第263話 意気軒昂

目の前に、ひびの入ったスチール製の扉が姿を現す。


くすんだ青色を基調とし、

一切飾り気のない無骨なデザインは異様な存在感を放っていた。


そして何よりも目を引くのは、

扉の周りに配置されている紅い水晶の数である。


『傷有りの扉……』


全部で四つある水晶の内、三つが紅色に点灯しているのを確認した志穂は

思わず口元に笑みを浮かべる。


やはり自分の直感は間違っていなかったようだ。


扉の難易度は紅い水晶の数が増えるほど上がっていく……

つまり、今回の扉は紅二以上の怪物と出遭える可能性が高い。


自分の実力を試すのに、これほど御誂おあつらえ向きの扉もないだろう。


前回志穂が苦戦した怪物といえば

火月と共闘したゴーレムのような怪物だったが、

あれはあくまでも二人で倒したものだ。


自分が苦手とするタイプの怪物を

今度は一人で相手にしようと意気込んではいたものの、

残念ながらその機会は今日まで訪れなかった。


しかし、紅三の扉を修復すれば

あのゴーレムを一人で倒す以上の実力があることを証明できるはずだ。


胸の高鳴りを抑えきれなくなった志穂は、

一度深呼吸をして心を落ち着かせる。


誰かが通路にやってくるような気配はなかったが、

この扉の出現を他の修復者たちが感知しているのは間違いないだろう。


となれば、自分一人で怪物を相手にできる時間は限られる。


応援が来る前に怪物を始末する……

初めての難易度の扉に時間制限付きで挑むようなものだが、

これくらいの縛りがあった方が面白いというものだ。


「やってやろうじゃない」


そう一人呟いた志穂は、開かれた扉の中へ歩みを進めたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る