第271話 アトラクション

右腕の鉤爪が白い膜に触れる寸前の距離でピタリと止まる。

それは別に志穂が自分の意志で攻撃を止めたわけではなかった。


どちらかと言えば、攻撃するのを何かによってはばまれた……

といった方が正しいだろう。


身体に違和感を感じたので顔を下に向けると、

腰にが何重にも巻き付いていることに気づいた志穂は、

思わず顔を曇らせる。


『いつの間に?』


何処から鞭が伸びてきているのかは分からないが、

自分の攻撃を中断させたのはこれが原因らしい。


『怪物の攻撃なら、ちょっとまずいかも』


この至近距離で熱光線なんて受けようものなら、

骨も残らないはずだ。


二度目の攻撃チャンスを逃してしまったことに対し、

次第に苛立ちを感じ始める。


「あぁ……もうそろそろ我慢の限界だ」


ドスの効いた声と共に、柱の下敷きになっている怪物を睨みつける。


ゆっくりと息を吐いては吸う動作を繰り返すと、

志穂の表情が別人になったかのように変わった。


『絶対にコイツを切り刻んでやる』


フラストレーションが爆発し、強い破壊衝動が頭の中を侵食していく。


とにかく今はこの鞭を切り裂くことが最優先だと考えた志穂は

右腕の鉤爪を大きく振りかざす……が

次の瞬間、鞭が凄い勢いで後ろに戻っていく。


それはまるで釣り竿のリールが釣り糸を巻き取っていく感覚に近い。


態勢が崩れ、為す術も無く身体が引っ張られる。


攻撃を急停止させられたかと思ったら今度は急発進……

さながら、テーマパークのアトラクションのような動きを見せた鞭は

志穂をそのまま暗闇の中へ引きずり込んでいった。

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