第282話 珈琲
寒さが本格的に始まり、朝起きるのが辛くなってきた霜月の頃。
元田君と会ってから、
山内は情報屋さんの情報を頼りに傷有り紅一の扉の修復に努めていた。
相変わらず自分の能力は分からなかったが、
鞭の扱い方は大部慣れてきたと思う。
つい先ほど扉の修復が終わったのでアタルデセルに立ち寄った山内は、
水樹さんに報告を済ませると
一番奥のカウンター席に座り、ブラックコーヒーをちびちびと飲んでいた。
すると突然、お店の扉が勢いよく開き、ドアベルがカランカランと音を立てる。
「水樹さん、こんにちはー!」
「……ど、どうも」
二人組の女性がお店に入って来る。
「相変わらず、茜ちゃんは元気いっぱいだね~。
カウンターの裏にいても声が響いてきたよ。
程なくして水樹さんが表に出てくると、彼女たちを出迎えていた。
一人の子は見るからに元気いっぱいといった声と表情をしており、
快活な印象を受ける。
一方、もう一人の子は少し怯えた様子で控えめな印象だ。
傍から見ると、真逆のタイプの二人が一緒に行動していることに違和感を覚えたが、きっと真反対に見えるだけで
芯の部分では気が合う関係なのだろう。
お店のアルバイトの子を新しく雇ったのかと思って気にしないでいたのだが、
断片的に耳に入って来る情報から、どうやら同業者のようだった。
「それにしても、二人ともよく頑張るね。ちゃんと休んでる?」
「全然大丈夫です!それに、少しでも施設に恩返しをしないといけないので」
「それならいいんだけど。
伊紗ちゃん、茜ちゃんが無理しないか、ちゃんと見張っておいてね」
「……わかりました」
それから暫くの間、
三人で新作スイーツの話題で盛り上がっていたようだったが、
興味がなかったので内容はほとんど入ってこなかった。
ただ、彼女たちもまた
誰かのために修復者の活動をしているという事実だけが頭の中に強く残っていた。
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