第265話 機械生物

「なに……これ……」


うっすらと緑色に光る場所へ辿り着いた志穂は、

その光源の正体を見て思わず言葉を漏らす。


そこには高さ二メートル、直径一メートルはありそうな巨大な円柱の容器が

通路を挟む形で等間隔にいくつも並んでいた。


容器の中は緑色の液体で一杯になっており、

どうやらこの液体自体が自ら発光しているようだ。


何か既視感を覚えたのでずっと頭の中でその正体を探っていた志穂は、

学生の頃、理科室で見たホルマリン漬けの生物標本を思い出し

ちょっとだけスッキリした気持ちになる。


道に沿って順番に容器の状態を確認していると、

表面のガラスが割れて壊れているものや、

液体しか入っていないものが大半だった……が、

その内の一つの容器の前で足を止める。


『犬……なのかな?』


容器の中にようやく生物らしいものを見つけた志穂は、

じっと目を凝らす。


ぱっと見た感じは足の長い四足歩行の生き物のようにも見える。


犬っぽいと言えば犬っぽいのだが、

これはあくまでも見た目の話であり、

この生き物が犬じゃないことは間違いなかった。


というのも、容器の中の生き物?は全身が金属のパーツで構成されており、

生物の形を模した機械に他ならなかったからだ。


また、完全に犬を模倣しているなら頭のパーツがあってもいいと思うだが、

少なくともこの機械には頭部がなかった。


全身にはタコ足のようにケーブルが何本も刺さっており、

何とも不気味な雰囲気を漂わせている。


ちなみに、容器の底から空気の泡がボコボコと湧き出ていたので、

この装置はまだ動いているようだが、怪物の気配は一切感じない。


ここは、工場でも倉庫でもなく、

機械生物の研究所?のような役割を担っていたのだろうか。


だとすれば、今回の異界は随分と近未来的な場所だなぁと感心する。


容器の中を観察していた志穂の頭上……建物の天井付近では、

黄色い光が五角形を描くように点滅していた。

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