第273話 突飛

怪物が膜の中に次々と柱を取り込み、消化していく。


一体あんなものを食べて何の意味があるのだろう?

と疑問に思っていたが、

破損した身体の一部が修復されていくのを目にした志穂は言葉を漏らす。


「アイツ、金属を取り込んで自己修復しているのか……」


「みたいですね。

 修復箇所がより厚みを増しているので、強化修復に近いかもしれません」


せっかく相手にダメージを与えたと思ったのに、

これでは振り出しに戻ったようなものだ。


いや……強化されている分、状況は確実に不利になっていた。


懐中時計の能力を発動してから五分が経過しており、

残されている時間も少ない。


流石に単独で怪物を始末するのは難しいと判断した志穂は

山内の申し出を受け入れ、

怪物の攻撃パターン、自身の能力について手短に説明する。


「とまぁ、こんなところだ。

 如何せん相手に攻撃が全く通らないからな、お互い協力する他ねぇだろう」


「わかりました」


「それじゃあ、今度はお前の能力について教えてくれ。

 得物が鞭で、自在に伸縮可能なものってことは理解してる」


「実は、そのことなんですが……」


山内が何か言いづらそうな表情でこちらを見ていた。


「なに、傷有り紅三の怪物だからって倒せない相手じゃない。

 お互いの能力の組み合わせによっては、良い打開策が生まれたりするもんだ」


「すみません。実は私、自分の能力が全く分からないんです……」


そう山内が言い放った瞬間、場の空気が一瞬で凍り付く。


「能力が分からない? どういう意味だ?」


「言葉通りの意味です。鞭の使い方は分かったんですけどね」


修復者が自分の能力について分からないなんて事が有り得るのだろうか?

様々な疑問が頭に浮かぶ。


「お前、修復者になったのは最近か?」


「えぇ。といっても八ヶ月くらい前になります」


「今までの扉の修復は、能力無しでやっていたのか?」


「はい、簡単そうなものを細々と」


「年齢も年齢なので、能力が無い人もいるのかなーって思ってました。あはは……」


自嘲気味に山内が笑う。

そんな人間がよく傷有り紅三の扉の修復をしようと思ったものだ。


経験が浅いゆえに、扉の難易度についての理解が不十分なのかもしれない。

何にせよ今の状況で分かったことは、

山内が戦力になり得る可能性が限りなく低いという事実だった。

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