第295話 役割

「中道火月、藤堂志穂、山内匠真、計三名の修復者を発見しました。

 ……全員意識を失ってはいますが、

 傷有り紅三の扉は見当たらないので、

 おそらく修復は完了したものと思われます」


ニスデールをまとった人物が

スマートフォンを片手に無機質な声で話し始める。


「相変わらず報告が早くて助かるよ。

 後のことは僕がやっておくから、君は元の仕事に戻ってくれ」


電話越しに早見の声が聞こえる。


「……わかりました」


こちらから通話を切って薄暗いアンダーバスの歩道を引き返そうとしたところ、

ベージュのキャップを被り、

ミリタリージャケットを羽織はおった人がこちらに向かって歩いてきた。


「お仲間に連絡がついたようでござるな」


「……ご協力感謝します」


「なに、ちょっと知り合いがいたから心配になっただけでござるよ」


小日向こひなたと名乗る人物と出遭ったとはつい先ほどの出来事である。

アンダーバスに到着したところ三人を介抱していたのが彼女だったのだ。

話を聞く限り、どうやら中道火月と面識があるらしい。


「それじゃあ、小生はこれにて失礼するでござる」


「……貴女も同業者なの?」


現時点で蜃気楼に所属している全ての修復者と研究者の情報を

頭の中に入れているが、

小日向という名前は聞いたことが無かった。


最近入ったばかりの人なら情報がまだ更新されていないだけかもしれないが、

彼女の素性を念のため確認しておきたかった。


「同業者……?

 あぁ、そういう意味なら小生と中道殿は

 聖域で運命的な出会いを果たした同志と言っても過言ではないでござるな!

 そう、あれは確か数ヶ月前の――」


興奮した様子でマシンガントークを始めた小日向の話す内容は、

ほとんど理解できなかったが、

少なくとも彼女が同業者で無いことは理解できた。


後はこのトークが少しでも早く終わるよう、

じっと時間が過ぎ去るのを耐えるだけだった。

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