第334話 経始

「おーい、二人とも無事か?」


後方からねぎしおが慌てた様子で走って来る。


「問題ない……ってことでいんだよな?」


火月が三日魔へ視線を送ると、首を縦に振っていた。


「怪物の近接攻撃の威力は何となく分かりました。

 あとは、我々の攻撃がどの程度通るのかってところですかね」


三日魔は早速情報の分析に入っているようだった。


「なら今度はこっちから仕掛けてみるか?」


「……そうですね。

 兄貴には申し訳ないんですが、

 怪物に斬撃が通用するかどうか確認をお願いしてもいいですかい?」


「わかった。威力は心許ないかもしれないが、やれるだけやってみよう。

 ちなみに、この異界では基本的にお前の指示に従うつもりだから、

 今後も遠慮なく指示を出してくれ」


「了解です。変な指示を出さないように気をつけますね」


「我は、我は何をしたらいいんじゃ?」


ねぎしおも必死に三日魔から指示を仰いでいるようだった。

その眼差しは、絶対に自分も活躍したいという強い意志を感じさせる。


「そうですね……ねぎしおの兄貴は一旦ステイでお願いします」


「うむ、任せておくがよい!

 それで……ステイとは何なのじゃ?」


「そこで大人しくしてろってことだ」


火月が簡潔に応える。


「何じゃと? つまり、我は何の役にも立たないということか!?」


興奮した様子のねぎしおを三日魔が直ぐになだめる。


「言い方が悪かったですね。

 何もせず待機していろって意味では無く、

 様子を見ながらねぎしおの兄貴目線で情報収集をお願いしたいって意味です。

 確かに最前線で戦う役割ではありませんが、

 周囲の状況を第三者視点から見る重要な役割ですぜ。

 それに、これは超エリートで高貴なねぎしおの兄貴だからこそ任せられる、

 謂わばオンリーワンの仕事なんです」


「うむ……お主の言葉から嘘は感じぬ。なら、異論は無い」


三日魔の言葉巧みな話術により、どうやらねぎしおの溜飲は下がったらしい。


「それじゃあ、早速始めるとしましょうか。

 さっきと同じように私がターゲットを取るので、

 その隙に兄貴は怪物へ近づいて攻撃をお願いします」


「あぁ、今度は何があってもお前の心配はしないことにする」


「それは残念です。でも、捉え方によっては信頼の証とも言えますよね?」


からかっているのか、それとも単に前向きなのか、

相変わらずの態度を取る三日魔を一瞥した火月は

「……どう解釈するかは自由だ」と小さく返事をした。



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