第317話 寸鉄人を刺す

「何が、ここは俺に任せろ……じゃ。

 あそこまで言い切っておいて

 まんまと怪物にやられる修復者が何処におるんじゃ?」


「何事も予想外の出来事は起こり得るってことだ」


「ふん。毎回毎回予想外で済まされておったら、命がいくつあっても足りぬぞ」


実界に戻るや否や

火月とねぎしおが口論を始めると

扉の前で待機していた三日魔が近づいてくる。


「お二人ともご無事で何よりです。

 それで、私の集めた情報はお役に立ちましたかねぇ?」


「お主には、この状況が無事に戻ってきたように見えておるのか?」


ねぎしおの怒りの矛先が三日魔に向けられる。


「えぇ、少なくとも生きて帰って来られてますから。

 よく言うじゃないですか……命あっての物種って」


呆れた様子のねぎしおが閉口すると、

火月をじっと睨み付ける。

その視線は「後は、お前が何とかしろ」と言わんばかりのものだった。


「とにかく、情報の精査は終わったからレビューさせてもらうぞ」


そう火月が言い終えると、

三日魔の集めた情報に対する指導が始まったのだった。



――――――


――――――――――――



「怪物との戦闘データ……。確かにその情報は集めてなかったですねぇ」


まるで今気づいたかのような口ぶりで話す三日魔を

火月は黙って観察していた。


「本当は知ってたんじゃないのか?」


「何をですかい?」


きょとんとした様子の三日魔が聞き返してくる。


「あの怪物が仲間を呼ぶタイプだってことさ」


「ご冗談を。

 そもそも私の時計の能力はあまり戦闘向きではないのでね、

 出来ることなら怪物と一戦交えるのは避けたいんですよ。

 だから、相手を観察して得た情報しか集められなかった……

 ただ、それだけの話です」


それに―――と三日魔が付け加える。


「もし私が怪物との戦闘データを持っていたとしても、

 その情報全てをあなたに包み隠さず伝える必要はないんじゃないですか?」


「何だと?」


火月が三日魔を睨む。


「よく考えてみて下さいよ。

 こっちは命がけで情報を集めてるんですぜ。

 だったら、基本的な情報だけ伝え、

 より詳しい情報が欲しいなら追加料金くらいもらわなきゃ、

 情報屋の仕事なんてやってられません。

 兄貴のように質の高い情報を

 毎回安定供給できるのは素晴らしいことだと思いますがね、

 情報は不確実、不安定だからこそ価値が生まれるんです」


「つまり、俺のやっていることは商売人としては三流以下ってことか?」


「少なくとも私はそう思いますがね。

 兄貴は組織にていよく使われているだけに過ぎない……

 端から見たら、自分を安売りしてる変人といったところですかね。

 まぁ、私の知らないところで組織から魅力的な報酬をもらっているのか、

 はたまたていよく利用されていることを自覚して仕事をしているのか、

 あるいは単なる死にたがりなのか、の判断はつきかねますが」


「……」


火月と三日魔の間に沈黙が流れる。


「とりあえず、怪物との戦闘データが金になりそうって分かっただけでも

 十分成果がありましたよ。やはり、貴方に仕事を依頼して正解でした」


「少しでも役に立てたのなら何よりだ」


「それじゃあ、今日は解散ということで。引き続き宜しくお願いしますね」


三日魔が姿を消し、しばらくその場で立ち尽くしていると

ねぎしおに声をかけられて我に返る。


「……月! 火月よ!」


「ん? どうした?」


「どうした?では無い!

 ずっと話しかけておったのにお主が上の空だったのではないか」


「あぁ、すまない。

 怪物の攻撃を腹に食らってな。痛みを我慢するのに必死だったんだ」


「それならさっさと家に帰って休むべきじゃ。

 あのオオカミ風情から何時連絡が来るか分からぬ以上、

 体調は万全にしておいた方がいいじゃろう」


「同感だな」


先を歩き始めたねぎしおの後を追いつつも、

火月は三日魔から指摘された『情報屋としての在り方』について

ずっと考えていたのだった。


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