第342話 色温度

「ランタンが炎を吸い込むなんて聞いてないぞ。

 どういうカラクリだ?」


純粋な疑問を投げかけると、

ねぎしおがランタンを床に置き、興奮した様子で話し始める。


「うむ、我も三日魔から聞いた話程度のことしか分からぬが、

 何やら色温度というものが関係しているらしい」


「色温度?

 温度の高さによって炎の色が変化する現象のことか?」


「如何にも。

 お主も知っていると思うが、

 温度による炎の変色は大きく四つの段階に分類される。

 一番温度が低いオレンジから始まり、黄色、白、そして青といった具合じゃ。

 火月よ、このランタンを見て何か変化に気づかぬか?」


「さっきまでは芯の炎が黄色だったのに、

 怪物の炎を取り込んでからは白くなってるな」


「その通りじゃ。

 そこで、一つの仮説が浮かび上がってきた。

 このランタン、色温度の限界までは炎を吸い込んでくれるんじゃないか……と」


「いくら何でも話が飛躍しすぎじゃ無いか?

 今回たまたま上手くいっただけかもしれない」


「そう思うのも当然じゃな。

 じゃが、よく思い出してみよ。

 このランタン、三日魔から最初に預かった時は何色じゃった?」


「……オレンジだ。

 となると、オレンジから黄色に変化したタイミングもあったってことか」


「うむ。

 そのタイミングこそ、お主がランタンを投げ捨て

 我を怪物の火炎放射から救ってくれた時じゃないかと思っておる」


「……そうか」


あの時はとにかく自分たちの身を守ることで精一杯だったので、

ランタンの様子を確認する余裕なんて無かった。


「正直なところ、悠久のともしびが炎を吸い込む仕組みは分からぬ。

 三日魔もその機能については知らなかったようじゃ」


「だろうな」


事前に三日魔がそのことを知っていたら、

自分を盾にする必要なんて無かったはずだ。


「あくまで推測の域を出ない話じゃったから、

 ハイリスクな案だと忠告は受けていたが、結果的に上手くいって何よりじゃ」


『自分がどれだけの無茶をしたのか、この鶏は自覚があるんだろうか?

 ……いや、自覚がないからこそできたことなんだろう』


火月はねぎしおの大胆不敵な行動に半ば呆れつつも、

その判断力に感心していた。


というのも、自分が似たような状況に陥った時、

同じ選択肢を即座に選ぶことができるとは思えなかったからだ。


「何にせよ、お前のおかげで助かった。感謝する」


「礼には及ばん。

 何たって我は超エリートで高貴な存在じゃからな!」


自信満々に話すねぎしおを、火月は初めて頼もしく感じた。

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