第266話 ヒトデ

「っ……!」


不意に頭上から怪物の気配を感じた志穂は

時計の能力を発動させると、後ろへ大きく飛び退く。


直後、先ほどまで志穂が観察していた容器の箇所一帯が、


大きな揺れと共に装置の破片が周囲に飛び散り、

ガラスの割れる音が響き渡る様を見て、

その何かが巨大かつ重量のあるものだと理解する。


考えるよりも先に身体が動いたから良かったものの、

一秒でも反応が遅れていたら今頃ぺしゃんこになっていたのは間違いないだろう。


ほどなくして、落下箇所から機械の駆動音のようなものが聞こえたと思ったら、

その落ちてきた何かが空中を浮遊しながら姿を現す。


……


…………


一言で表現するなら、

ヒトデの形を模した巨大な機械生物と言ったところか。


全身がシルバーの金属パーツで構成されており、

五本の腕が星形を作るように身体の中心から伸びていた。


また、それぞれの腕の先端と身体の中心には

真珠のような白い珠が埋め込まれており、

特に中心の珠はひと際その存在感を放っていた。


腕の長さは約六メートル、幅は一メートルくらいのサイズ感があり、

これが上から落ちてきたのだから装置が粉々になるのも頷ける。


どういった原理でこの巨体が浮遊しているのかはわからないが、

傷有り紅二の怪物とはまとっているオーラが明らかに違うのを肌で感じた。


そう……これだ、自分はこの感覚を味わいたかったのだ。


勝てるかどうかわからない、

むしろ勝てない可能性が高い怪物との命懸けの対峙……

これほど心躍るシチュエーションはそう経験できるものではない。


「まずは、お手並み拝見といこうじゃない」


至極色の懐中時計を鉤爪に変化させた志穂は、

撃ち出された弾丸のようなスピードで怪物に先制攻撃を仕掛けたのだった。

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