第270話 裂け目

薄っすらと視界が晴れてきたことを確認した志穂は

怪物の状態を確認しようと、一度下に降りる。


念のため十分な距離を取り、柱が落下した場所を凝視していると

ヒトデの怪物が複数の柱の下敷きになっていることに気づいた。


どうやら落下の衝撃により身体の一部が破損したようで、

ビリビリと電気が漏れる音と共に青白いイナズマのような光が散見される。


いくらあの怪物でも、今の状況で全ての柱を退けるのは難しいだろう。


熱光線で全て溶かされるのでは?とも一瞬思ったが、

身体の損傷により十分なエネルギーを溜めることができていないようだった。


『動きが止まった……?』


相手の猛攻がようやく収まったことを確認すると、

小さく息を吐き、左手の甲で額の汗をぬぐう。


正直なところ、休憩をして体力回復に専念したいところではあったが、

時計の能力の制限時間を考慮するなら

悠長に休んでいる暇はない。


今までずっと攻撃のチャンスをうかがっていたのだ……。

右腕の鉤爪をガチャリと鳴らす。


すると、身動きが取れなくなっている怪物に動きがあった。


怪物の身体の中心部に埋め込まれている珠が、

重なった柱の隙間から顔を覗かせていると思ったら、


何事かと思い、観察を続けていると

裂け目から白い膜のようなものが流れ落ち、

覆い被さっている柱に向かってジワジワと広がっていく。


「っ!」


直感的に何か良くないことが起きると判断した志穂は、

その場から飛び出し、裂け目ができた怪物の中心部に狙いをつける。


膜は、珠の真上に被さっている柱の一つをあっという間に包み込んでおり、

その姿はまるで水風船のようだった。


『よくわからないけど、変なことをされる前に終わらせよう』


怪物の内臓ないし弱点が外に飛び出してきたと仮定するならば、

こちらとしては好都合だ。


膜と中心の珠……まとめて処理するために

怪物が下敷きになっている場所まで一気に近づいた志穂は、

白い膜の上から至極色の鉤爪を勢いよく振り下ろしたのだった。

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