第8章 山師

第300話 光陰矢の如し

年齢を重ねれば重ねるほど、時の流れが早くなるとはよく言ったもので、

学生の頃と比べると

社会人になってからの一ヶ月、一年は本当にあっという間だ。


この体感スピードの違いの具体例として、

よく子供と大人が引き合いに出されるが、

どうやらそのスピードに影響を与えているのは、

日々の生活を送る中で新しい刺激がどれだけ多いか?

ということらしい。


確かに社会人になってある程度仕事を覚えてくると、

自分の生活スタイルがルーチンワーク化してくる人も少なくないだろう。


毎日同じ時間に起きて、決まった時間の電車に乗り、

定時まで働いたら帰路に着く。


プライベート時間の過ごし方に多少の違いはあれど、

多くの会社員の生活スタイルはこんな感じだと思う。


一方、学生の過ごす日常はルーチンワーク化されていないか?

と問われれば答えはノーである。


学校に行く時間も当然決まっているし、

むしろ社会人よりもタイトなスケジュールを組んでいる人もいるだろう。


とするならば、

新しい刺激の量に差が生まれるタイミングは何処で生まれるのか?

という疑問が浮かぶが、

そこは生きた年数、つまり経験と知識量の差によるのだろう。


年を重ねればある程度のことはもう経験済みであり、

意図的に自分から行動を起こさない限り、

新しい刺激……未知の経験をすることは少なくなってくる。


逆に学生は自分から行動を起こさなくても、

未知の経験をする機会が多いはずだ。


それは、やはり生きた年数が少ないからというシンプルな理由である。


ここで言いたいことは、

誰しも年齢を重ねれば時の流れが早くなるのは必然であるということだ。


もちろん、この考え方だと社会人になってからも、

積極的に新しい刺激を求めて行動すれば時間が経つのは遅くなる……

ということになるが、

一体どれだけの人が毎日を刺激的に過ごすことができているのだろうか。


勝手な予想でしかないが、そこまで数は多くない……と思う。


そして、そんな数少ないサンプルの一つとして、

修復者の活動は紛れもなく未知の経験と言えるはずだ。


今までの経験は、確かに刺激的なものであったのは間違いない。

普通に暮らしていたら、絶対に知ることの無かった世界だ。


……だがたった今、

それらの経験をゆうに上回る未曾有みぞうの出来事が

火月のスマホの中で起こっていたのだった。

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