第306話 弟子

「なるほど、そこまで噂が広まっていたとは……」


今までずっと会話に参加してこなかった

独りでに喋り始める。


「何を隠そう、このお方こそ傷あり紅三の扉を修復させた張本人、

 中道火月殿である!

 私も古き良き友人として非常に鼻が高い!」


不審者の前で両腕?を組み、

うんうんと頷きながらねぎしおが誇らしげにしていた。


早速正体がバレてしまったが、

ねぎしおの失言は今に始まった話ではないので

怒る気にもなれなかった。


「これはこれは。

 まさか、こんなに早く当の本人とお会いできるとは思ってもみませんでしたよ」


オオカミの不審者が嬉しそうにこちらへ歩み寄ってくる。


『白々しい奴め……』


警戒を解かないまま、じっと相手の出方を窺う。


「そんな怖い顔しないで下さい。

 私はただ、貴方と仲良くなりたいだけなんですから」


「何が目的だ?」


「目的……だなんて、そんな大層な話じゃないですよ。

 ちょーっとだけお願いしたいことがあるだけです」


「噂にどんな尾ひれがついてるのかは知らないが、最初に言っておく。

 俺は確かに傷あり紅三の扉の修復に関与していた。それは認めよう。

 だが、それが扉を修復した本人とイコールになるとは考えない方がいいぞ」


「……と言いますと?」


「俺以外にも扉の中には修復者が二人いた。

 要するに、俺一人で扉を修復したわけじゃないってことだ」


「なるほどなるほど。

 随分とご自分のことを過小評価されていらっしゃるんですね」


「そんなつもりはない、事実を述べただけだ」


「貴方の言いたいことはよくわかりました」


オオカミの不審者が顔を近づけてきたと思ったら

そのまま話を続ける。


「で・す・が、

 私はあなたが扉を修復した本人かどうかなんてどうだっていいんですよ。

 傷あり紅三の怪物という強敵を目の前にして、

 一戦力にもならない情報屋が生きて帰ってきた……

 その事実こそが大事なんです」


「たまたま生き延びただけかもしれないのに、随分と熱心なことだな」


「もちろんです。

 何せ、我々情報屋界隈では今一番ホットな話題ですから」


情報屋界隈というキーワードが気になるところではあったが、

これ以上話がややこしくなるのは避けたかったので、

言及は避けることにした。


「して、そこのオオカミ風情は火月……

 いや、中道さんにどんなご用がお有りで?」


さながらマネージャーのような立ち振る舞いをするねぎしおが

不審者に問いかける。


「おおっと、危うく本来の目的を忘れるところでした。

 申し遅れましたが、私、名を三日魔みかまと申します」


その場で地面に座り込んだと思ったら、

正座をして三日魔が話を続ける。


「中道さんの腕を見込んで、一つお願いがありましてね。

 ?」


それは決して冗談を言っているような声色ではなく、

今まで話をしてきた中で一番真剣味を感じさせるものだった。

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