第336話 障壁

怪物の突撃と同じタイミングで火月も移動を始める。


長いロープが引っ張られるかのようにを巻いていた怪物の胴体は

ぐんぐん前に進んで行く。


『この様子じゃ、まずこっちには気づかないだろうな。

 だったら―――』


勢いを落とさないように、走りながら地面を強く蹴り、

大きくジャンプした火月は長い胴体の真横まで距離を詰める。


腰のホルダーから短剣を引き抜き、両手でつかを握ると

移動を続けている胴体に剣先を突き刺した。


次の瞬間、金属同士が擦れ合うような音と共に剣先から激しい火花が飛び散る。


『っ……! 硬すぎる! 本当に蛇の皮なのか?』


短剣が刺さっていくような手応えを一切感じ無かったが、

そう簡単に諦めるわけにはいかないので、蛇の胴体に剣先を当て続ける。


だが、正直なところこの態勢をずっと維持し続けるのは至難の業だった。

というのも、その動く巨大な胴体と反対方向に得物を持ち続ける行為は、

両腕にかなりの負担がかかっていたし、

得物自体もガリガリと刃の削れるような音が聞こえていたので、

使い物にならなくなるのも時間の問題だったからだ。


『……これ以上、無理はできないな』


結局、巨大な蛇の胴体に傷一つ付けることができなかった火月は、

短剣を腰のホルダーにしまうと、

一旦怪物と距離を取るため、後方に大きくジャンプした。



――――――


――――――――――――



火月が移動を開始した同時刻、

怪物のターゲットを取った三日魔は

迫り来る蛇の怪物にどう対処したものか走りながら考えていた。


『あんなのが頭から突っ込んで来たら、電車と正面衝突するようなもんですねぇ』


このサイズ感の怪物と戦うのは初めてだったが、

先ほど受けた尻尾の攻撃の威力から察するに

自分の鎧が怪物との正面衝突に耐える確率はかなりに低いだろう。


仮に、受けきったとしても身体への負担を考慮するなら、

真正面で受けるのは得策ではない。


蛇の怪物を一瞥した三日魔は、

相手が着実に自分の方へ迫っていることを理解する。


『作戦通りではありますが、こんなところで無駄死にするつもりはないんでね。

 悪足掻きくらいはさせてもらいますぜ』


姿勢を低くし、

足元の水路に散乱している小さいコンクリート片をいくつか右手で掴んだ三日魔は、その内の一つを投げて左手に移動させたと思ったら、

地面に勢いよく左手を押し付ける。


すると、同時に白い光がてのひらを包み込み

一瞬にしてコンクリートの壁の一部が三日魔の前に姿を現した。


先ほど三日魔が拾った欠片は、

怪物が壁を突き破ってこの水路に到着した時に飛び散った壁面の一部であり、

時計の能力でコンクリート片を修復したことで、

目の前に突然壁の一部が現れたように見えた……というカラクリである。


その後も、一定の間隔を空けながら

拾った欠片を修復していった三日魔の目の前には、

ドミノ状にコンクリートの壁が立ち並んでいく。


『気休め程度ではありますが、これで直撃は防げそうですね』


そう思ったのも束の間……、

蛇の怪物がコンクリートの壁に衝突する音が直ぐに聞こえてきた。

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