第292話 鳩に三枝の礼あり、烏に反哺の孝あり

お互いに一歩も譲らず、

激しい衝突が永遠に続くかと思われた怪物との攻防に変化が起き始めたのは、

火月が熱光線を耐え始めてから一分が経過した時だった。


「くそっ……」


……が、何とか気力で盾を支える。


いくら、自分の得物や能力に変化があったからといって、

その発動時間には制限があることを忘れてはならない。


火月が時計の能力を発動してから、ちょうど十分が経過したのが

まさにこのタイミングだったのだ。


能力切れにより、強度を維持できなくなった盾に亀裂が入り始める。


こんな時まで運が無い自分に心底呆れてしまった火月だったが、

そもそもこの盾と能力が無かったら

間違いなく三人とも瞬殺されていただろう。


あの二人が無事にここから脱出できたのか、

それを確認する余裕は無かったが、多少は長く時間を稼げたはずだ。


そう考えると、むしろ自分は運が良かった方なのかもしれない。



『……このお礼はいつか必ずさせてもらうよ。

 だから暫くの間、お別れだ……』



ふと、元田さんの最後の言葉が思い出される。

今自分が使っている得物と能力は、間違いなく彼のものだった。


何故、突然能力が使えるようになったのか?

なんて正直わからない。


まぁ、早見に言わせればこの懐中時計にはまだ未知数な部分が多いらしいから、

深く考えるのは止めておこう。


そろそろ立っているのも辛くなってきた火月は、

下唇を強く噛んで意識を保つ。


彼に無様な姿は見せられないなと思い、

最後まで盾を構えたままでいることを決意した火月は、静かに言葉を漏らす。


「……ちゃんとお礼、受け取りましたよ」


それは、かつての同志に向けた感謝の言葉だった。

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