第340話 活火激発

背中越しに灼熱の炎の気配を感じた火月は、

もう目の前に向かって飛び込むしか選択肢が残されていなかった。


というのも、思った以上に火の回りが早く、

今のスピードで走っていても丸焦げになる未来しか見えなかったからだ。


どうせ、間に合わないのなら一か八かにかける他ない。

穴の開いた壁に入り込んで怪物の攻撃を防ぐつもりだったのだが、

見込みが甘かった。


「くそっ!」


両足に力を入れて大きく前方にジャンプした火月は

スライディングするような形で地面に着地する。


床に張っていた水が水飛沫みずしぶきを上げて周囲に飛び散り、

身体が水滴で僅かに濡れる。


一瞬だけ炎の勢いが落ちたように見えたが、

最後の悪あがきも虚しく、

後ろを振り返った火月は火炎放射に呑み込まれる覚悟を決めた。


『ここまでか……』


その瞳に燃え盛る炎を映した火月は、

突如視界の左端から黒い影のようなものが、

自分の目の前に飛び込んでくる姿を捉えた。


「火月よ、ここは我に任せるがよい!」


それは紛れもなくねぎしおの声だった。

予想外の出来事に一瞬思考が停止する。


『っ!?』


ねぎしおの意味不明な行動に火月は困惑していた。


まさか、この危機的状況で自分を助けに来たとでも言うのだろうか?


だが、いくらねぎしおが盾になったところで、

迫りくる炎の勢いを止めることができるとは思えなかった。


むしろ、この状況で飛び込むのは自殺行為にしかならない。

この鶏は、そんな誰でも分かるような判断をすることができなかったのだろうか?


様々な思いが頭の中を駆け巡っていたが、

とにかく今はをこの場から逃がすことが最優先事項である。


「おい! ちょっと待て―――」


手を伸ばし、叫んだ時にはもう遅かった。


火炎放射は激しい轟音と共に火月とねぎしおを一瞬で呑み込んだ。

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