第330話 回帰

「念のため確認なんじゃが、お主は三日魔で間違いないんじゃな?」


ねぎしおが質問を投げかける。


「そういえば、この姿をお見せするのは初めてでしたね。

 こんなボロボロの状態でお恥ずかしい限りですが、正真正銘、三日魔ですぜ」


会話自体は問題なくできそうだったので、

火月も気になっていたことを聞いてみることにした。


「その鎧は時計が変化したものなのか?」


しかり。兄貴の時計が短剣に変化しているのと同じですぜ。

 得物が鎧ってのはあんまりしっくりこないかもしれないですが、

 自分は最初からこれが当たり前なんでね」


鎧に武器のイメージは無かったが、

という意味合いでは

鎧も武器にカテゴライズされるものなのかもしれないなと火月は一人納得していた。


「まずは生きていたことを喜ぶべきなんじゃろうが、状況が状況じゃ。

 早く手当てを済ませた方が―――」


「それには及びませんぜ。このくらいのダメージは日常茶飯事なんでね」


三日魔がねぎしおの言葉を遮る。


「見た目は酷い有様ですが、

 基本的な治癒能力は上がっているんで直ぐに流血も収まるかと」


「そうは言ってもな……」


三日魔の言う通り、

異界で修復者の自然治癒能力が上がっていることは重々承知しているが、

破損の酷い鎧を見せられては中々納得できるものではなかった。


それに得物がこんな状態では、鎧としての本来の機能も期待できないだろう。


こちらの言いたいことを理解したのか、

三日魔はニヤリと口元に笑みを浮かべていた。


「あぁ、確かにこんなボロボロの鎧じゃ

 怪物とやり合うのは無茶ってもんですね」


そう三日魔が言い終えると突然鎧全体が白く光り始める。


何事かと思ってその光を見つめていた火月は

鎧に変化が起きていることに気づいた。


『破損箇所が直っていく……』


鎧全体を包んでいた光が消えたと思ったら、

先ほどまで素肌が見えていた腕の部分も完全に修復しており、

鎧は傷一つ無い状態に戻っていた。


「私の時計の能力は、なんです。

 それこそ、今壊れている水路の壁面も直すことができますぜ。

 まぁ、直したい物に自分の身体が触れてなきゃいけないって

 条件付きではありますがね」


「なるほどな、だから鎧が自動修復したように見えたのか」


三日魔がコクリと頷き話を続ける。


「とはいっても自分の鎧はそこまで耐久値が高いわけではないんですよ。

 生身の修復者よりかは多少打たれ強いといった程度です。

 だから、こうして何度も直してやることで

 怪物との戦闘が可能になってるわけです」


「だが、いくら鎧が直っても身体へのダメージは残り続けるんじゃないか?」


「えぇ、私が直しているのはあくまでも無生物ですからね。

 なので、正直戦闘向きではない能力なんですよ。

 使い道があるとするならば、怪物の囮やサンドバッグになるくらいでしょう」


怪物の注意を惹きつけるという意味では、これ以上の能力は無いだろうが、

ダメージの蓄積を考えるなら

一人で怪物と戦っても勝ち目がある能力とは思えなかった。


だが火月の回避能力も、

ダメージを受けずに敵を惹きつける役割みたいな部分があるので、

あまり人のことをどうこう言える立場ではないかもしれないが。


「獲物と時計の能力については大体理解した。

 俺の時計の能力の説明は……不要か」


「事前に情報を仕入れていますので」


「了解だ。ちなみにまだ動けるってことで良いんだよな」


「無論ですぜ。ちょっと出会いがしらに手厚い挨拶を受けましたが、

 おかげで目が覚めましたよ」


ガチャリと音を立て、その場から三日魔が立ち上がると

飛ばされてきた壁面の方角を真っすぐ見つめながらポツリと呟く。


「そろそろお相手も到着のようです」


話に夢中になっていたせいで気づくのが遅れてしまったが、

怪物の気配はすぐ後ろに迫っていた。

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