第294話 水光接天

『何が起きている……?』


自分の身体の異変に気付いた火月は困惑していた。


というのも、

つい先ほどまで感じていた身体の倦怠感がスーッと消えていったからだ。


そう……それはまるで未知の体験だった。

今までこんな経験をしたことは一度もない。


間違いなく時計の能力は切れているはずなのに……

そう思って視線を上げると

盾に巻き付いている鞭が激しく輝いていることに気づく。


そして、瞬間的にこの鞭の能力のおかげだと理解した。


「時計の制限時間を回復させる能力……か」


輝きを失った鞭が盾からほどけると同時に、

後方で誰かが倒れる音が聞こえた。


時計の制限時間が三分間だけ回復した火月は、

再度カウントダウンが始まったタイミングで一気に能力を全開にする。


亀裂が瞬時に回復し、更に盾の強度が増していく。


程なくして、ヒトデの怪物の猛攻が収まり、

熱光線を完全に防ぎきった火月は、その場で大きく叫ぶ。


「おおおおおおお!」


盾の表面がキラリと光ったと思ったら、

十字花刺しの文様の中心から一気に熱光線が照射される。


火月の盾は単に相手の光線を防いだわけでは無かった。


より正確に言うならば、

盾は怪物の攻撃を吸収し、その攻撃を完全に跳ね返して見せたのだ。


威力もスピードも格段に上がった熱光線がヒトデの怪物を一瞬で飲み込む。


その白い光の中で、

傷有り紅三の怪物は跡形もなく姿を消したのだった。

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