一切出来ませんから、

 時計の能力が切れる一分前を目安に動きたかったんです。

 まぁ、怪物の中から自力で脱出するまでには至りませんでしたが」


「お前が動きを抑えてくれなかったら、

 俺は怪物に止めを刺すことができなかった。

 だから、もっと自分の行動を誇ってもいいと思うぞ」


「うむ、身の危険を承知の上で動ける人間というのは

 そういるものでは無いからな。我が特別に褒めてやろう」


とにかく今は三日魔の機嫌を取ることに必死だった。


きっと蛇の怪物の身体から突き出た黒い氷柱の正体も、

三日魔が復元したつらら石なんだろう。


今回の修復は、偶然に偶然が重なり、

最後の最後でお互いの歯車がタイミング良く合致したからこそ

できたものなんだと改めて実感する。


「そういえば、

 つらら石を復元したタイミングで

 怪物の身体を僅かに貫通することができたんですがね、

 そこから一気に青い炎が入ってきたんですよ」


「……」


思わず火月が口を閉じる。


「かなり火力も高かったので、

 怪物が私を仕留めにきたのかと思って焦りましたぜ」


「……三日魔よ。

 実を言うとな、あれは火月のやったことなんじゃ」


ふふんと鼻を鳴らし、ねぎしおが自慢げにこと顛末てんまつを話し始める。


場の空気が完全にまずい方向へ流れていくのを感じつつ、

火月はただ黙ってねぎしおが話し終えるのを待つことしかできなかった。

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