第313話 連休

「休日は何をして過ごしますか?」


就活の時に面接官から聞かれた質問の中で

一番答えにくかったものは何か?と聞かれたら、

中道火月は間違いなくこの質問を選ぶ。


というのも、

別に休日だからといって何か特別なことをしているわけではないからだ。


強いて答えるとするならば、

「休日は休んでいます」

この一言に尽きる。


そもそも、質問の仕方がちょっとズルいと思うのは自分だけだろうか?


何をして過ごしますか?という質問は、

まるで休日は何かをするのが当たり前

といったニュアンスを含んでいる気がしてならない。


読んで字の如く休日なのだから、

ゆっくりする、だらだらする、そんな過ごし方をしたっていいじゃないか。


ただ、この質問に対し

本当にそのまま休んでいると返答したら、

面接官の顔が曇るのは容易に想像できる。


だから、運動しているだとか、何かの趣味に没頭しているだとか

相手が期待している、謂わば聞こえの良い回答を用意するのが就活生の役目だ。


結局、それが真実であるかどうかはあまり重要では無く、

自分のついた嘘をどうやって相手に信じ込ませるか……

機転を利かせてハッタリをかますスキルの方が大事なんだろうな

と今になって思う。


さて、カレンダー通りなら今日から三連休が始まる人も多いはずだ。

社会人にとって有給を使わずに三連休を取れる機会はそう多くない。


となれば、ここぞとばかりに多くの人が旅行や遠征に出かけるのは

当然のように思えるが、中道火月は違う。

連休中は絶対に外に出たくないタイプの人間なのである。


理由はシンプルで人混みが嫌いだからだ。


なので、連休前になると決まってスーパーへ立ち寄り、

ある程度の食料を買い込むようにしていた。


過去に一度、連休中に買い出しをしたことがあったが、

あの時の疲労度は平日のそれとは比べものにならなかった。


そんな訳で、嵐が過ぎ去るのをじっと待つかのように

連休を自宅で過ごす予定だった火月は今、

三日魔に呼び出されて傷有り紅一の扉の前で待機していた。


もちろん、先日の依頼を果たすためである。



「まだ帰って来ぬようじゃな」


足下でねぎしおが扉を眺めながら呟く。


三日魔が情報を集めてくると言って扉の中に入ってから、

ちょうど二十分が経過しようとしていた。


「まぁ、中で何が起こるか分からない以上、

 情報収集にかかる時間なんて予想できないもんさ。

 一時間近く待てば、何かしら動きがあるだろう」


「そういうもんかの」


これから自分のやることと言えば、

三日魔が持ち帰ってきた情報を元にもう一度この扉の中へ入り、

情報の精度を確かめることだ。


ちなみに、ねぎしおの口調が元に戻ったのは

三日魔と交渉をした日の夜、

市民体育館の中でいびきをかいて寝ている姿を発見してからである。


目を覚ましてからは、色々と吹っ切れたような表情をしていたので、

何かしら心境の変化があったのだろう。


口調の件については、そのまま触れないでおくことにした火月は、

できればこの三連休で情報屋としての指導が終わることを祈りつつ、

三日魔の帰りを今か今かと待っていたのだった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る