第275話 袈裟斬り

怪物の回転が次第に速くなり、強風が全身を襲う。


『くそっ、やっぱり無理か』


相手を目の前にして志穂のスピードが落ちて行く。


これ以上相手の回転速度が上がったら完全に押し返される……

と思った次の瞬間、怪物の動きが急に鈍くなった。


何事かと思い視線を上げると

腕の一本に、鞭のようなものが巻き付いていることに気づいた。


「藤堂さん! 今の内に!」


背中越しに山内の叫ぶ声が聞こえる。


どうやら、彼の得物が怪物の腕に巻き付き

回転速度が上昇するのを防いでいるようだった。


だが、怪物も負けじとエネルギーの出力を上げる。

ピンと張った鞭がグググ……と音を鳴らし、回転に巻き込まれそうになる。


「すみません! もう限界です!」


程なくして、伸びきった鞭が怪物から離れていく。


僅か数秒の時間ではあったが、

怪物の回転速度が最大になるのを防げたのは彼のおかげだ。


能力が使えないからといって、

つい先ほど共闘するのを諦めた自分を殴ってやりたかった。


このチャンス……絶対に逃すわけにはいかない。


空中で押し返されることなく怪物に接近することができた志穂は

口元に笑みを浮かべると、

炎をまとった右腕の鉤爪を大きく広げ、相手の身体を真っ二つに切り裂いた。

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