第283話 終わりの物語

年齢や性別は違えど、

今まで出会った修復者は皆何かしらの理由や目的をもって活動をしていた。


別に誰が正しくて、誰が間違っているということはない。

ただ、自分のやりたいことをやりたいからやっているという感じだった。


それに比べて私はどうだろうか?

何のために修復者になったのだろう?


……


…………


答えは分かりきっていた。


突然の離婚を妻から宣告され、

それをただ受け入れることしかできなかった自分への不甲斐なさ、無力さを呪い、

単に自暴自棄になっていただけなんだと思う。


要するに私は、現実逃避をするためのてっとり早い手段の一つとして

修復者になったのだ。


そんないい加減な理由では、

固有の能力が発動できないのも当然の結果のように思えた。


だから、これ以上被害者面をして生きて行くのをめるために、

私は私自身にけじめをつけることに決めた。


以前水樹さんから、

異界での死は実界で都合の良いように解釈されると聞いたことがある。


そもそもの存在が無かったことになるのか分らないが、

誰にも迷惑をかけず、

誰の記憶に残ることも無く消え去ることができるその仕組みは、

今の自分にとってまさに打って付けのものだった。


そう……

山内匠真は別に、


彼は自分の物語を自分で終わらせるという目的のためにこの扉に入ったのだ。


ただ、最後くらいは誰かの役に立ちたいと思っていたので、

扉の中で藤堂さんに出会えたのは僥倖ぎょうこうだった。


彼女は覚えていないかもしれないが、

今こそあの時の借りを返す絶好のチャンスが到来したのである。


少し予定外のことが起きてしまったものの、

これだけは絶対に果たさなければならない、

謂わば修復者としての自分が本当にやりたいと思った最初で最後の仕事だ。



ヒトデの怪物が勢いをつけて、次々とドーム状の鞭にぶつかって来る。


正直、この状態を長時間維持することは難しいだろう。

自分がやっていることは単なる時間稼ぎに過ぎない。


ただ、このままくたばる訳にはいかなかった。

未熟な修復者には、未熟な修復者なりの意地があるのだ。


何とか二十体分の猛攻を耐え抜いた山内は、

鞭を握っていた右腕が僅かに痙攣していることに気づく。


やはり、腐っても傷有り紅三の怪物……

一体のサイズは小さくなってもその攻撃力は衰えていないらしい。


すると、ヒトデの怪物に再び異変が起き始める。


今度は十体ずつに集まったと思ったら、

全長三メートルほどの大きなヒトデへと変貌を遂げる。


最初に出会った時と比べれば半分くらいサイズ感ではあるが、

その数は計二体になっていた。


おそらく、二十体で攻撃を続けても無意味だと考え、

よりパワーのあるサイズに姿を変えたということなんだろう。


休む暇も無く、二体になったヒトデの怪物が高速回転をしながら迫ってきた。


即座に鞭のドームを展開し、

一体目の攻撃を弾いた……かのように思えたが、

ヒトデの怪物はまだ回転を続けており、鞭を突き破ろうとしていた。


『格段にパワーが違う。

 これは、思った以上にキツイかもしれない……』


全身に力を入れて、

やっとの思いで一体目の攻撃を防ぎ切ることに成功した山内だったが、

間髪入れずに二体目が直撃する。


一瞬気が緩んでしまったせいで、

弛緩した鞭の間に怪物の腕の一本が割り込む。


『しまった』


そう思った時にはもう遅かった。


怪物は、小さな裂け目をあっという間に大きく広げると

鞭の守りを突破したのだった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る