第301話 食費

『何だ……この金額は』


土曜日の昼下がり。

リビングのテーブルで家計簿アプリと睨めっこをしていた火月は、

財布に貯まったレシートを取り出してここ数ヶ月の食費の計算をしていた。


本来であれば毎月欠かさず行っている作業なのだが、

年が明けてから普段の仕事や修復者の仕事が立て込んでいて、

落ち着いて家計簿をつけるタイミングがなかったのだ。


結果、三月の中旬という今日になってしまったわけだが、

今年に入ってから食費の数値が異常に高くなっており、

スマホの画面には過去最高額が表示されていた。


確かにここ最近、外食をする機会は多かったかもしれないが、

それでも数万単位で食費の金額が上がるなんて思ってもみなかった。


画面をスクロールし、アプリで詳しい内訳を確認していた火月は、

金額が上がり始めた月から

の購入頻度が増加していることに気づく。


『……おつまみ系か』


火月はほとんどお酒が飲めないので、

おつまみ系の食べ物を自分のために買うことはない。


となれば、これは一体誰のために買ったものなのか?


無論、ねぎしおである。


リビングのソファーでテレビをつけたまま、

いびきをかいて寝ている鶏を一瞥した火月は静かに溜息をつく。


別におつまみ系の商品を買い始めたのは

今年に入ってからという訳ではない。


それこそ最初の頃は、

ご機嫌取りの一環として安いチーズ系のおつまみを出せば十分満足していた。


だが、回数を重ねれば重ねるほど、

やはり飽きというものが出てくるようで、

次にねぎしおが目につけたのはジャーキー系のおつまみだった。


チーズ系より値段が高くなってしまったが、

こいつの機嫌をとれるなら……と思い、

今度はジャーキー系もセットにして買い与えていた。


一度味を占めたら要求がエスカレートしていくのは自然の流れで、

より高品質のおつまみを高頻度でねぎしおに提供し続けた結果、

食費がとんでもない数字を叩き出していた……という訳である。


もちろん、ねぎしおのお世話という名目で

組織から一定額が振り込まれてはいるものの、

こんな状況がずっと続けば赤字になる未来は容易に想像できた。


それに、この状況を作り出してしまったのは、

他でもない自分自身である……ということを火月は薄々感じていた。


ねぎしおとの面倒なコミュニケーションを避け、

手っ取り早く問題を解決してくれる魔法のようなアイテム……

それこそが、このおつまみだったのだ。


だが、これ以上このアイテムに頼ることはできないと思った火月は、

ねぎしおと真正面から向き合うことを決め、

ある作戦を決行することにした。

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