第274話 当機立断

怪物の上に乗っている柱を確認すると、

いつの間にか残り一本となっていた。


どうやら消化スピードもペースアップしているらしい。


『こいつと作戦会議をしても時間の無駄か』


山内に危ない所を助けられたのは紛れもない事実だが、

固有能力を発動できない……経験の浅い修復者と共闘して

このヒトデの怪物を倒せるとは到底思えなかった。


むしろ、足手まといになるリスクの方が遥かに高いだろう。


傷有り紅三の怪物を目の前にして他の修復者をケアする余裕がないことは、

今までの戦闘の中で嫌でも理解させられていた。


とすれば、今できる最善の一手は単身で怪物を始末することのみ。


「っ……!」


山内との会話を中断した志穂は、その場から勢いよく飛び出し

柱を消化中の怪物に突っ込んでいく。


消化中なら、相手から攻撃が来ることは無いと踏んでの行動だった。


今度は胃袋以外の場所に狙いをつける。

とにかく今は少しでも怪物へダメージを与えたかった。


右腕の鉤爪が地面とこすれ、摩擦熱で先端が赤熱化していく。


距離が半分まで迫ったところでヒトデの怪物を一瞥すると、

ちょうど最後の一本の柱の消化を終えたところだった。


破損個所は完全に回復しており、

腕に埋め込まれている白い珠がまた一つ黄色に点灯する。


『消化が終わっても、外に出した胃袋の回収にまだ時間がかかるはずだ』


そう思い一直線に怪物の元へ向かった志穂は

胃袋が、身体の中心で裂けている珠の中へ

あっという間に収納されていくのを目にする。


まるで伸びきったメジャーをボタン一つで巻き戻すかのような

俊敏な動きだった。


『ちっ、そこはハイテクなのかよ』


心の中で舌打ちをする。


怪物が仰向けの状態から起き上がり、空中浮遊をしたかと思ったら

直ぐに回転を始める。


このままだと、強風によって再度攻撃が止められるかもしれない。


「これ以上、時間をかけるわけにはいかねぇんだよ!」


ぐんとスピードを上げた志穂は

高温になって赤熱化した右腕の鉤爪を構え、

怪物の真正面から飛び掛かった。

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