第337話 為事

『何だ……?』


怪物から距離を取り、大きく後ろに下がった火月は

壁が崩れるような音を耳にする。


それが三日魔のいる方から聞こえてきたものだと気づくのに

そう時間はかからなかった。


モクモクと灰色の粉塵が舞い上がっており、

その周りには砕けた瓦礫が散らばっている。


咄嗟に怪物の胴体へ視線を送ると、動きが止まっていることに気づいた。

どうやら、蛇の怪物は三日魔に向かって頭から突っ込んだらしい。



『あれをまともにくらったのか……』


目の前に広がる惨状に思わず息を呑む。


怪物の攻撃は、言ってしまえばただの突進である。

だが、そのシンプルな攻撃も相手のサイズが大きくなればなるほど、

威力が増すというものだ。


尻尾で叩かれた時とは比べ物にならないだろう。


瓦礫へ駆け寄りたい気持ちもあったが、

まだ十分に怪物の情報収集ができていない火月は、

自分の役割を放棄するわけにはいかなかった。


蛇の怪物の動きが止まっているということは、

今の状態で自分の得物が通用するかを確認する必要がある。


直ぐに移動を再開した火月は、

なるべく尻尾の方に向かって突き進んでいく。


すると、垂れていた蛇の尻尾が急にピンと上を向いた。


まるで、特定の範囲に入った侵入者を感知する

レーダーのような動きを見せたかと思ったら、

瓦礫に埋まっていた蛇の怪物が、粉塵を撒き散らしながら頭を上げた。


『これは、思った以上に厄介だな』


さっきは、三日魔がターゲットを取ってくれたから

自分の攻撃を当てることができたが、

一対一の状況では中々厳しいかもしれないなと思いつつ、

両足に力を入れてスピードを上げる。


蛇の怪物は火月に狙いをつけると、一直線にこちらへ向かって来ていた。


完全にターゲットが変わったことを確認した火月は、

もう一人の相方に聞こえるように叫ぶ。


「ねぎしお! 三日魔の様子を見に行ってくれ!

 瓦礫の中に埋まっているはずだ!」


「うむ、了解じゃ! 怪物の相手は任せたぞ!」


何処からともなく、身を潜めていたねぎしおが上空から飛び出してくる。


蛇の怪物は完全にこちらを向いていたので、

ねぎしおには気づいていない様子だった。


『……よし、後はあいつねぎしおが何とかするはずだ』


怪物のターゲットとなってしまった今の状況では

自分が動くわけにはいかなかった。


猫の手ならぬ鶏の手を借りることになってしまったが、きっと大丈夫だろう。

なんだかんだ言って、いざという時にあの鶏は役に立つ……と思う。


それに、三日魔もそう簡単にくたばるような奴には思えなかった。

根拠は無いが、あの手のタイプは何というか……悪運だけは強そうな気がする。


兎にも角にも今は自分のことに集中するのが最優先である。


三日魔とは違って、耐久力がほとんどない火月にとって、

この特急列車のような蛇の攻撃をどれだけ回避できるか?

に命運がかかっていると言っても過言ではない状況だった。

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