第351話 群青

時計の能力の制限時間が残り二分を切る。


蛇の怪物はスピードを上げて突撃を繰り返していたが、

火月も負けじと回避行動を続ける。


「くそっ」


呼吸が乱れ、膝に力が入らなくなってきていたが、

まだ倒れるわけにはいかなかった。


攻撃が当たらないことに痺れを切らしたのか、

突撃をめた怪物が

今度は尻尾を振り上げ、叩きつける攻撃モーションへ移行する。


打って変わった動きに一瞬ひるんだものの、直ぐに回避のコツを掴む。


『こっちの方が避けやすいな』


そんなことを考えていたのも束の間、

何度目かになる尻尾の叩きつけ攻撃を回避したと思ったら、

その回避先を目がけて怪物が勢いよく火炎放射を放つ。


『っ……!やはりこの怪物、よく考えて動いてる』


素直に感心しつつ、肩に乗っているねぎしおに声をかける。


「炎は頼んだぞ!」


「うむ、任せておく良い!」


肩からぴょんと前に飛び出したねぎしおが、

火炎放射に向けて悠久の燭を突き出すと、

目前に迫っていた炎が轟音を上げながらランタンに吸い込まれていく。


『ここまでは想定通りだな。あとは―――』


ランタンの炎が白色から群青色に変わる瞬間を見届けた火月は、

怪物と距離を詰めるため、ねぎしおを追い越して前に出る。


怪物も火炎放射が通用しないと判断したのか、

口を大きく開き、火月を目がけて向かってくる。


ここで自分が怪物の突撃を避けたら、

後ろに居るねぎしおが丸呑みにされるのは間違いないだろう。


だから、ここは絶対に退くわけにはいかなかった。


「うむ、こちらも準備が整った。

 後は我を信じて思い切りやるがよい!」


そうねぎしおが叫ぶと、

咥えていた悠久の燭を勢いよく投げ飛ばす。


ランタンは火月の頭上を越えていき、

ちょうど目の前にきたところで落下を始める。


その様子がスローモーションで視界に映る。


ガラスの中で燃えさかる群青色の炎は、

サイズこそ小さいものの底知れない火力を感じさせるものだった。


「もとより、そのつもりだ!」


腰のホルダーから短剣を引き抜き、

落ちて行くランタンを目がけて得物を真横に振り切る。


さながら、居合いのような動きでガラスを破壊すると、

中に閉じ込められていた群青色の炎が噴水のように吹き出し、

火月の周りを一瞬で包み込む。


怪物も異変を感じ取ったのか、

急遽突撃を止めて、こちらの様子を窺っていた。


程なくして、周りの青い炎が火月の得物に向かって収束していく。


『……なるほど、そういうことか』


ねぎしおの助言通りの結果となり、

本来の悠久の燭の使い方を理解した火月は、

その右手にを構えて怪物を睨む。


「もう攻めて来ないのか?」


わざと相手を挑発するような言葉を言い放つ。


時計の残り時間はちょうど一分を切ったところだった。

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