第323話 鎧
暗闇はいつだって自分の心を落ち着かせてくれる場所だった。
誰の目にも映らない、他人の視線を感じることがないそこは、
唯一自分の存在が許されているような気がした。
周囲はしんと静まり返っており、水の張った道を歩く足音が妙に心地良い。
そう言えば以前、
似たような状況になったことを思い出した三日魔はふと足を止める。
そう……確かあの時も漆黒の世界をただ一人歩いていたはずだ。
『今とは状況が
とっくに自分の中ではけりがついた話だと思っていたが、
忘れ去るにはまだ時間がかかるらしい。
生存本能の一種なのか、人はマイナスの情報に敏感だ。
世の中のニュースをみれば、
それが如何に人の不安を煽るもので溢れているかよく分かるだろう。
まぁ、そのおかげで自分が情報屋をやっていけているのも紛れもない事実なので、
まだまだこの本能には頑張ってもらいたいところではある。
とは言っても、
将来的に人の記憶の一部を綺麗に忘れさせてくれる薬が開発されたら、
かなり儲かるんじゃ無いかと割と本気で思っていたりする。
知らなくて後悔したことと、知って後悔したこと、
どちらが多いか?と問われれば自分は絶対に後者を選ぶだろう。
情報が多いというのは一見メリットのように思えるが、
実はそうとも限らない。
その情報の中に分からない、不安なことがあれば
人はさらに情報を求めるだろう。
そして負の情報のループから抜け出せなくなるのだ。
安心を求めるために情報を集めていたはずなのに、
その行為自体が不安を作る元凶になっているのだから、何とも皮肉な話である。
学を絶てば憂いなし……なんて言葉があるが、本当にその通りだと思う。
ただ、一度インプットされた負の情報は中々消えてくれないので、
例の薬が必要になってくると思ったのだ。
そんなことを考えながら再び歩き始めた三日魔は
水路の壁面に何かが擦れた跡を発見した。
『まるで、巨大な生き物が通った跡のような……』
何となく頭上を見上げた三日魔は、
水路の天井にも同じように擦れた跡を見つける。
「これは、思った以上に大物かもしれませんねぇ」
もし、この痕跡が怪物のものだとするならば、
水路いっぱいのサイズ感になるのは間違いないだろう。
「念のため、用心しておきましょう」
ゴソゴソとズボンのポケットに手を突っ込むと、
時計に意識を集中させると、
白い光となって時計が三日魔の着ぐるみに覆い被さるような動きを取る。
水路に閃光が広がったと思ったら、
バチバチという音と共に三日魔の全身に異変が起きていた。
それは、例えるなら仮面ライダーのような出で立ちだった。
フワフワして触り心地が良さそうに見えた着ぐるみファッションは、
一変して三日魔の全身を覆う鎧へと変貌を遂げていた。
頭の被り物も今までのゆるキャラ風とは打って変わり、
勇ましいオオカミの戦士を彷彿とさせる。
「さて、もう少し詳しく調べてみますか」
そう一人呟いた三日魔は、痕跡を辿るようにして探索を再開したのだった。
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