第320話 巨石

連休最終日。


ねぎしおのやる気という名の妨害行為をものともせず、

ギミック型の扉を修復した火月は昨日、

三日魔の予想を裏切ることに成功した。


やはり、あの情報量では

謎解き部屋への入り口すら見つけることが出来ないと踏んでいたらしく、

若干興奮気味の三日魔から質問攻めに合った火月は、

その相手をするのに随分と骨が折れたのだった。


また、三回目の依頼内容についても告知があり、

最後は傷有り紅二の扉の情報収集に同行して欲しい……とのこと。


弟子を卒業するからには現場での直接指導が必要だと熱く語っていたが、

本当に言葉通りの意味なのかは怪しいところだった。


結局、連休最終日もタイミングを見計らったかのように傷有り紅二の扉が出現し、ちょうど今、火月とねぎしおは扉の出現場所付近に到着したところだった。


現在の時刻は午後七時過ぎ、

街から少し離れた雑木林の生い茂る場所で、

スマホのライトをつけながら三日魔の姿を探していると

「思ったよりも早かったですね」と不意に暗闇から声をかけられる。


「神出鬼没なのは、相変わらずだな。

 心臓に悪いからもっと普通に出てきてくれ」


声のした方へライトを向けると、そこには三日魔が物音一つ立てず佇んでいた。


「驚かせるつもりはなかったんですがね。

 予定時刻よりも早くこの雑木林に誰かが来た気配を感じたので、

 念のため確認をしようと思ったんですよ」


「約束の時間には遅刻しないのがモットーなんだ。

 ……遅れたら何をされるかわかったもんじゃないからな」


後半部分はトーンを落として火月がボソボソと呟く。


「ん? 最後の方何か言いましたか?」


「別に何でも無い。社会人として当然のことをしたって言っただけだ」


「なら、いいんですがね」


「お主ら、雑談はほどほどにしてさっさと本題に入ったらどうなんじゃ?

 あそこに見えている門の形をした直立の巨石が目的地なんじゃろう?」


痺れを切らしたねぎしおが会話に参加してくる。


「えぇ、間違いないかと」


三日魔の視線の先を追うと、

そこにはストーンヘンジを彷彿とさせる巨石が立っていた。


と言ってもサイズ感は高さ三メートルほどで、

本物のストーンヘンジのように石が環状に並んでいる訳では無かった。


とりあえず、巨石の場所まで三人で移動する。


「それでは、お二人とも準備はいいですか?」


後ろを振り向いた三日魔が、火月とねぎしおを交互に見て確認をとる。


「あぁ」


「無論じゃ」


二人の返事を聞いた三日魔がゆっくり頷くと、

花崗岩で作られたと思われる傷有り紅二の扉に足を踏み入れる。


火月とねぎしおも後に続き、紅色に輝いていた上二つの扉の水晶が

程なくして鮮やかな蒼色に変わった。

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