第341話 隠された機能

火月を助けるため、怪物の火炎放射にねぎしおが飛び込んで行った姿を

瓦礫の山から見届けていた三日魔は小さく息を吐く。


『何の躊躇もなく飛び込むとは……。

 あの鶏、思っていた以上に面白い存在かもしれないですねぇ』


思わず口の端を吊り上げた三日魔は、ここ数日間の出来事を思い返していた。


傷あり紅三の扉を修復した情報屋がいると聞いて飛んできたものの、

蓋を開けてみたら他の修復者と大して変わらない修復者……

というのが正直な感想だった。


確かに彼の能力は情報屋という仕事をするにあたって

都合の良いものであるのは間違いない。


また、異界から精度の高い情報を持ち帰ってくるため、

自分と違って組織からの信頼も厚いように見える。


一言でいえば真面目な学生、

上司から言われたことを忠実にこなす使い勝手の良い部下といった印象だ。


だからこそ、

中道火月という人間が


修復者と怪物が一緒に行動するなんて言語道断である。


そんな当たり前のルールを破っているにも関わらず、

組織は何も口を出していない……

いや、組織は既に知った上で彼らを放置しているのだろう。


そこまでしてあの怪物に固執する理由が分からなかった三日魔は、

実際に自分の目で二人がどんな人物かを確認するため、

わざわざ弟子入りまでした……というのが今までの経緯である。


「まぁ、興味深いものが見れただけでも、十分成果があったと言えますかね」


全身を包んでいた白い光が消え、鎧の修復が完了したのを確認した三日魔は

能力の制限時間が残り五分を切っていることに気づく。


「この辺が潮時でしょう。必要な情報は集まりました。

 後は頑張って下さいね、お二人さん」



――――――


――――――――――――



「どういうことだ……?」


顔を覆うように、咄嗟に左腕を出し怪物の攻撃に備えていた火月は

自分の身に何が起きたのか理解が追い付いていなかった。


怪物の火炎放射は確実に自分たちを呑み込んだ、

それは紛れもない事実である。


だが、実際のところ身体は炎に包まれていなかった。


直ぐに周囲を見渡した火月は、

今立っている場所の両側で激しい炎が燃え盛っている様子を目にする。


まるで炎が自分たちの居場所を避けているかのよう見えたが、

目の前のねぎしおを注意深く観察した火月は、その奇妙な光景に目を奪われる。


『……ランタンが炎を吸収しているのか?』


どうやらねぎしおは悠久のともしびくちばしくわえているようで、

自分たちに向かってきていた炎だけをフレームの芯の中へ吸収していた。


悠久の燭は単なる光源だと思っていたので、

まさかこんな機能が隠されているとは予想もしていなかった。


怪物は火炎放射を出し続けており、

これだけの高火力の攻撃を防ぎ切れるのか怪しいところではあったが、

掃除機で吸い込まれるかのように激しい炎が渦となって

ランタンに吸収され続けていると、程なくして怪物の攻撃が収まった。


ぴょこんと地面に着地したねぎしおが、ランタンを咥えたまま後ろを振り返る。


「どうじゃ、たまには我も役に立つじゃろう?」


そう自慢げに話すねぎしおを一瞥した火月は、

悠久の燭の中で煌々と燃え盛っていた黄色の炎が

白色に変色した瞬間を見逃さなかった。

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