第353話 貸し借り
三日魔と扉を修復し終えてから、数日が経過したある日の晩。
会社から帰宅し、自宅に向かおうとした火月が家の扉の前で見つけたのは、
狼の着ぐるみファッションをした不審者だった。
警察に通報しようとスマホを取り出した火月だったが、
小さく溜息を吐くとスマホをポケットにしまい、不審者に声をかける。
「何の用だ?
もう師弟関係は終わったはずだろ?」
顔を上げた三日魔が嬉しそうに立ち上がる。
「そうつれないことを言わないで下さいよ。
ずっと帰りをお待ちしていたんですぜ、兄貴」
「お前に待ち伏せされると、ろくな事にならないからな。
さっさと要件を言ってくれ」
火月が疑いの眼差しで三日魔を見つめる。
「実は先日の扉の修復の件で、改めてお礼をお伝えしたくてですね」
「それなら気を遣う必要なんてない。
俺もお前の力が無かったら怪物を仕留めることができなかったからな。
綺麗さっぱり貸し借りなしだ」
「そう言って頂けると、こちらとしても嬉しい限りです」
「じゃあな」
三日魔の横を通り過ぎ、
自宅の鍵を取り出して鍵穴を回した火月に三日魔が声をかける。
「で・す・が、私にはまだ貸しが残っているんですよ」
ドアを開けようとした火月の手が止まる。
「私が異界の中でお貸ししたもの、よ~く思い出して下さい」
三日魔の言いたいことに察しがついた火月がポツリと呟く。
「悠久の
「如何にも。
ただのランタンにしか見えないかもしれませんが、
一応あれでも
回収しておこうと思いまして」
「そういえば、そうだったな」
だが、悠久の燭はその力を解放するために火月が破壊してしまっていた。
残骸一つ残さず、綺麗さっぱりなくなってしまったので、
返したくても返せない……というのが現状である。
ここで素直に「壊しました」と打ち明けたい気持ちもあったのだが、
三日魔がそれを聞いてすんなり許してくれるとは思えなかった。
弁償代としてどんな要求をされるのか想像がつかなかったので、
思わず黙り込んでしまう。
「兄貴、どうかしましたか?」
三日魔が火月の顔をのぞき込む。
「いや、何でも無い。立ち話も何だからとりあえず上がったらどうだ?」
「いいんですかい?
それじゃあお言葉に甘えてお邪魔させてもらいますぜ」
ドアを開けて先に三日魔を玄関に通す。
とにかく今は、こいつを丁重にもてなして、
時間稼ぎをすることが最優先事項だった。
適当に話題を反らし、
あわよくば回収の目的を忘れて帰ってくれることを期待して火月も後に続いた。
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