第318話 ギミック型

連休二日目。

運が良いのか悪いのか、今日も傷有り紅一の扉が出現したため、

早速三日魔から招集依頼があった火月は今、

ねぎしおと共にちょうど扉の中へ入ったところだった。


昨日、怪物から受けた戦闘ダメージは完全に回復していなかったが、

さっさとこの仕事を終わらせたかったので二つ返事で引き受け、

直ぐに家を出た……というわけである。


「随分と小洒落た場所じゃのぅ」


扉の先で待っていたのは、随分と現代チックな場所だった。

一言で表現するなら、高級ホテルのエントランス……といったところだろうか。


完全に日は落ちていたものの、

黒い大理石の床には等間隔でベージュのライトが埋め込まれており、

周りの植木や噴水を鮮やかに照らしていた。


そして、そのエントランスの一番奥には真っ白な壁があり、

異様な存在感を放っていた。


「今までの異界とは様相が異なるようなじゃな」


「鈍感なお前でも流石に気づくか」


ねぎしおが周りを物珍しげに観察していたので火月が声をかける。


「あの白い壁が行き止まりだとするなら、随分とスケールの小さい異界じゃのう」


「確かにスケールが小さいってのも珍しいが、

 今までの扉と決定的に違うのは、ってことなんだ」


「怪物が存在しない……じゃと?」


ねぎしおが驚いた様子で火月を見上げる。


「あぁ、傷有りの扉にはその傷ができた原因があるってことは知ってると思うが、

 必ずしもその原因が怪物って訳じゃないんだ」


「うぅむ。以前そんな話を聞いた覚えがあるような無いような……」


「忘れているのも無理ないさ。

 そもそもの出現頻度が低い扉だからな。

 俺自身、片手で数えられるくらいしか入った事が無い。

 ちなみに、こういったタイプの扉は一般的にって呼ばれてるんだ」


「なるほどのぅ。

 じゃが、怪物が存在しないのならどうやって扉を修復するんじゃ?」


「あぁ……それについてなんだが、

 ギミック型の扉ってのは、所謂とも言える」


「身体では無く、頭を使って扉を修復しろ……ということか?」


火月が首を縦に振る。


「怪物に追いかけられるよりも遙かにマシじゃな」


「違いない」


実際、ギミック型は火月でも修復できるレベルのものが多かったので

個人的には当たりの扉に分類される。


「三日魔の情報によると、

 あの白い壁の何処かに謎解き部屋へと通じる入り口があるらしい」


「なら、さっさと修復を終わらせるとするかのぅ。

 ここは頭脳派の我に任せてもらって構わぬから、

 お主は大船に乗ったつもりで待っているが良い」


そう高らかに宣言したねぎしおは、

ようやく自分の出番が来たと言わんばかりに張り切っていたのだった。

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