第278話 タイムオーバー

複数体に分裂したヒトデの怪物を一体ずつ確実に仕留めて行く。


といっても、相手に自切能力がある以上

完全に始末できているわけではないだろう。


むしろ、自分の攻撃によって怪物の分裂を誘発し、

更に数を増加させる結果にもなりかねない行為だった。


そんなことは頭では理解している……理解しているが、

自分の身を守るためにはやるしかなかった。


にもかくにも、この一斉攻撃を防ぎ切ることに集中していた志穂は

七体目の怪物を切り落としたところで自分の身体の異変に気づく。


「くそっ、このポンコツが」


腕を振り上げようにも、明らかに反応速度が落ちてきていた。

今までの疲労が蓄積し、全身が悲鳴を上げているのだろう。


これ以上怪物を切り落とせないと判断した志穂は、

右腕の鉤爪で顔を覆うような体勢を取ると防御に徹する。


高速回転する怪物の攻撃が身体をかすめ、

ところどころに切り傷が入っていく。


『こんな怪物、一体どうやって倒せば……』


突如、足の力が抜けて片膝かたひざを地面につける。


どうやら、時計の能力がちょうど時間切れになったようだ。

倦怠感がずしんと身体に乗しかかってきたと思ったら、

次第に意識が朦朧もうろうとしてくる。


あと少しで怪物を倒せると思っていたら、逆に自分が追い込まれていた……

なんと無様な結果だろう。


傷有り紅三の怪物を一人で始末する?

よくそんな考えが頭に浮かんだものだ、思い上がりも甚だしい。


『最大の敵は慢心か……』


何かの本で読んだ一節をふと思い出した志穂は、

両腕をだらんと垂らしてそのまま地面に倒れ込む。


しかし、相手の攻撃はまだ終わっていない。


意識を失った志穂の頭に狙いをつけ、

十体目のヒトデの怪物が目前に差し迫っていた。

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