第288話 暴走

『今度は遠距離攻撃か』


先ほどの回転攻撃よりも遥かに威力が高く、スピードが速い。

しかも、黄色く点灯している珠の数だけ熱光線を撃てる仕様のようだ。


つまり、現時点で同時に四本の熱光線を避けなければならない……。


いくら、自分の能力が回避能力を向上させるものだったとしても、

一度にこれだけの攻撃を避け続けるのは難しいだろう。


『利用できるものは利用するしかなさそうだな』


なるべく、怪物に全身を晒さないように装置から装置への移動を始める。


完全に自分の居場所がバレている状態だと、

確かに回避は難しいかもしれないが、

障害物があれば相手の照準も多少ズレるだろうと思っての行動だった。


もちろん、あれだけの巨体なので気休め程度にしかならない作戦ではあるが、

それでもやらないよりはマシだろう。


火月が移動すると、その直前の居場所を目掛けて次々と熱光線が放たれる。

暫くの間、回避を続けて相手の様子を観察する。


どうやら怪物は、自分の場所を補足してから光線を放っているようで、

ワンテンポ攻撃が遅れているのは間違いなさそうだった。


『ご丁寧に狙いをつけて撃ってくれるあたり、正確無比な機械様様ってところか』


状況から見れば、現時点で回避できている火月が有利なようにも思えるが、

周りの装置はどんどんどん溶かされているので、

一切の障害物がない、真っ平らな地形になるのも時間の問題だろう。


まぁ、その頃には十分な時間稼ぎができた……

ということも意味することになるのだが。


ただ、この傷有り紅三の怪物が当たらない攻撃を続けるとは思えなかった。


こいつにはちゃんと相手の力量を見定めて攻撃手段を変えて来る……

そう、例えるなら自己学習するAIのような機能を感じさせるものがあった。


だから油断はできない。


その後も回避を続けていた火月は、

次第に怪物の身体から白い煙が上がっていることに気づく。


あんな高火力の攻撃を撃ち続けていれば、

熱の負荷がかかるのはごく自然なことだ。


このまま動きが止まってくれればと思っていたら、

空中浮遊していた怪物が突如その場で縦、横、斜め、

全方位を含んだ三百六十度回転を始める。


「もしかして……」


言葉が出た時には、

既に熱光線の攻撃が予測不可能な位置に向けて放たれていた。


こちらの居場所が分からなくて、ヤケになった……というよりは

完全に熱暴走を起こしているといった挙動だった。


怪物自体があらゆる方向への高速回転を始めたことにより、

熱光線が無造作に周囲を焼き払う。


『くそっ、こんなの滅茶苦茶すぎる!』


一瞬で窮地に陥った火月は、完全に身動きが取れなくなっていた。


というのも、攻撃の軌道が予測できない以上、

下手に動けば無駄死にする未来しか見えなかったからだ。


とにかく、この暴走が一秒でも早く終わるよう、

ただ待つことしかできなかった火月は歯痒さを感じつつも、

じっと機を窺う。


時間にして一分が経過したタイミングで怪物の暴走が収まると、

回転と熱光線がピタリと止まり、

腕に埋め込まれていた五つ目の珠が黄色に点灯した。

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