第335話 挑発

「とりあえず、あんたにはこっちを向いてもらいますぜ!」


頭上を見上げていた怪物に狙いをつけて、

三日魔が黄色の灯りを投げ飛ばす。


それは先ほど、火月がねぎしおを助けるために手放した悠久のともしびだった。


『あいつ、いつの間に……』


水路全体が明るくなっていたので、火月はすっかりその存在を忘れていたが、

どうやら三日魔が回収していたらしい。


悠久の燭はその勢いを落とすことなく、怪物の頭部に直撃した……と思いきや、

ぶつかる寸前に、蛇の尻尾が飛んできた球を撃ち返すかのような動きで払い飛ばす。


すると今後は、

投げた時よりも遥かに早いスピードでランタンが三日魔を目掛けて戻っていった。


「ピッチャー返しってところですかね」


両手を構え、ランタンをキャッチするポーズを三日魔が取ると同時に、

黄色の一閃が視界に飛び込んでくる。


スピードがあまりにも早かったので、

一瞬レーザービームのように見えたランタンは三日魔の胸に直撃した。


「ぐっ!」


何とかランタンをキャッチしたものの、

その勢いを完全に抑えることができなかった三日魔は

水飛沫みずしぶきを上げながら後方へ飛ばされる……が、

両足はちゃんと地面に着いていたので、再び壁に衝突するのは防ぐことができた。


混滴イストルムの強度がこれほどのものとは思っても見ませんでしたよ。

 あの巨体に吹き飛ばされてもなお傷一つ付いていないじゃないですか。

 いや、待てよ……もしかしたら、

 単に尻尾の威力が弱かっただけかもしれないですねぇ。

 相手の力量を見誤るなんて、私も情報屋としてまだまだのようです」


そう大きい声で話す三日魔の声が水路に響き渡る。


一瞬だったが、近くでその様子を見ていた火月は、

尻尾の威力が弱いものだとは到底思えなかった。


現に三日魔の鎧は白く光っており、

ランタンをキャッチした時に受けたダメージを修復している。


だったら、何故そんな虚勢を張る必要があるのか?


まさか、本当に情報が間違っていて、

その誤りを共有するために大きい声を出したのだろうか……

と火月が考えを巡らせていると、

怪物の様子がつい先ほどと打って変わっていることに気づく。


その大きい目はギロリと動き、ある一点……三日魔が立っている場所を睨んでいた。


『もしかして―――』


火月も直ぐに三日魔の方へ視線を送ると、

顎を何度か前に出してこちらに合図を送っているようだった。


それは「ターゲットは取ったから、後は任せた」

と言っているかのような動きだった。


どうやらあの大声は怪物を挑発するためのものだったらしい。


怪物相手に挑発が通用するなんて想定外だったが、

さっきまでこちらを見向きもしなかった蛇の怪物は、

長い舌を出し入れする動作を繰り返し、完全に三日魔に狙いをつけていた。


「今回の怪物は結構楽勝かもしれないですねぇ」


引き続き挑発を続け、

火月のいる場所とは真反対の方角に走り始めた三日魔を目掛けて、

蛇の怪物が一直線に突撃を開始した。

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