第284話 伸ばした手

目の前で起きた出来事がスローモーションに映る。


体勢を崩した山内は、

相手の攻撃が直撃すると思い身構えたものの、

二体目の怪物は自分の真横を通り過ぎていく。


怪物が向かう先には、意識を失って倒れている藤堂さんがいた。


彼女の近くで戦っていたつもりだったのだが、

鞭の扱いに必死になっていたせいで

いつの間にか距離が離れてしまっていたようだ。


「っ―――!」


声を出して注意を促そうにも、

もう体力が限界に近付いており、自分の呼吸を整えるので精いっぱいだった。


どうやら、怪物にとって自分は最初から眼中に無かったらしい。


それもそうだろう……

相手に致命的なダメージを与えられない弱い修復者よりも、

脅威となり得る強い修復者から確実に仕留める、

怪物は完全にこちらの主戦力を把握していた。


結局、実界でも異界でも

私は何かを成し遂げることなく終わってしまう運命なのだろう。


いつだってそうだ。

自分は気づくのが遅すぎる。


何も変わらないことを信じて胡坐あぐらをかいていた人間にとって、

相応しい末路のかもしれない……。


ただ、それでも、恩人の命だけは何としても守りたかった……。





不意に耳元で聞き慣れない声が聞こえたと思ったら、

藤堂さんが倒れていた場所にヒトデの怪物が直撃する。


大きな音と共に床の一部が破壊され、辺り一面がモクモクと白い煙で覆われた。

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