第269話 輸攻墨守

『こんなの、避けるだけで精一杯じゃないっ』


鉄骨梁の上を高速で移動し、

怪物の腕から連続で放たれる熱光線を何とか回避する。


志穂が通り過ぎた場所に怪物の攻撃が当たると、

鉄骨梁があっという間に赤熱化し、ドロドロに溶けていった。


自分の回避経路が先読みされないように梁から梁へジャンプし、

ジグザグに移動しているものの、相手の攻撃が収まる気配は一向にない。


『このままだと、建物が全壊するのも時間の問題ね』


そう思っていたら、前方に金属製の柱のようなものが鎖に繋がれて

天井から吊り下がっている箇所を発見する。


回避と移動をしながら周囲に視線を向けると、

同じように天井から柱が吊り下がっている箇所がいくつもあった。


『もしかして……』


とある作戦を思いついた志穂は直ぐに行動を開始する。


怪物と距離を取るように移動していたが

急遽方向転換し、怪物の真上に戻ってくるような動きを取る。


「あった!」


確証は無かったのだが、

怪物が位置取っている場所の天井からも、

複数の柱が吊り下がっているのを発見した志穂は思わず叫ぶ。


相手の攻撃が当たらないように必死になっていたので、

どうやら見落としていたらしい。


柱は全長約四メートルといったところで、

重量もかなりありそうだ。


光線が放たれるタイミングを見計らって、

ちょうど鎖の部分に怪物の攻撃が直撃するように移動すると、

こちらの思惑通り熱光線が鎖を貫通した。


程なくして、支えを失った複数の柱が次々と自由落下を始める。


怪物の攻撃は確かにやっかいなものではあったが、

志穂自身、何度も攻撃を避けている内に一つの規則性を見出していた。


それは、光線を放つ間隔である。


一見、無限に撃ち続けているように見える攻撃も

連続で放てる回数の上限は決まっているようだ。


現時点で確認した限り、その数は十回でほぼ間違いないだろう。


そして、次の攻撃が始まるまでには

約五秒の待ち時間が発生することも把握済みだった。


つまり、十回目の攻撃が終わってから、

次の十一回目に熱光線が放たれるまでには

僅かなインターバルがあるわけで、

その短時間に頭上の柱を落として、怪物を下敷きにしとうと考えたのだ。


自分の得物で相手を直接切り刻めないのは癪だったが、

近づくことが難しい以上、手段を選んでいる暇はない。


とにかく今は、確実にかつ迅速に怪物を始末することが最優先事項である。


仰向けの態勢になっていた怪物も、

流石に熱光線の攻撃が間に合わないと判断したのか、

再びスイッチを入れたかのように高速回転を始める……が、

重量のある複数の柱を吹き飛ばすほどの勢いを

まだ出せていなかった。


結果、志穂の作戦通り

次々と柱が怪物に衝突すると、建物内に大きな音と振動が響き渡る。


舞い上がった粉塵のせいで、

鉄骨梁から見下ろした視界は何も見えなくなっていた。

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