第333話 情報屋の価値

「今のは結構危なかったですね。また意識が飛ぶかと思いましたよ」


鎧を修復し終えた三日魔が地中から這い上がろうと、

もぞもぞ動いていた。


「すみません、ちょっと手伝ってもらっても良いですかい?」


左腕を何とか伸ばした三日魔は、火月に引き上げてくれと依頼する。


「少し待っていてくれ」


追撃を警戒した火月は怪物を一瞥するものの、

相手はこちらに見向きもせず、大きく口を開いて欠伸あくびをしていた。


それはまるで自分の周りを飛ぶハエを叩き落とし、

満足しているかのようにも見える。


『敵として認識されていないのか。

 それとも、既に片が付いたと思っているのか』


いずれにせよ、こちらに注意が向いていないのなら好都合である。


直ぐに三日魔が埋まっている場所に駆け寄った火月は、

腕を掴んで地中から引っ張り上げる。


「いやぁ、助かりました。私一人だったら脱出不可能でしたよ」


「あの攻撃を直で受けるなんて無謀過ぎる。

 もっと相手の出方をうかがってから動くべきだ」


「それはそうなんですがね。

 私は兄貴みたいに回避能力が優れているわけではないんですよ。

 限られた時間の中で、

 怪物の情報を効率よく集めるために考えついた方法があれなんです。

 それに怪物の攻撃をじかに受けることで得られる情報もありますぜ」


「直に受けることで?」


思わず火月が聞き返す。


「えぇ、それは怪物の攻撃がどの程度の威力なのかってことです。

 こればっかりは、実際に受けてみないと分からないですからね」


「そうだとしても、あまりにもリスクが高過ぎる。

 相手の攻撃に耐えられなかったら、

 さっきみたいに意識が飛ぶ可能性だって十分あり得るんだぞ。

 自分の命を粗末にする行為は止めろ」


「命を粗末にする……ですかい。

 兄貴、自分はそんな風に思ったことは一度もないですぜ。

 時計の能力と自分の得物の特性を考慮し、

 最適解を導き出した結果に従って動いているだけです。

 それに、

 以前、兄貴に情報屋って人種はリスクを恐れるタイプが多いって話をしましたが、

 逆に言えばリスクを取れる情報屋は希少価値が高いんですよ。

 あなたもその稀有けうな存在の一人だと思っていたんですが……

 どうやら私の見込み違いだったようですね」


三日魔は決して冗談を言っているわけではなかった。


「追加で言っておくとですね、

 確かに先ほどの行動はリスクの高いものだったかもしれません。

 もし私が一人で異界に入っていたら絶対に取らない行動だったでしょう。

 ですが、今は兄貴たちと一緒にこの異界にいるわけじゃないですか。

 だったら、

 多少のリスクをおかしてでも情報を取りに行きたくなるってもんですよ。

 万が一のことがあったとしても、

 最後まで弟子の面倒を見るのが師匠の役割だと思ってますので」


『なるほど……そういうことか』


この異界で三日魔に同行している意味をようやく理解した火月は、

自分の鈍感さに我ながら辟易したのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る