第322話 水路

怪物の気配が次第に強くなっていくのを感じつつ、

黙々と水路に沿って歩いていた火月は、

突然三日魔が足を止めたので顔を上げる。


「ここから先は、水路が二つに分かれているようですね」


手に持っていたランタンを目の前にかざし、

注意深く三日魔の指さす方を確認すると、

確かに今まで一本道だった水路が二叉に分かれていた。


「怪物の気配を両方から感じる以上、どっちが正解なのかわからないな」


「えぇ、もしかしたら最終的なゴール地点は同じなのかもしれません」


三日魔がじーっと火月を見る。


おそらく、このまま三人一緒に一つの水路を選んで進むのか、

それとも二手に分かれて水路を進むのか、

どちらにするのか決めろと暗に言ってるのだろう。


これも指導の一環と言うのなら、

情報屋が二人居るこの状況で選ぶ選択肢は一つしか考えられなかった。


「なら、ここは二手に分かれよう。

 集められる情報が多いに越したことは無いからな」


「兄貴なら、そう言ってくれると思ってましたぜ。

 それじゃあ自分は右側のルートを進むんで、

 兄貴たちは左側のルートをお願いします」


「わかった。

 ちなみに、何か不測の事態が起きたら絶対に生き残ることを優先してくれ。

 例え、今回の情報収集が失敗に終わったとしても、

 命さえあれば何度でもやり直せるからな」


「うむ、火月の言うとおりじゃ。

 三日魔よ、くれぐれも無理はせぬようにな」


「これはこれは。誰かに身の安全を心配して貰えるなんていつ以来でしょうか。

 あまりの嬉しさに、涙が止まらないですよ」


「被り物をしてるんじゃから、お主が本当に涙を流しているのか判断がつかぬわ」


ねぎしおにツッコミを入れられつつも、

三日魔が右側の水路の入口に移動する。


「お互い無事に再会できることを祈ってますぜ」


ピチャピチャと音を立てながら、

三日魔が暗闇に消えていく姿を見送った火月は、左側の水路を一瞥する。


「これまで以上に気を引き締めて行く必要がありそうじゃな」


「あぁ……」


いくらランタンがあるとは言え、遠くが見通せないこの異界は

傷あり紅三の扉にも引けを取らない難易度になるだろう。


つい先ほど三日魔に忠告した内容は、

半分自分に言い聞かせるために言ったようなものだった。


『人の心配をしてる場合じゃないか……』


とりあえず怪物の気配を辿りつつ、

この異界の情報集めに専念することに決めた火月は、

なるべく音を立てないように左側の水路を進み始めたのだった。


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