第291話 祖逖之誓

突如、後ろから強風に煽られた山内は、

足がもつれて地面に倒れ込む。


背中に背負っていた藤堂さんが無事であることを確認すると、

何事かと思って後ろを振り向く。


「っ!」


それは一言で言うなら、巨大な熱光線だった。


おそらく、自分たちのいる場所へ向けて

怪物が放った攻撃なのは間違いないだろう。


「ここまでか」


あんなの、どうやって避ければいいんだ。


あと少し、あと少しで異界から出れそうだったのに……と後悔しつつ、

光線が迫り来る瞬間をただ眺めることしかできなかった山内は、

その光線がある一定の距離でとどまっていることに気づく。


『あそこにいるのは……』


光線の前に立ちふさがる黒い影を凝視すると、

そこには、巨大な盾のようなものを構えた一人の修復者の姿が見えた。


『そうか、彼が防いでくれているのか。

 それなら―――』


一筋の希望を見出した山内は、

最後の最後まで迷惑をかけてしまったことに申し訳なさを感じつつ、

怪物の熱光線を必死に防いでいるその後ろ姿を目に焼き付ける。


『攻撃を耐えてくれている時間を無駄するわけにはいかない』


入口の扉の方へ向き直り、一歩一歩地面を踏み締める。


「はぁ、はぁ……」


ゆっくり歩いているにも関わらず、次第に呼吸が乱れていく。


もうゴールは目前に迫っているはずなのに、

何故かその距離が途方も無く長く感じた。


『……あぁ、そういうことか』


扉までの足取りが重い理由をようやく理解する。


どうやら私は、こんな時になってまで

自分の選ぼうとしている道が本当に正しいのか、

怖くて仕方がないらしい。


きっと今の自分の姿を扉に入る前の自分が見たら、

お前は何がしたいんだ?

と笑われるのだろう。


傍から見たら、

私は間違った道を選ぼうとしているかもしれない……

だが、例えそうだったとしても

最後くらいは自分の意志で修復者としての仕事を果たさなければならないのだ。


「だから、すまない……」


そう小さく呟いた山内の目に、もう迷いは無かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る