第332話 火の蛇と狼と鶏と

「その、あれじゃな……思っていた以上に身体が大きいのぅ」


ねぎしおも怪物の姿を確認したらしく、ひたいに薄っすらと汗をかいていた。


「怖いなら何処かに隠れていても良いんだぞ」


「べ、別に怖いとは言っておらん!

 ただ、昨日テレビで野生の蛇に密着したドキュメンタリー番組を見ただけじゃ。

 一応言っておくと、

 その時に鳥を丸呑みしていたシーンを見たわけでは無いぞ、うむ」


そのセリフは、丸呑みシーンを見たと自白しているようなものなのだが……

と言いそうになった火月は三日魔に視線を送る。


両手を挙げて、首を横に振っており

「これ以上の追及は野暮ってもんですぜ」

と言っているような気がしたのでぐっと言葉を吞み込んだ。


おそらくねぎしおは、捕食される側の本能的な恐怖を感じたのだろう。


もちろん、それは自分達修復者も例外ではない。

これだけの巨体なら、人間一人だって難なく丸呑みできるはずだ。


少なくとも、今まで出会ってきた怪物の中で

一番サイズが大きい相手なのは間違いない。


「食われる時は皆一緒だ。だから、あまり心配しなくていい」


不安を少しでも和らげようと思って火月が声をかけると、

ねぎしおがこちらをじっと見つめ、

「お主が食われても我だけは絶対に生き残ってみせるぞ」と高らかに宣言していた。


「まったく息が合ってないお二人さんには申し訳ないんですが、

 あまり時間も無いんでね。自分は怪物の情報収集に入らせてもらいますよ」


苦笑しながら三日魔がそう言い終えると、蛇の怪物の方へ一直線に走り始める。


「おい! 何か策はあるのか!」


闇雲に突っ込んで行っても格好の的になるだけだと思った火月は、

三日魔の背中に向かって叫んだ。


「策なんてある訳ないですよ。自分の能力はさっき説明した通りなんでね。

 やることはシンプル、当たって砕けるってやつですぜ。

 まぁ、砕けても直せばいいだけの話ですが」


要するに三日魔は怪物のサンドバッグになることで

相手の攻撃パターンを把握しようとしているのだろう。


そんな滅茶苦茶なやり方があるのかと内心驚きつつ、

火月も直ぐに三日魔の後を追う。


怪物もこちらの動きに気づいたようで、

とぐろを巻いている状態から尻尾を高く上げると、

三日魔と火月が走っている場所に向かって勢いよく振り下ろした。


時計の能力を即座に発動した火月は大きく左にジャンプして、

尻尾の下敷きになるのを回避する……が、

三日魔は両腕で顔を覆う体勢を取っており、怪物の攻撃を直に受けていた。


ズシンと地面が揺れ、水しぶきが上がる。


三日魔は完全に尻尾の下敷きになってしまっており、

その安否までは確認できなかった。


『本当に大丈夫なのか……?』


程なくして、怪物が尻尾を持ち上げ元の位置に戻すと

地面に三日魔の頭部らしきものが埋まっていることに気づく。


マスクには先ほどと同じようにひびが入っていた。


『まさに、打たれた杭だな』


三日魔のあまりにも大胆な、もとい無神経な行動に

火月はただただ呆気に取られていた。

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