第264話 倉庫

ゆっくり目を開けると、視界がやけに暗かった。


実界ではまだ昼過ぎだったので、

今回辿り着いた異界の時間帯は夜なのかもしれない。


そんなことを考えながら周りをぐるっと見渡した志穂は、

自分が屋外ではなく建物の中にいることに気づいた。


広さとしては何処かの物流倉庫くらいはありそうで、

錆びついた装置や埃を被ったサーバーのような機器が無造作に並んでいる。


設備が使われなくなってから相当な時間が経っていることは容易に想像できた。


『何かの生産工場か、倉庫か……大穴でデータセンターかな』


現時点では、この建物が一体どんな役割を果たしていたのか

皆目見当がつかなかった。


とりあえず、もう少しこの異界の情報を集めようと散策を始めた志穂は、

カンカンと金属の響く音が聞こえたので足を止める。


足元を確認すると

連続して長孔が空いている銅版、有孔銅板が床一面に敷かれていた。


どうやら自分が歩くたびに、この音が鳴る仕組みになっているらしい。


今のところ怪物の気配を感じないので

そこまで気にする必要はないかもしれないが、

なんとなく自分の足音を響かせたくなかった志穂は

足の指先に力を込めて静かに移動を始める。


周囲の暗さに目が慣れてきたこともあり、

範囲を広げて散策を続けてみたものの、

依然としてこの場所に関する有益な情報は得られないままだった。


似たような景色ばかりが続き、

どうしたものかと考えていると

約二十メートル前方にある、錆びれた装置の裏側から

淡い光が漏れていることに気づく。


うっすらと周囲を照らすその緑色の光が、

この建物内の光源の役割を担っているのだろうと察した志穂は、

まずはそこを目指してみることにした。

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